009 同郷のよしみ
「ほんとかわいいなぁ……」
さくらとフィアナは手を繋いで歩いている。
言葉は通じないが、2人とも仲良くなりたい意志が伝わって、ニコニコした様子を見せていた。
「さっきからフィアナちゃんがぶつぶつ言ってるけどなんて言うてんの? はよ、言葉覚えたいわぁ」
「あ、ああ……」
「黒髪かわいい、黒髪かわいい、黒髪かわいい……ふひひ」
これは絶対に通訳したくない。
フィアナの黒髪フェチも筋金入りっぽいな。
フィアナは笑顔だが俺とさくらで違うものが見えてるに違いない。
◇◇◇
「ここやで~、入って入って」
さくらの住んでいる所は隣の地区にあるマンションの中の一画だった。
「ただいま!」
「ねーちゃん、お帰り」
玄関で声をかけたさくらに対して小さな子供の声が返ってくる。
足音が近づいてきた。しかし1人ではない、2人の足音が聞こえる。
現れたのは5歳くらいの男の子と女の子だった。
「黒髪がいっぱい! ここは天国?」
「日本に行けば腐るほどいるぞ」
戯れ言は放っておこう。2人はさくらの弟と妹だろうか。
「涼也、涼花。ただいま」
なるほど、双子ってわけか。確かによく似ている。
男の子の方が俺の方をじっと見ていた。
「ねーちゃんが男連れてきたぁ! かーちゃん、姉ちゃんが彼氏連れてきたでぇ!」
「このバカ何言ってんの!」
てててと涼也は奥の方へと去ってしまった。
何となくお約束の流れな気がする。
「元気な弟だな」
「そーなんよ。もう!」
「わ~~~、お姉さん、お姫様みたい」
妹の方の涼花がフィアナを見て、目を輝かせていた。
日本人からすればこのフィアナの美しさは物語のお姫様のような感覚だろう。
「こんにちは!」
フィアナはサルヴェリア語で挨拶をするがさすがに……。
「こんにちは! 涼花って言います」
「わぁ、サルヴェリア語、お上手!」
驚いたな。
発音はつたないが、しっかり喋れるじゃないか。
「すごいやろ。わたしの弟と妹はサルヴェリア語をそこそこ喋れるんやで」
「さくらは?」
「……」
自慢気に語るさくらに無常な言葉を告げると言葉に詰まらせる。
「しゃーないやん。あの子達は語学教室通う時間があるけど、わたしは中学忙しかったんやもん」
「あら……こんにちは。日本の方でいいのかしら」
さくらによく似た壮年の女性が現れた。
「お母ちゃん。迷子になってた所をこちらの零児くんとフィアナちゃんに助けてもらったよ。御礼に朝ご飯をごちそうしたくて」
「もうあんたは……どうせスマホ持っていくの忘れたんでしょ。そそっかしいんだから」
「うっ」
さすが母親、バレバレだな。
さくらは罰が悪そうに詰まる。
「娘を助けて頂きありがとうございます。大したおもてなしは出来ませんがゆっくりしていってください」
「いえ、朝のお忙しい中申し訳ありません。自分も同郷の方と仲良く出来て楽しいです」
「まぁ、お若いのにご立派ね。さくらも見習わないとね」
さくらのお母さんはフィアナの前に立った。
「娘をありがとうございます」
「はい! さくらとお友達になれて嬉しいです」
さくらのお母さんもサルヴェリア語でフィアナに声をかける。
「さくらのお母さんもサルヴェリア語を喋れるのか」
「わたしのお母ちゃんは通訳の仕事してるんよ。本業は英語やけど……サルヴェリア語もちょろっと」
「当然父親は出来るだろうし、もしかしてまったく出来ないのは……さくらだけ」
「言わんといてぇ! すぐ覚えるもん!!」
からかいすぎてついつい、怒られてしまった。
◇◇◇
「よーし! ホットケーキ焼くからゆっくりしててや」
さくらは長い黒髪を後ろに一纏めにし、エプロンに身を包む。
可愛らしい顔立ちをした子のこういった一面はぐっと来る。
許婚がいる上でこんなこと思ってはいけないが……さくらは実際相当にかわいい子だと思う。
中学が一緒だったら相当話題になっただろう。
「なに?」
「いや、なんでもない」
じっと見てしまったようだ。危ない危ない。
さくらのお母さんは用事があるため外へ出て行き、弟と妹はフィアナと遊んでいた。
フィアナが2人をぎゅーと抱きしめて、お話をしていた。
イラストブックで何か絵を書いているのか。
「さくら、手伝うぞ」
「お客さんなんやからえーよ。もしかして零児くん、料理得意なん?」
「ああ、日本にいた時はずっと自炊してたからな。それよりさくらが料理できることの方が驚きかも」
「何てこと言うんや、零児くんにはわさびたっぷり焼きが必要やね」
棚からホットプレートを取り出し、電源ケーブルをコンセントを繋ぐ。
サルヴェリアはコンセントの形も電圧値も日本と同じなので流用できる。
台所に向かった俺とさくらでホットケーキのタネの準備をする
「昨日来たって言ってたわりには片付いてるな。まぁ……ダンボールはあるけど」
「この家はねお父ちゃんが住んでたんよ。去年からサルヴェリアの公的な所で働いていて、しばらく帰れへんから家族を呼び寄せるって形になってん」
「元々住んでいたってことか」
「うん、お母ちゃんとチビだけ先に行かせて、卒業式を待って、わたしだけここに来たんよ」
一般的な話だな。
母親も通訳などで海外経験も豊富。双子はまだ小さいから現地の日本人学校に行かせられるってことか。
そうなると……。
「さくらはどうして来たんだ? わざわざこっちの高校に通う必要はないだろ」
よっぽどの理由がなければ高校生にもなれば1人暮らしができるし、寮生活することだってできる。
例えは悪いが漫画でよくあるじゃないか。親が海外に行って、家で子供だけで暮らしてる話、そっちの方がラブコメが始まったんじゃないか。
親と一緒に海外行く方が珍しい。
「それを言うなら零児くんもやろ」
「俺はまぁ……理由があるんだよ」
「ふふ、実際、それも考えたけどね。でもわたしは家族で一緒に暮らしたかったんよ。チビ達の成長も見たかったし」
「……そうなのか」
「3年通って……日本の大学行くか、こっちの大学にするかはまた決めるつもりよ。海外の学校なんてなかなかいけへんしな」
「そのためにはまず言葉を何とかしないとな……」
「はぁ……大変やわ」
ホットケーキのタネも出来て、ホットプレートの前へ行く。
「涼也、涼花、何枚食べる?」
「おれ2枚!」
「わたしも2枚!」
「零児くんは?」
「3枚もらうかな」
フィアナは言葉が通じないだろうし、俺が聞くか。
「フィアナ、食べる枚数を教えてくれ。スケッチブックに数字を書けば分かるぞ」
「あ、は~い」
フィアナは数字を書いて、ばっとさくらに見せた。
「は、10枚!? マジ言うてんの!?」
大食いだってことを言うの忘れてた。
親が海外に行って一人暮らしする男子高校生が主人公ってラブコメ作品は山ほどありますが、両親と一緒に海外へ行く学生ってどこまでいるんでしょうね。ちょっと気になります。
明日もさくらの家でのお話です。この国の事情が語られます。




