003 銀髪美少女は黒髪がスキ?
しまった、つい日本語で言ってしまった。
フィアナはきょとんとした顔をする。
なんだこいつ。至近距離だと可愛いが過ぎる。
落ち着け……照れたら負けな気がする。落ち着いてサルヴェリア語に変換する。
「何をやってんだよ」
「レイジの髪……黒くて硬くてしっかりしていてとても素敵です」
「言い方が……って何でもない。男の髪の何がいいんだよ」
「日本人の黒髪はとても素敵だと思います」
「珍しいからか」
くそ、起きてもそのまま撫でやがる。
しかし……気持ちがいいから何とも言えない。
ニッコニコで撫でやがって、小動物を撫でてるような感覚か。
黒髪の俺は希少生物ってか。
サルヴェリアの血筋ではどうやら黒髪はほとんど現れないらしい。
遺伝子的にサルヴェリアの血統が強いという研究結果も出ているとか。
ハーフはまだしも、クォーターでサルヴェリアの血が3/4までいくと黒髪はほとんど現れないらしい。
奇抜な色合いの髪は生まれるくせにオカルトかよ、って思うほどだ。
終わりが見えないので無理やり上半身だけ起き上がる。
この高さなら頭も撫でられないだろう。
「うー、うーん」
それでも撫でようとしたフィアナは座りながらも背と手を伸ばそうとする。
まったく……と思ってると。
「ひゃっ!」
力尽きたのか、俺の体の上に落ちてきた。
柔らかいの女の子の感触と良い匂いに思わずくらっと来てしまいそうだ。
「あ……」
気付けば目の前にフィアナの顔が近づいていた。
整った可愛らしい顔立ちに直視できず、目線を下げてしまう。
するとゆるゆるシャツから……胸の谷間がちらり。
……こいつスタイルまでいいのかよ。
「さ、さすがに近いな」
「ひゃ、ご、ごめんなさい!」
フィアナは飛び上がるようにベッドから立ち去った。
くっそ……まだ胸がドキドキする。女子に対する免疫は無い方なんだ。
フィアナも恥ずかしそうに顔を反らしていた。
頭を撫でるのは良いけど……密着し合うのはさすがに恥ずかしいのか。
「フィアナ」
「は、はい」
「自己紹介……出来てなかったな。俺は四条零児。母さんから聞いているかもしれないが……宜しく頼む」
これはお互いの心を落ち着かせるための自己紹介だ。
「私はフィアナ・オルグレイスです。これからレイジにはたくさんお世話になると思うので再び仲良くして頂ければと思います」
「再び? ……。それで、何でフィアナはこの家にいるんだよ」
「……レイジは私のことを覚えていませんか?」
逆に問われて言い淀む。
「もしかして……昔、会ったことあったか?」
「やっぱり覚えてないんですね」
日本では間違いなく会っていない。そうなると昔、サルヴェリアに住んでいた時に会ったことがあったのか。
なぜかあの時代の記憶は掠れている。フィアナのことをまったく思い出せない。
だがフィアナの言葉、覚えてないことが前提な気もする。
「すまない、頑張って思い出す」
「いいんです! その……昔は昔、今は今ですから! 今、また知ってくれればいい」
フィアナは微笑んだ。
その優しげな碧の瞳に吸い込まれてしまいそうだ。
「すみません。……私も一ついいですか?」
「なんだ」
記憶の件、もう少しだけ食い込んでくるのだろうか。
「もうちょっとだけ黒髪を触らせてもらってもいいですか?」
「あんた何言ってんだ」
違うようだ。この流れでそこに戻るかぁ?
「あの……もうちょっとだけ! さきっちょだけでいいので!」
じりじりとフィアナが近づいてくる。
あれか……黒髪フェチってやつか!
フィアナが両手で覆い被さってくるので、両手で受けてその進行を防ぐ。
これ、逆だったら大事件に発展するやつだぞ。
「うー!」
小さい腕だなぁ。
ゆえに所詮細腕。
女の力で俺に勝てるはずがない。
さて、どうしたものか。心情としてはやられっぱなしは嫌なのでやり返したい。
なので。
隙をついて、俺の頭に触れられる前に、フィアナの頭を撫でてやった。
「っ!?」
「ほらっ、俺に撫でられたら嫌だろ? だからあんたも……。ん、赤い?」
フィアナは両手を降ろし、少しだけ屈んで照れたように、でも気持ち良さそうに俺の撫でを受け入れていた。
可愛らしい女の子の銀の髪がここまで手触りの良いものであること今、知った。
頭もちっちゃいんだな……。しかし……これは止め時がわからん気がする。
何だか……フィアナが触ろうとする気持ちが分かったような気も。
いつまでもこの子の髪を撫でていたい。
突然、がたっと扉を開ける音がする。
「お兄ぃ、晩ご飯できたって」
「シャ、シャロン!」
しれっと妹のシャロンがノックもせず部屋に入ってきた。
そして固まる。
これはまずい状況か。俺はベッドの上から女の子の髪を撫でている。
何て説明すべきか。
「ちょ、いくら許婚だからって今日手を出すなんて! はぁ、やっぱお兄ぃも男なのね」
「お、おお……。ん? ちょっと待て、シャロン。今何て言った」
「お兄ぃも男って」
「そんな分かりきったことどうでもいいんだよ。今、許婚って言わなかったか」
「言ったけど、やばっ、これ言っちゃだめだっけ。……そういうことで!」
アワアワしたシャロンが逃げるようにして去って行く。
追いかけたかったがフィアナの頭を撫でる手が移動していることに気づく。
温かみのある柔らかい感触に視線はそちらに向く。
フィアナは両手を使って、自分の頬に俺の手を移動させ当てていたのだ。
柔らかい頬の感触がする。
俺はこの時……焦っていた。さっきの許婚はシャロンが適当に言っていると思っていたんだ。
「すまん! 妹が変なことを言ってしまった!」
「変?」
「許婚がどうたら……!」
「変ではないですよ……私がレイジの許婚なのは間違いのないことなので」
……変ではなかった。
フィアナの朗らかな笑みに俺はそれが真実であると知る。
手にはフィアナの頬の温かさを感じたままだった。




