005 銀髪美少女は日本がスキ?
「許婚か」
食事の後、自室に戻った俺はさっきまでのやりとりを思い返す。
このまま順当にいけば……フィアナと結婚するということだ。
しかもフィアナは好意的に接してくれている。
このまま時が過ぎればあの笑顔を俺のモノに……。
「ってアホか」
女に惑わされてんな。
鍛え方が足りないのかもしれない。明日からトレーニングを積まないと……。
それにフィアナはまだ隠していることがあるようだ。
全てを信じて……バカを見るのだけは避けたい。
だけど親父が頼んで来たあの件。
……多分この子がそうなんだろう。
「ま、なるようになるか」
「レイジ、ちょっといいですか」
「っ!」
扉をノックする音と一緒に聞こえるフィアナの澄んだ声に俺の胸がざわつく。
「ああ……いいぞ」
動揺を抑えて答えた。
「すみません」
「っ!」
フィアナは銀の髪を1つにまとめており、ピンク色の可愛らしい寝間着姿となっていた。
風呂上がりなのか、銀の髪はしっとりしていて、整った小顔は少し紅潮しているようにも見える。
サルヴェリアのイチローの効果でこの国のお風呂文化は日本とまったく同じだ。
浴槽に貯めたお湯にじっくりとつかる、温泉も大好きだ。
この国の北の方には温泉街もある。
「な、なんだ」
「……レイジとお話がしたくて」
「いいけど」
嫌とは言えないが、気安くいいよとは言えない。
塩対応気味なのが少々申し訳ない。
こういう所をもう少し直していくべきなんだろう。
「レイジに伝えたいことがあるんです」
「まだあるのか?」
フィアナは頷く。
頷き一つとっても魅力的に感じてしまうのはズルい。
「私が許婚を受け入れた理由として他にもあることをお話ししたくて」
「ああ、メシの時に途中になってたっけ」
「レイジに言わないといけないこと……それは」
「それは?」
「私が日本好きだってことです!」
フィアナは言ってやったぜみたいなポーズを取る。
「はぁ?」
だが……そのやった感はかわいい以上のものが伝わらなかった。
するとフィアナは手に持っていた一冊の本を取り出し、俺に見せる。
「これ……日本で作られた本なんです。サルヴェリア語で翻訳されてますけど」
「えっと……【同じクラスの天女様と何もない俺が一緒に暮らす話】。ああ、ラノベか」
「レイジも知ってるんですか?」
「中学の時の友人にオタク趣味のやつがいてよく語られたよ。この作者、お米炊子だったか。この作者のファンってよく言ってたし」
「ほんとですか!」
「うおっ」
フィアナの目がキラキラして、俺の手を掴む。
「私のこの趣味はちっちゃな時にマッキーが持ってきてくれた1冊の漫画から始まったのです」
「また親父か……」
「それからサルヴェリアで翻訳されたラノベや漫画を読んで……感動して、私……」
フィアナはそっと微笑んだ。
「日本に行ってみたいんです」
「あっ……」
フィアナの声色から日本への憧れがすごく伝わってくる。
「日本の言葉を勉強して……生の言葉で聞いたり喋ったりしたい。だからレイジの側にいれば日本に関われる! そうも思ったんです。だから私に日本語を教えてください」
「あ、ああ」
「やった!」
本当に嬉しそうな顔をする。
それほどまでに日本の文化に興味があるんだろう。
何だかちょっと嬉しく感じる。俺はサルヴェリアより日本を母国と感じているからだ。
だったら。
「フィアナ」
「はい?」
「日本にいた時の友達が餞別でアニメのBDをくれたんだ。見るか?」
「見たいです!」
幸い、部屋にはテレビが置いてある。
親父に買って貰ったゲーム機はBDの再生機能があるmpで日本から事前に郵送しておいたダンボールを開梱し、さっそく取り付けてみた。
後ろで期待に胸を膨らませてるフィアナの姿に笑みが出てしまう。
俺にはそこまでオタク趣味はなく、友人の話を聞いて楽しむくらいだったが……、この日のためだった思うとありがたいな。
さっそく電源を入れてみた。
ゲームソフトも何個かあるし……フィアナを誘ってプレイするのはありかもしれない。
「あ、この作品、ネットで知ってます! サルヴェリアにはBDで展開されてなかったかな……」
「字幕でサルヴェリア語があるみたいだな。字幕流すぞ」
「お願いします!」
日本では有名な学園ファンタジーアニメだ。
俺は一回友達の付き合いで眺めているので話の内容は知っている。
……隣で嬉しそうに眺めているフィアナの顔を見ている方が楽しいかもしれん。
「この主人公、レイジに似てますね。黒髪で黒服で人を寄せ付けなさそうな雰囲気」
「やめろ、俺を陰キャにするんじゃない。陽キャでもないけど」
この作品は珍しく1クール分全てがBD1枚に入っていた。
そのため全部見るにはかなり時間がかかる。
2人でのんびりとアニメ観賞を始めた。ちょっといい雰囲気でお互い感想を言い合う。
何話か視聴した後、全部見るのは時間的に厳しいか。
なんて思い始めた頃に肩に何かが当たる。
「おい、フィアナ」
「すぅ……」
俺の肩に無防備にも頭を乗せてきたのだった。
可愛らしい寝息を立てている。
「おいおい……」
そうか、俺と違って昼寝はしてなかったみたいだし……飛行機に乗っていたなら疲れていてもおかしくはない。
フィアナの肩を揺らすが起きる気配はない。
「エロいことされるとか1ミリも思わないのか?」
ゆるゆるの寝間着なんか着やがって……。
豊かに育った胸元とか見えてしまいそうだ。
……男と思われてないのだろうか。
「ったく」
さすがにこの部屋に寝かせるわけにはいかない。
フィアナを抱っこし、一階へと向かう。
まだ母さんは起きているだろうし託そう。……フィアナの部屋がどこかわからんから運び先も分からないし。
「レイジ……」
「っ」
「一緒に……日本へ」
「寝言かよ、紛らわしい」
本当にフィアナが望むなら許婚とか関係なく……。
高校卒業したら一緒に日本に来るか? と誘ってみてもいいかもしれない。
一階に降りる前にもうちょっとだけフィアナの寝顔を見たい、そう思った。




