旅立ちと出会い
「では行くか」
ドラゴンは体を動かし、洞窟の空間の出口を見た。
「それはいいけど、ハーカはこの洞窟を出られるのか?」
共通の目的ができ、警戒心が溶けて話し方も緩くできた。
「簡単なことだ」
そういうと、ハーカの体が光り、ノラスの腰くらいの大きさになった。
「お、おお」
小っちゃくなったハーカを見ると、なんだか変な気分になった。
さっきまでとの差が大きすぎる……。
などと考えているうちに、ハーカは洞窟の出口へ飛んでいった。
「お、置いてくなよ!」
ノラスは走って追いかけ、そのまま洞窟の外に出た。
「さ、行くぞ」
ハーカは元の大きさに戻り、飛んでいこうとした。
「ま、待って!」
「何だ」
「俺は走っていけって言うのかよ」
「人間を乗せろと!?」
「やっぱり、嫌なのか?」
「当たり前だろ!なぜ私が人間を……」
「でも、そうしないと移動できないぞ」
そういうと、ハーカは心底嫌そうな顔をし、唸り声を上げながら体をのけぞらせた。
「分かった……。これが最大の譲歩だ」
ハーカは姿勢を戻し、その大きな手を差し出してきた。
「あれ、村じゃないか?」
ハーカの手の上に乗っていると、遠くに小さな家が見えた。
「そのようだな」
「一旦降りて近づいた方がよくないか?」
上を向き、ハーカの方を見て言った。
「なぜだ」
「このまま村に行ったら驚かれるどころじゃすまないだろ」
「ちっ、面倒な」
高度が落ち、手から地面に降りた。
「とはいえ、これでも目立ちすぎだな……」
地面に降りたところで、ハーカのデカさはあまりにも目立ちやすい。
「なんとか透明になれたりしないのか?」
「できるわけないだろ!ドラゴンが姿を隠すなど、みっともない」
「なら……。人間に変身するとか」
「はぁ!?我に!?人間に変身しろと!?」
ハーカは凄い剣幕で怒鳴った。
「で、できないわけではないんだな」
即できないと否定しないあたり、透明化のようにできないわけではないらしい。
「変身できることとそれによる不快感は別だ!人間を乗せた上に、人間に変身しろと……」
「でも、もし村の人にドラゴンの存在がバレたら大騒ぎになる」
「分かった……。っぐう……。屈辱だ」
ハーカが顔をしかめながら目を閉じると、体が赤色の光に包まれた。
眩しさに目を閉じ、光が収まってから目を開けると、そこには。
一人の少女が立っていた。
「……え?女?」
目の前に立っているのは人間の女だ。
髪色は赤、ロングツインテール。
目は瞳が爬虫類のようにひし形を滑らかにしたような感じで、虹彩はオレンジ色。
胸は大きく、身長も自分より少し高い。
背中に小さな翼と、腰の後ろから尻尾が見える。
服は白い布を纏っていて、ミステリアスな雰囲気すらある。
「ハーカって、女だったのか……?」
驚きを隠せない。さっきの声からして、男にしか思えなかったからだ。
「女で何が悪い」
ハーカはムッとした表情になった。その声はさっきまでの低い声とは打って変わって、年相応の、むしろ少し高いくらいの女の声になっていた。
「い、いや別に!」
「ならいい、さっさと行くぞ」
ハーカはさっさと歩き出した。
「尻尾と羽はしまえないのか?」
ハーカを追いかけながら尋ねた。
「ちっ、仕方ないな」
そういうと羽と尻尾が引っ込んだ。
「おお」
「この姿は不快感もそうだが、狭っくるしい。早いところ村について隠れ家を見つけるぞ」
「狭っくるしい?」
「そうだ。元の私のサイズを考えてみろ。こんな窮屈な体に無理やり押し込めているんだそ」
「そういうことか……。というか、一人称変わってないか?」
「人間に合わせてやっているんだ。感謝しろ」
人間を見下しているのは相変わらずのようであった。
「話は終わりか?なら早くついてこい」
ハーカについていきしばらく歩くと、村の近くまでたどり着いた。
が、着いた瞬間に違和感を覚えた。
「静かすぎない?」
「……そうだな」
ハーカも違和感を覚えているようだ。
今の時間帯は夕方。人で大いににぎわっていてもおかしくない。
「ん?」
ハーカの耳がぴくっと動いた。
「どうした?」
「人間の雰囲気だ。行くぞ」
ハーカは村の中心の方に歩ぎだした。
ハーカと共に中心に近づくと、人影が見えた。
「あれは!?」
中心には兵士が二人。
声は聞こえなかったが、剣士らしき人物から物を奪おうとしていた。
遠くてよく見えないが、剣士の身長は低めで、黒髪のポニーテールであることは分かった。
剣士は抵抗しているが、勝てそうにない。
兵士の特徴的な、黒の鎧。見覚えがある。
「ガルアス!」
ハーカは怒りを込めて呟くと、次の瞬間には右の手のひらを兵士一人の方に向けた。
俺が止める暇もなく手のひらから凄まじい火炎放射が発生した。
火炎放射は一直線に、燃え上がりながら進み、剣士の頭上を越えて兵士に当たった。
兵士は跡形もなく消え、辺りには煙の臭いが漂った。
もう一人の兵士はこちらに気づいたようで、ハーカの方を見ておののいた。
「な、なぜ貴様が……」
兵士が言葉を挟む暇もなく、ハーカはもう一発火炎放射を放ち、兵士を消し去った。
「……クズが」
ハーカはそう呟き、手を下ろした。
しばらく静寂が流れた後、剣士が遠くから、こちらを見た。
「あ……」
剣士はあっけにとられていて、声も出ないようだった。
「えっと……。その、怪しい者ではないです」
ひとまず落ち着いてもらわなければ。
「あなたは、もしやノラス王子では!?」