022 みんなで学校に行こう
「お、お待たせしました」
「……」
フィアナは気まずそうに部屋から出てきた。
この短時間でしっかり外行きを仕上げてくるとはさすがだ。
キラキラとした銀の髪に、誰もが羨む小顔。手足は細く、長い。
ケスフェルエスの制服に身を包み、誰が見ても最高にかわいらしい高校生の1人だろう。
しかしまぁ、さっきの下着姿がその制服の中に包まれているってことか。
何だか照れてくる。ちょっとからかって気を紛らわせよう
「ログインボーナスはくれないのか」
「あ! そうですね……。何がいいかって私が決めるんでしたっけ」
「やっぱいいや。さっきいっぱいもらったし……ボーナスもらったようなもんだろ」
「さっき? っ!」
フィアナの顔がかぁっと熱くなる。
「レイジはえっちです!」
「そんなわけだから寝ぼけないことだな。いい勉強になっただろ」
「……何か釈然としません……ってお腹が空きました」
残念ながらメシを食べてる時間はない。
だが食いしん坊のフィアナが腹を空かせると面倒くさそうだ。
途中のコンビニで何か食べるとして……今は。
「もぐっ」
フィアナの口に焼いた食パンをつっこんでやる。
ちょっと冷めてるので火傷することはない。
「おいひー」
「しっかりバターを塗ってやったからな」
「アニメで見たことがあります。パンを食べながら曲がり角でぶつかると恋が生まれるって」
「着替えてる間にさくらが玄関の前に来たって連絡があったからぶつかってこいよ」
「百合の花が咲いてしまいますね」
見る分にはわりと悪くない気もする。
そんなわけで俺とフィアナは家で仕事する母さんに一声かけて、外へ出た。
「二人ともおっはよ~~!」
同じケスフェルエスの制服に身を包んださくらの姿があった。
「さくらかわいいです!」
「ありがとうな! フィアナちゃんも可愛いって何で……パン囓ってんの?」
「恋のために誰かにぶつかるらしいぞ」
「当たり屋やん!?」
さくらはくるりとまわって見せた。
「この制服かわえぇな。日本と意匠が違うから目新しいわ」
「ブレザーっぽいけど、ちょっと違うよな。このあたりは古くからのお貴族様の意向が残ってるのかもな」
「ちょっと胸元が緩いのが気になるけど……。って零児くん、覗いたらあかんよ! わたしはフィアナちゃんや妹ちゃんみたいな爆乳ちゃうんやから」
さくらは恥ずかしそうに胸元を手で隠す。
シャロンやフィアナに比べたら小さいかもしれないが、日本人としてさくらの胸は決して小さくない。
この前の私服も外から見ても分かるくらい盛り上がってたし、むしろ良い方なんじゃないだろうか。
って邪な考えだな。
フィアナの方をちらっと見ると見事に谷間がくっきりと見えていた。
でもフィアナはこれに対しては何も言わない。
貴族達は胸元の空いたドレスを着ることが多く、人の視線に慣れているらしい。
実際、学院でたまに社交界が開かれるようで今後の学生生活でドレスコードが必要とか。
俺は面倒くさいから貧乏人用のレンタルで済ませるつもりだ。
「おまけにスカートも短いし。飛び跳ねたら見えるで」
「確かにな」
「もうレイジ! 私にもさくらとお話させてください!」
日本語でベラベラ話してたからフィアナがぐいぐいと俺の腕を引っ張る。
スマホ翻訳アプリも当人同士なら何とかなるが日本人同士の会話をうまく翻訳できるほど万能ではない。
「何の話をしてたんですか」
「スカート短いってよ」
「ああ~。でも安心です。私達はちゃんと下にスパッツ履いてますから!」
「そうだったな……。達?」
その時、証明しようとしたんだろう。
フィアナは自分のスカートをまくり上げる。それだけなら良かった。
フィアナの右手はさくらのスカートを掴んでおり、一緒に持ち上げたのだ。
フィアナは確かにスパッツを履いていた。
しかしさくらまで同じとは限らない。
俺の目の前に青色で小さなリボンのついた可愛らしい下着が露わになったのだ。
全員がそれに気付いた時……さくらは顔を真っ赤にさせる。
「いやああああああ! 何すんの!?」
日本語での苦情のため俺がフォローするしかない。
「こっちの学院では制服の下にスパッツを履くのを許されてるらしい……。だからさくらも履いてるって思ったんだろう」
「そ、そうなん!? 貴族の通う学校やから履くのはNGやと思ってたわ。って……零児くんやっぱ見た……?」
「悪いが……。忘れる、忘れるようにする!」
さくらは頭を抱えてしゃがみこんでしまった。
そんな姿にフィアナはおろおろし始めた。
「ど、どうしましょう! まさか履いてないとは思ってなくて」
「どっちにしろさくらのスカートまで上げるなよ」
「あ、あの……さくらのパンツ、今日の青空みたいでとてもかわいいです。いつも明るい澄んださくらの心みたいでお似合いだよっ通訳してくれませんか!」
「俺がそれを言うのか!? 変態だろ!」
想像するだけでドン引きされる未来が見える。
「うぅ……お嫁にいけない」
「嫁にいけないってよ」
「分かりました。パンを囓ったまま突撃して恋に発展させてみせます」
「これがサルヴェリア風悪質タックルってことか……」
さて……遅刻しそうなのでさっと進むことにしよう。
さくらも気を取り直し、3人で通学路を駄弁りながら歩く。
途中のコンビニでフィアナが大量のパンを買ってもぐもぐと食べながら移動した。
最寄り駅から20分電車に揺られて、ケスフェルエス王立学院前の駅で降りる。
サルヴェリアも鉄道は発達しているが日本とは違うので満員電車でもないし、時間にも不正確だ。
3人会話が弾んだらあっと言う間に到着だった。
ケスフェルエス王立学院は広大な敷地となっており、敷地内に小等部、中等部、高等部が存在する。
俺達3人は高等部の敷地へと入っていく。
まわりは貴族の子息、令嬢が多い。試験を受けて入学する中間層の平民も少しいる。
さて……俺の高校生活どうなるんだろうな。
「ねぇ、零児くん」
「うん?」
さくらは風で揺れる黒髪に手を触れ、期待に満ちた顔をする。
「許婚とかそういうのはわかんねーけど、少なくとも高校3年間、フィアナの側に俺はいる。俺が必ずフィアナを守るよ」
「ぶほっ! な、なぜその言葉を! サルヴェリア語だったからあんたは分からなかったはず!」
「ふっふーん、印象的やったから……記憶しておいてお父ちゃんに聞いたんよ」
さくらが自慢気に言う。くそ、そんな手があったか。
「零児くんとフィアナちゃんってそんな関係やったんやなぁ。世界一の美少女が許婚なんて……羨ましいなぁ」
「公的で取り決めたわけじゃないし、あくまで口約束だ。……いつだって反故にできる」
「ふーーん、でもする気はないんやろ」
それには何も言えなかった。
「ちょっとだけ残念だけど……本気になる前に知って良かったかな」
「何か言ったか?」
「な~んにも! 二人の結婚式には是非呼んでよ」
ったく適当なことを言う。
「レイジ」
今度はフィアナが声をかけてきた。
「フィアナ」
「……レイジとの高校生生活、胸が躍ります」
「ああ」
そうだな。
この3年間、あんたを絶対に守ってやる。
俺達はこの学園に足を踏み入れた。
1章 世界一の美少女との出会い 完
2章 日本部の活動記録~伯爵家の婚約破棄事件~ に続く
1章はこれで終わりとなります。
次話からは2章の学園編です。
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