風と再燃
ノラスとミインの戦いを、遠くの山、その木の上から見ている少女がいた。
「……」
その少女は静かにノラスの方を見据え、そしてミインの方も見た。
木が風で揺れる音があたりに響き、少女の髪も揺れていた。
「戦ってくれるんだ。嬉しいなあ」
ミインは笑顔で言った。
ノラスたち3人の手が合わさると、炎の円柱が立ち上った。
そして炎は中心にあつまり、魔龍合体したノラスが現れた。
「ふふ……。行くよ」
ミインの姿が消えたかと思えば、すぐにノラスの後ろに風と共に現れた。
「え!?」
ノラスはすぐにその方向を向き、防御しようとした。
が、ミインはまたその後ろに回った。
「な……」
「遅いね」
ミインは風の勢いを乗せ、ノラスの腹に重い一撃を浴びせた。
「がぶっ……」
ミインの体から放たれるとは思えない、重い一撃にノラスは吹き飛ばされ、地面に落ちた。
「簡単に殺しちゃつまんないからね。いっぱい痛めつけてあげる」
「ぐうっ……。はあああああっ!」
ノラスは口から強力な火炎を放った。
「ふふ、がんばるね」
ミインは手から風を巻き起こし、簡単に打ち消してしまった。
「な……」
「何……!?」
「そんな……」
今のは全力の一撃だったが……。全く効いていない。
ノラスだけでなく、ハーカ、イルレも衝撃を受けた。
「……あ」
ノラスは気が引けたが、それを振り払い、再び空に舞い上がった。
「まだだ……。魔法が効かないなら、直接だ」
ノラスはミインに接近し、右手の拳を繰り出した。
が、あっさり止められてしまった。
「ぐっ」
ノラスはすぐに蹴りを繰りだした。
それも強い風が吹き、ノラスは吹き飛ばされた。
「ぐうう……」
「まだ楽しめる、かなあ」
「ふざけるな……」
まだ戦える。だが、どうすればいい……。
炎も効かない。物理攻撃も効かない。一体どうしたらいい。
「もう、なにもできない?」
ミインは余裕ぶって尋ねた。
「ぐっ……」
「じゃあ、もう終わりにしちゃおうか」
ミインは手を弧を描くようにして何度も動かし、空気の刃をいくつも作りだした。
「じゃあね」
空気の刃が高速で向かってきた。
早すぎる。避けきれない。
「クソっ!」
ノラスは全力で火炎を吐き出した。少しでも勢いが弱まれば……。
だが、空気の刃は止まらない。
「……あ」
空気の刃はノラスを次々切りつけた。
火炎のおかげでなんとか、致命傷は避けられたが、あちこちに裂傷を負った。
「へえ、耐えるんだ。じゃあ、僕が直接やっちゃおうかな」
ミインはナイフを取り出した。
「直接、刺してあげるね」
ミインは風に乗って接近してきた。
「ぐ……」
体のあちこちが痛い。うまく動けない。
(まだ……。終われない……)
と、次の瞬間。
ノラスとミインの間にちょうどノラスを囲うくらいの竜巻が現れた。
竜巻はそのままノラスを包み、どこかへ飛んでいった。
「……また、邪魔してきた」
ミインは誰もいない空で、歯を食いしばった。
「……起きて」
ノラスが目を開けると、そこには少女がいた。
白色のコットを着た、銀髪の少女だ。
「ミイ……ン」
ノラスは始め、ミインが殺しに来たように見えた。
「私はミインじゃない」
「え?」
「私はテイン。あなたに、ミインを倒してもらうためにここに来た」
「倒して……。って、ハーカとイルレは!?」
「そこにいる」
ノラスが目をやると、2人が寝ていた。
「あなた一人で、強くなってもらわなければならない」
「え?」
「だから、一旦お別れしてほしい」
「そんな!」
ハーカとイルレ。短い間ではあるが、ここまで共に旅をしてきた。
別れるなんて、想像できない。
「あなたには一人で、強くなる時間が必要」
「そんな……」
「もう少しで起きると思うから、話しあって。明日にはまたここに来る」
「……」
「一つ言えることは、今のあなたたちではミインには勝てない。それだけ」
ノラスは何も言い返せなかった。
「それじゃ」
テインがそういうと突風が起き、ノラスが思わず目を閉じると、次の瞬間にテインはいなくなっていた。
「……ということなんだ」
少しして起きた2人に、ノラスはこのことを話した。
「そんな……」
一番ショックを受けているのはイルレのようだった。
「ちっ。誰だか知らないがはっきり言いやがる……」
ハーカは「勝てない」と言われたことにイラついているようだった。
「ノラス。お前自身はどうなんだ」
「……本当に強くなれるなら、別れるべきだと思う」
「そうか」
ハーカはそれで、何も言わなくなった。
「本当にいいんですか!? 誰とも知らない人の話を信用して」
「多分、嘘ではない、と思う。もし俺たちの敵なら、ほっとけばよかったんだ。そうすればミインが倒してくれたはず」
「……そう、ですけど」
「それに」
ノラスはカイレからもらった腕輪が壊れていることに既に気づいていた。
腕輪は焼け焦げ、宝石にひびが入っていた。
「腕輪がこれじゃあ、このまま戦ってもどうしようもない」
「……でも、その間私はどうしたら、いいんでしょうか」
「……姉さんのところに行ったらどうかな」
ノラスは少し間を置いて、そう言った。
「シャルスさんのところに?」
「うん。腕輪ももしかしたら治してもらえるかもしれない」
「そう…ですね。でもやっぱり、少し寂しいです」
「永遠の別れってわけじゃないさ。また会える」
「……分かりました。絶対、死なないでくださいね」
「ああ」
と、ハーカはドラゴンの姿になった。
「ハーカ?」
「……我もあいつのところへ行く。単独ではあいつの方が我よりも強い。……今はどうこう言ってもいられない」
「あいつって、ロインか?」
「ちっ……。そうだ。さっさと乗れ、イルレ」
「は、はい」
「待って」
「なんだ、ノラス」
ノラスは、拳を差し出した。
「これ、もう一度やっておかないか?」
「……ああ、そうだな」
ハーカは振り返り、拳を差し出した。
「これは?」
「俺とハーカが初めて会ったときにしたんだ。イルレも、やってほしい」
「もちろんです!」
3人は拳を合わせた。
「じゃ、またね」
「ノラス。せいぜい死なないようにな」
「そっちこそ」
ノラスとハーカは笑いあった。
「ノラス王子、絶対また、会いましょうね」
「ああ!これも頼む!」
ノラスは壊れた腕輪を投げた。
ルインはそれをキャッチし、ノラスを見た。
「カイレ様によろしくな!」
「はい!」
ハーカは飛び立っていった。どんどん姿は小さくなり、見えなくなった。
また、会える。そう思っても、ノラスのほほには一滴だけ、雫が垂れた。




