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004 許婚

「許婚……?」

「はい」

「10年ぶりにサルヴェリアに来たから翻訳が間違ってるかもしれん。許婚の意味を教えてくれないか」

「双方親同士が合意して決めた結婚のことですね。私とレイジの関係をいいます」


 うーん、間違いないな。

 俺の知っている許婚の意味とまったく変わりない。

 許婚と同意味のサルヴェリア語があるから……間違いようもないはずなんだが……違うと思いたかった。


「俺は聞いていない」

「へ?」

「俺はフィアナと許婚なんて……聞いていない」

「そうですか。そんなことは後にして、とりあえずご飯食べにいきましょ!」


 フィアナはうっきうきで立ち上がる。そのまま俺を置いて部屋から出て行った。


「あんた結構調子いいな」


 さっきまで触れていたフィアナの頬の感触がまだ手のひらに残っていた。


 まだ頭に変なビジョンが残っている。

 それは俺の手を頬に乗せて、嬉しそうに笑うフィアナの姿だった。


 あんなの見せられて……動揺しない男はいねーよ。




 ◇◇◇



「ご飯をよそうわよ~~。みんなどれだけ食べる?」


「あたしは普通で」

「じゃあ、俺は大盛りで」


 一階の食卓テーブルの4人用で夕食が並べられていた。

 母さんにはさっきのシャロンの戯れ言の詳細を聞かないとな……。

 もちろん先にメシを食ってからだ。


「フィアナはどう?」

「特盛でお願いします」


「特盛!?」


 隣に座るフィアナの茶碗に大量のご飯が山のようになっていた。

 その量に驚愕する。


「た、食べきれるのか?」

「きゅーちゃんがあれば何杯でもいけます!」


 ああ、深皿に山盛りになってるキュウリの漬物のことか。

 日本から輸入してるやつだよな。


「フィアナは健啖家なの。あたしとママの2人分よりも食べるわよ」

「マジか……」

「あ、レイジ……食べる女の子ってダメですか?」


 楽しみにメシに手をつけようとするフィアナの手が止まる。


「母さん、俺も特盛りで」

「レイジ?」

「食えるってのは才能なんだよ。我慢なんてもったいないことをするな」


「はい!」


 俺の元にも山盛りのメシ茶碗が出てきた。

 俺も食える方だが……これはちょっと食い切れるだろうか。


 ちらりと横目でフィアナの姿を見る。


「おいしぃ~」


 もぐもぐ器用に箸を使って白飯を食べていく。

 美味しそうに食べるな。飯を食べる時が至高の時って感じの顔だ……。


 そういや母さんがメシの作りがいがあるって1週間に1回の連絡で言ってたっけ。

 詳細は聞かなかったがフィアナに作っていたのかもしれない。


 しかしそれだけ全部細いくせに……飯のエネルギーはどこに行くんだ。


「レイジ? どうしました」

「いや、その大量の飯は……あんたのどこにいくのかなって」

「どこでしょう……?」


 あれか……服の上からでも分かるほど盛り上がっている胸に行っているのか。

 それとも。


「大量の便に出してんのか」

「むほっ!」


 ご飯を頬張ったらフィアナは吹き出せずむせる。


「ちょっとお兄ぃ……。ご飯中!」

「すまん」


「むーー! むーー!」


 ご飯を頬張ったままのフィアナが涙目でポカポカ叩いてくる。

 さすがに失礼だったかもしれん。


「ふふ、レイジもフィアナもすっかり仲良くなったね~。これなら安心かな」


 母さんも食卓椅子に座り、食事を取り始めた。


「しかしまぁ……」


 今日の晩飯はご飯に鯖の塩焼き、ポテトサラダ、きんぴらゴボウに味噌汁。


 日本ならありきたりな晩飯だが……サルヴェリア王国まで来てなぜ和食を食べているんだろうか。


 目の前には金髪で欧米系の顔立ちの女が2人いて、隣には銀髪の欧米系がいる。

 こいつらが箸を律儀に使って、和食を食べているギャップが何とも言えない。


「なんつーか、母さんやシャロンが箸を上手く使えてるのが……俺からすればおかしな光景だよな」


「仕方ないじゃん。サルヴェリアで生まれた以上……みんなそうなんだから」


 シャロンの言い分も分かる。分かるけど……やっぱり妙だ。


「まぁ、お爺ちゃんやお婆ちゃんの世代ならまだしも……私達の世代はイチロー世代だからね」


 イチローといえば野球選手のイメージしかないと思うが、このサルヴェリアにおいてはまったく違う。

 野球のイチローの他にサルヴェリアのイチローも存在するのだ。


 サルヴェリア王国に日本文化を持ち込んだ英雄……佐藤一郎(さとういちろう)

 この男の影響でサルヴェリアの主食は米になり、和食が広まることになった。

 

