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妹シリーズ

妹に何もかも奪われて家出した私でしたが、憎き妹を討つ機会に巡り合えたので、この手で妹を殺そうと思います。

作者: あかり

 私の一番の不幸は、婚約者を妹に奪われたこと。

 私の一番の幸運は、魔物の森で彼に出会ったこと。

 



 私は魔物の森で彼に助けられたあと、彼の所属する騎士団『暁の騎士団』に所属することになった。

 最初は慣れない集団生活に四苦八苦していたけど、妹に全てを奪われる生活に比べたら幸せな生活だった。だって、誰も私の物を奪わないし、頑張ったらみんな私のことをほめてくれる。私は普通な暮らしがうれしかった。

 それに、私の治療魔法の実力は騎士団一だったため、どんな酷い傷でも傷跡さえ残さず治すと、皆泣きながら感謝してくれた。

 

 皆に感謝されることも、褒められることもうれしい。でも、彼に感謝されること、褒められることが一番うれしかった。そして、彼に頭を撫でられると胸がドキドキした。彼が騎士団員以外の女性と話している姿を見ると、逆に胸がズキンと痛んだ。

 そのことを、騎士団で一番中の良い女性騎士に相談すると、その胸のドキドキとズキンとする痛みは『恋』だと教えてくれた。

 私は、彼女の言葉に一気に赤面してしまった。初めの恋に戸惑った。そして、思い返すと私はアンドレン王子の婚約者だったけど、一度も彼に恋心を抱いたことはなかった。私にあったのは『第一王子の婚約者としての矜持プライド』だけだった。


 彼への恋心を自覚してから私は、治療魔術以外も積極的に学び始めた。

 彼はとても強い。彼に守られるだけの弱い女性でいることが許せなかった。彼の隣に立つにふさわしい女性になってから、彼に告白しようと思った。

 騎士団一の魔術師に頼みこみ、魔術師の暇な時に魔法を教えてもらえることになった。もともと魔法の勘が鋭かったため、すぐに火・水・風・土属性の全ての攻撃魔法を会得した。

また、戦場で自分の身を守れるように剣術も学ぶことにした。仲の良い女性騎士は、彼に次ぐ剣の達人だった。彼女に「剣を教えてほしい」と頼み込むと、彼女は快諾してくれた。魔法と違い、剣術はすぐには上達しなかった。カメの歩行並みに遅いけど確実に上達していった。時折、彼も稽古を付けてくれた。



 攻撃魔法と剣術がある程度上達すると、私も前線で敵と戦うようになった。

戦場で、初めて人を殺した。私はその晩泣きじゃくった。しかし、騎士団の皆は厳しい言葉を私にかけた。改めて、戦場の厳しさを感じた。彼ら彼女らの言葉からも、皆も好きこのんで人を殺しているわけではないことが分かった。きっと、彼も好きこのんで人を殺しているわけではない。


 私は恥じた。攻撃魔法や剣術が上達したからと言って、私は強く……私の心が強くなったわけではない。

 私は、弱い自分と決別するために、長い髪を自分の剣で斬り落とした。



―さよならとても弱いメリッサ。妹に全てを奪われていたメリッサ―


 髪は風に乗り空に散った。





 それから私は、彼らとともに戦場を駆け巡った。戦争に日々は心身ともに私を削っていく。しかし、彼の隣に立って戦えることがうれしかった。





 5年にも及ぶ敵国との戦争は、我が国の勝利で幕を閉じた。この戦争で私たちの騎士団が一番の活躍をしたと言われ、騎士団員全員が爵位を与えられることになった。

 爵位を与えられる当日、彼がいないことに気づき探しに行こうとしたが、皆苦笑しながら「彼は先に城に行った」と言われた。何故、先に城に行ったのが不思議に思ったが、城に着いてビックリした。アンドレン王子みたいな服装をした彼が、そこにいた。

 彼は、私たち一人一人に爵位を読み上げていった。私の番になったとき、彼はいきなり片膝を着いた。そして……

「メリッサ、私は今回の戦の功績により、国王から王位を譲り受けた。新米の国王だが私の妃になってくれないか?」

 彼にプロポーズされた。私は嬉しさのあまり、涙が出てきてしまい声を出すことができなかった。代わりに何度も頷いた。戦場では険しい表情を浮かべていた彼が、優しい笑みを私に向けてくれることが嬉しかった。

 こうして、私は彼の国で貴族となり、そして王妃となった。他国出身で、貴族と言っても一代貴族である私が王妃になることに反対する声は最初多かった。しかし、王妃教育のいらないほどの完璧なマナーや語学力、王妃として必要な判断力に知識を持っていたため、次第に私を反対する声は小さくなって行った。


