表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

とある魔女の記憶~第三の目~

作者: 白檀

昔々ある所に古い村がありました。その村は、決して裕福ではないものの人々が助け合いながら穏やかに暮らしていました。

そんな穏やかな村である日、凄惨な殺人事件が起きました。村の隅に家を構え仲良く暮らしていた4人の家族のものです。強い夫、優しい妻、無邪気な娘が無残な死体となって発見され、勇敢な息子は行方不明となっていました。人の仕業とはにわかに信じがたいその光景を見て、村人は「魔女の仕業だ」と噂をしていました。

そう、この村には昔から村を囲むようにして在る森の北側に数千年も生き永らえている魔女がいるという噂があるのです。そして村でたびたび起きる怪奇現象や不可解な事件は魔女の仕業だと考えられてきました。今回のこの事件も魔女が人の生血を求めてやってきたのではないか、連れ去られた息子は魔女によって生血や内臓を食われているのではないか、村にはそんな噂であふれていました。


そんな事件があった2日後、とある村人が村にやってきました。事件のことで不安に駆られていた村人はその旅人を警戒しましたが、旅人が魔女に関する研究をしていると知り助けを求めました。

「旅人さん、助けてください。北の森にいる魔女を退治してください。このままだと私たちは安心して暮らせません。」

旅人は村の人々のあまりの必死さに蔑ろにできず、魔女の調査も兼ねて北の森に足を踏み入れることにしました。鬱蒼とした森は出入りを拒むように木々が立ち並び、奥へと進んでいくにつれ濃くなる湿気が肌にまとわりついて不快感を得ます。旅人はいま直ぐ帰りたい気持ちになりましたが、その度に村人たちの顔を思い出し自分の足を奥に、奥に進めました。ですが不思議なことに、森の奥に進んでいるつもりがいつの間にか入り口に戻ってきてしまうのです。何度足を踏み入れても、何度入り口を変えても、奥に進んでいるはずが入り口に帰ってきてしまいます。

さて、どうしたものか。村人は思考を巡らせますが解決策など分かるはずもありません。途方に暮れながらも森に足を踏み入れ戻されを繰り返して心が折れかけた3日目の夕方、ついに探していた息子を旅人は見つけました。なんと、森の中で狩りをしていたのです。

魔女に操られている!旅人は少年の背中から両手首を拘束し頭突きを食らわせて気絶させ、そのまま村の診療所に連れて行きました。村人は半ばあきらめていた少年の生きてる姿を確認しとても驚きましたが、とても喜び旅人に感謝を伝えました。

ですが、旅人はまだだ、と言います。まだ、この村を恐怖に陥れあの少年の家族を奪った魔女が解決できていない、と。少年を助けたことで自信が出たのか、旅人は明日以降も森の中の探索を続ける意を示し、村人はそんな旅人を見てとても頼りがいのある人が来たと、彼が村に来てくれてよかったと心の底から思いました。


その翌日、少年が幸いなことに正気を取り戻した状態で目を覚ましたらしいと聞いて旅人は話を聞きに行きました。昨日手首を掴んだ時も思ったが少年はとても痩せている。森の中で落ちている小枝のように細く、そのこけた頬を見て魔女に生気を吸い取られたのかと旅人は少年を憐れみました。旅人は少年と目線を合わせ、魔女のことで覚えていることはないか、些細なことで構わないので教えてほしい。と伝えると、少年はジッと旅人を見つめます。まるで時間が止まったかのように錯覚する状況に少し狼狽えますが、必死に少年から目線を外さないように耐え見つめあいました。すると少年は突然緊張を解いたかのように微笑み、旅人は驚きながらもホッと胸をなでおろしました。

「おじさんが僕を正気に戻してくれたんだよね。お医者様がそう言ってたから知ってるよ。」

一瞬理解が追い付かず、けれどすぐに昨日の出来事を言っているのかとピンときた。少年はいまだ笑顔を崩さず続ける。

「僕ね、操られていた時の記憶があるんだ。だから、おじさんを魔女のところまで案内してあげる。」

それは思いがけない朗報だと思い、でもすぐに考え直しました。彼をまた恐ろしい目に合わせるのではないか、私一人で彼を守れるだろうか。そんな旅人の葛藤を察してか、少年は旅人の視界に入り目線を合わせて言いました。

「おじさんは魔女を倒す方法を知っているんでしょ?僕は案内だけしたら隠れているし、念のために武器も持っていくようにするから大丈夫だよ。」

少年の確信めいた声色は、操られていたとはいえ魔女と数日間共に過ごした故だろうか。旅人は唸り、考え、そして決めました。少年の案内で魔女のところへ行き、魔女の首を取って帰ると。


旅人と少年は昼過ぎに森へと足を踏み入れました。旅人は魔女に対抗する武器を、少年は軽くて威嚇用にしかならないナイフを持っています。少年の案内に沿い森を奥に奥に進んでいきます。森に入る光が細くなるにつれ、旅人は緊張を高めていきます。何時間歩いたか分からないほど歩き、光のほとんどを遮断するほど木々が生い茂った場所に着いたとき、森には似つかわしくない鮮やかな黄色の扉が枝に支えられているように立っているのです。信じられない、にわかには信じがたい。不可思議な光景に心臓は壊れるのではないかというほど早く打っており、無意識に目を見開き扉を凝視している旅人。突然耳に入ってきた少年の声にハッとそちらを向きました。

「おじさん、ここだよ。」

少年は躊躇いなくその扉に手をかけ押しました。すると扉の向こうには先ほどの森とは似つかない花畑が広がり、空には雲一つない青空が広がっていました。扉から続くあぜ道は花々に囲まれるようにして続き、細い小川に架かる橋の向こうには水車と家が建っていました。

「ここは、なんだ。」

呆然と空を見上げつぶやいた旅人はしばらくその光景に目を奪われていました。

「おじさん、泣くほど感動しちゃったの?」

ハッとして、覗き込んでくる少年を見ようとすると視界がぼやけるのに気づきました。

自分が涙を流すほど感動することが今までにあっただろうか。

再び景色を見てまた涙が溢れます。

ああ、ここをあの子にも見せてあげたかった。

旅人は置いてきた愛する人に思いを馳せ、目の前に広がる雄大な景色を仰ぎ見ました。後ろから振り下ろされるナイフにも気づかず。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。


この後投稿予定の「とある魔女の記憶」シリーズでは別視点から読み解く話も載せる予定ですので、良ければそちらも読んでいってください(o^―^o)ニコ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