 この人の話は長くなるのでまた別途だな。


「それで」


 食事もある程度終わった頃、あの大量のご飯を食い切ったフィアナはご満悦だった。

 そろそろ許婚について聞かなきゃならん。


「母さんは許婚のことを知っているのか」

「うん、マッキーが言ってたからね」


 マッキーこと四条槙人(しじょうまきと)は俺の父親の名前だ。


「俺は聞いてないぞ」

「マッキーがレイジは絶対恥ずかしがるからサルヴェリアに連れてくるまで内緒にしてって言われたからね」


 確かにサルヴェリアにおまえの許婚がいるから会ってこいなんて言われたら断固拒否して行かなかったかもしれない。

 例え、大食漢の可愛らしい銀髪女だったとしてもな。

 ちらりとフィアナを見ると目が合って微笑む。可愛くて胸に悪いからやめてくれ。


「母さんは良いのかよ……そんな勝手に決めて」

「フィアナが私の娘になるんなら……それは嬉しいしね。それにレイジと毎週通話してるじゃない?」

「ああ」

「男の子のお友達の話は聞くけど、まったく女の子の話が出てこないから……心配だったし」


「お兄ぃ、女の子苦手そうだもんね」

「うるさいな」


 それは事実だったりする。

 取り繕っても中学の時に彼女がいなかったのは間違いないなので何も言えない。

 この感じだとシャロンも許婚の大賛成なんだろう。


「フィアナ。本当に許婚なんてバカな話……いいのか。事情があって止む無くだったら断っていいんだぞ」

「ふふ、私はレイジの許婚として再会できることを待ち望んでいました」

「何をそんなに……。なぁ母さん、俺は昔、フィアナと会ったことがあるのか?」


「ママとシャロンがフィアナと出会ったのはここ数年のことなの。レイジがフィアナと出会った時のことは話としては知ってるけど、詳しくはマッキーしか知らないわ」

「そ、そうなのか」

「あの時はサルヴェリアもちょっと揺れてたし……いろんなことがあったから」


 フィアナが俺と会った時、家族4人一緒に暮らしてなかった? もうワケがわからん。結局全てを知るのは親父だけか。

 あの親父はこっちから連絡してもまったく出やがらない。


「レイジ、私が許婚をお受けした理由はいくつかありますが……、まず1つ私にはかつて憧れの方がいました」

「憧れ……?」

「その相手は幼少の頃、危機に陥った私を助けてくださった……伝説の傭兵」

「え? それって」

「ええ、マッキーです。そして私はマッキーに大きくなったら結婚して欲しいと言いました。レイジと出会う前ですし、本当にちっちゃい頃ですよ。でも断られたのを覚えています。俺には最愛の妻がいるからって」


「ふっふーん、マッキーは一途だから!」

「張り合うなよ」


 母さんがドヤ顔で言う。

 ま、親父が母さん一筋なのは子供の目から見ても分かる。

 母さんとシャロンを溺愛し、俺はまぁそこそこだ。


「マッキーは言ってくれました。俺そっくりの息子がいるから嫁にしてやるって。どうせ俺に似てまともな彼女が出来ないからもらってやってくれって」

「あのクソ親父!」


「パパの言うとおりになってる」

「うっせーよ」


「それがきっかけで私はレイジと出会ったのですよ。そして正式に許婚になることを了承しました」

「っ! あ、あんたの親はどうなんだ。許婚ってのは両方の親の同意がいるんだろ!」

「……私の父はスキにしろって言ってるので。だからいいんです」


 一瞬、悲しそうな顔をしたフィアナに何かを察する。

 そもそもなぜフィアナはここにいるのか。

 親元離れてこの家に来ている。許婚だから花嫁修業? 昔日本じゃあるまいし、考えられるのは複雑な家庭環境ってことか……。


「何の問題もないよね」

「何の問題もないわね」


 シャロンと母さんが向かい合い、そんなふざけたことをぬかす。


 ……はぁ、どうやら始まりは冗談みたいな話だがいろいろ絡み合ってしまってるらしい。

 親父のやつ、許婚の件を黙ってたのはこの説明が面倒だったんだろうな。


「レイジ……」


 フィアナは困ったような顔で俺を見る。


「……レイジの許婚じゃなきゃ私はここにいられなくなります。でも……もしレイジが」

「分かったよ。ここにいろ」

「え?」

「あんたと少なくとも3年は一緒に暮らすんだ。お互いをその間に知って……最後に答えを出せばいい」


 正直断ってもよかった。

 でも……。


「レイジ、ありがとうございます!」


 曇った顔より、嬉しそうなフィアナの笑顔を見たい。

 単純だけどそう思ってしまったんだ。

今作はわりとのんびりとした展開を予定しています。

1章は零児とフィアナそしてもう一人のヒロインとの交流がメイン。

キャラが大幅に増える学園生活は2章からを予定しています。


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