 半年後、彼の戴冠式が行われ正式に彼が国王になった。そして私もそれに伴い正式に王妃として皆に認められた。




王妃となり、公務に勤しんでいると祖国から使者がやって来た。

使者としてやって来たのはストロベリーブロンドに青い目をした女性と、祖国の大教会の司祭の服を着た若い男性だった。

使者たちは、彼と私に祖国の現状を訴えてきた。


―祖国の国王となったアンドレン様による悪政。

―不作と度重なる増税。

―王妃となったアデルの浪費。

―逆らうものを次々と処刑する恐怖政治。


使者の話を聞いて納得した。通りで祖国からの難民申請が多いはず。彼と私が頭を悩まされていた難民問題の原因がわかった。


使者である彼女は強い意志をこめた青い瞳で、彼と私と見つめていった。

「どうか我が国を助けてほしい。貴国に何も利益をもたらさない話だと分かっている。どうか、国王と王妃を討つために力を貸してほしい」

 使者の女性に司祭服を着た男性は、彼と私に頭を下げた。祖国の教会の司教たちは「神以外に下げる頭はない」といい、国王にさえ頭を下げない。その司教が他国の王に頭を下げた。そのことから、祖国が疲弊していることがうかがえる。

 彼は、使者たちに二つ返事で快諾した。別に、祖国の民を不憫に思ったわけではない。祖国が崩壊すれば、今まで以上の難民が押し寄せてくることが予測できます。この国は外から見れば戦勝が終わり安泰しているように見えます。しかし、いまだに戦争の傷跡が残っている場所が各地に多く残っています。

 戦後の処理が終わってもいないのに大量に難民が押し寄せ、その保護に金銭を使えば、自国民の不満がたまり、折角他国との戦争が落ち着いたのに内乱が起きたら大変です。それに、使者たちの話だと、国王と王妃を討ったあとは教会が中心となって国を治めること、その準備がすでに終わっているそうです。我が国に決して迷惑は掛けないとも言っていました。


 とんとん拍子に話が進み、使者たちクーデター側が国王を、我らが王妃を討つことが決まりました。

 私はそんな中、一つ彼女に聞きました。

「貴女は、アンドレン様に恋をしていましたか?」

 私の言葉に、彼女の目には涙があふれ、司教の男性は顔を歪ませました。

 彼女たちの話によると、なんと使者の女性とアンドレン様は恋仲だったそうです。妹との婚約を破棄して、それが原因で廃嫡になったとしても、将来彼女と結婚するつもりだったそうです。

 しかし、妹はそれを許さなかった。妹は禁忌の黒魔法に手を出し、アンドレン様を含め、その場にいた人の心を黒く染め上げてしまったそうです。黒魔法にかからなかったのは、大司教の息子だった使者の男性と光の魔法が使えた彼女だけです。

 私は、話を聞いて憤怒で顔が真っ赤になりました。彼女がアンドレン様を愛しているからではありません。私にはすでに大切な夫がいるのです。アンドレン様なんてどうでもいいです。私が怒っているのは妹に対してです。

 黒魔法を使うことは、この世界の最大の禁忌。『黒魔法を使った者は、人にあらず』と言う言葉があるくらいです。

 妹が黒魔法で大勢の人を苦しめているのかと思うと、怒りが込み上げます。

 私は、姉の責任として妹をこの手で討つことに決めました。


 すべてが決まってからの行動は迅速でした。

 国王直属の『暁の騎士団』と『宵の騎士団』を伴い、彼と私は使者の二人の先導で魔物の森を駆け抜けていきます。森を抜けるとすぐそこは祖国です。しかし、森を抜けた先にあった祖国は、私の知っている活気に満ちた姿を失っていました。

 

 ここで、私たちは二手に分かれました。使者たちはアンドレン様を討つために王城の一番奥の塔に向かい、私たちは、妹のいる城の中で一番豪華な宮殿に向かいます。


 宮殿の入り口を破壊し中に突入。宮殿の中にはすでに人の姿はありませんでした。どうやら不穏な空気を感じ取り宮殿に務めていた人々は逃げ出したようです。

 私たちは妹を探しに奥に進みます。そして、一番豪華な扉を開くと、妹がそこにいました。

 妹は金でできた椅子にふんぞり返りながら座っています。


私は剣を抜き妹に向かい走りだします。妹はそんな私の姿を嘲笑うように口を歪ませます。妹は、どうやら私には妹を討つことができないと考えているみたいです。昔の私だったら……妹に全てを奪われていた私なら、きっと妹に剣を突き立てることはできなかったでしょう。


しかし、私はあの時の弱い私ではありません。


妹の前にたどり着くと、私は妹の心臓を剣で一突きしました。剣を抜くと大量の血が噴き出します。その血で私は赤黒く全身を染めます。


……人であることをやめた妹ですが、必要以上に苦しんで死ぬ必要はありません。アデル、これが私の最後の情けだと思ってください。


 妹が金の椅子で息を引き取ると同時に、遠くから歓声が上がりました。どうやら使者たちも、アンドレン様を打ち取ったようです。


 その後、アンドレン様と妹は広場にさらし首にされました。アンドレン様と妹の首を見た国民は歓声をあげました。

そんな国民を横目に、彼に促されるように私は祖国を後にしました。



もう二度と、私は祖国に足を踏み入れることはないでしょう。








国に帰ったその日の晩、私は夢を見た。

 なぜ夢だと断言できるのか。それは……


『ごめんなさい、ごめんなさい。お姉さま』

 殺したはずの妹が目の前にいるからだ。


『何でもお姉さまの物を欲しがってごめんなさい。全て奪ってごめんなさい』

 妹は、泣きじゃくりながら何度も私に謝ります。私の知っている妹は、決して私には謝りません。だから、これは夢なのです。


 でも……


「泣かないで、アデル」

 夢の中の妹がいつまでも泣きじゃくるので、つい声を掛けてしまいました。

 

『私ね、私ね、本当はお姉さまのこと大好きなの』

 妹は私の胸に飛び込んできて、涙ながらに言います。


『お姉さまのこと大好きなの!誰よりも、誰よりもお姉さまのことが大好きなの!!』

 妹は満面の笑みで言った。


「私……」









目が覚めると、心配そうなに私を見つめる顔があった。

「メリッサ、大丈夫か?」

「大丈夫よ。ただ、夢を見ただけ」

心配そうな表情を浮かべる彼に「大丈夫」と返した。夢を見たことは本当だけど、夢の内容を一つも覚えていない。

 きっと、それほど大切な夢ではなかったのだろう。


「なら……どうして泣いているのだ?」

「え?」

 慌てて頬に手をやると、涙で頬が濡れていた。

「どうして。私は泣いているの?」

 つらいことも、悲しいこともないのに。何故?

「メリッサ……つらかったよな」

 彼は私を抱きしめながら言った。

「貴方と結婚してからは、つらいことも悲しいこともないわよ」

 そう言って彼に向かい笑みを作ろうとしたが、失敗してしまった。

「憎い存在とはいえ、妹をその手で殺させてしまって……ごめんな、メリッサ」

「なんで、貴方が謝るの?それは、私が望んで妹を……」

 涙があふれ零れ落ちて行く。声を出そうとすると、全て嗚咽となって漏れだす。

「メリッサ、ここには私しかいない。私以外誰もメリッサの弱さを見ることなんてない。だから……だから、泣いてもいいんだ」

「うっう……うわぁ~~~~~ん」

 彼の一言で、堰を切ったように私は泣き出した。

 最初に彼に出会ったときのように。


 今でも、妹は私から全てを奪う憎い存在だ。使者の話を聞いても、妹は死ぬべきだと思う。妹は後世に名前が語り継がれる悪女に違いない。


でも


でも!!


 それでも、アデルは私のたった一人の妹だ。全てを奪われても憎くっても、死んでしまえばいいなんて思ったことなんてなかった!!!


 でも、祖国が、世界がアデルの死を望むから!!


それを言い訳に、私がアデルを殺した!


本当は、私はアデルの死なんて望んでいなかった!


私だけがアデルの死を望んでいなかった!



だけど、私は彼の伴侶だから、この国の王妃だから、アデルが死なないとこの国が大変なことになるのがわかっていたから……





アデル、アデル…


私がもっとしっかりしていれば


アデル、アデル…


何でも私がアデルにあげなければ


アデル、アデル…


お父様たちに何を言われても、あきらめなければ


アデル、アデル……


あの時、私が家出しなければ、もしかしたら違う結果になっていたのかもしれない。


アデル、アデル、アデル


アデル、アデル


アデル……



「私は貴女のことを今でも愛しているわ」


夢の中でもいい


そう、アデルに伝えたい。


***補足***

メリッサの夢の中に出てきたアデルは、アデル本人ではなく、メリッサの無意識が作り出したアデルです。メリッサは一度でもいいのでアデルに謝ってほしかったのです。

もう二度と、メリッサは夢の中でアデルに会うことはないです。


アデル自身は、満足して地獄へ行きました。

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