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9話 【盗賊】


「さておまえたち、他に言いたいはあるか?」

「……」


 現在、ドレイクの前には正座しているふたりの男がいた。

 どちらの顔も俺はよく知っている。 

 ふたりは蛇に睨まれたカエルのようにしばらく身を竦めて黙っていると、床に額を擦りつけるように土下座した。


「申し訳ありませんでした」

「俺様が命令した時以外で、カタギに手出すなってことは散々口を酸っぱくしておいたはずなんだが?」

「つ、つい出来心で」

「つい、だと?」


 言い訳を聞いて、こめかみ付近に青筋たてるドレイク。

 このふたりは先日の事件を起こした張本人たちことパン屋を襲った盗賊たちだ。あれからドレイクに脅されるように問い詰められた彼らはついに真実を話した。


 それを聞いた彼女はこうしてサーベル片手に見下している。


「そうだよな。誰にだってミスはあるんだからしょうがないよな」


 緊迫状態を保っているベテランと違って、ドレイクの一言に安心する若い新入り。


 ドスッ

 彼の耳のそばスレスレにサーベルの刃が落ちた。


「ひぃ!」

「だからミスっておまえたちを殺して、そのままミスってこの人目がつかない洞窟の奥底で永遠に放置したままでも許してくれんだよな?」

「ご、ごめんさいぃいいい!」

「目的が金だか偉そうにしたかっただけだか知らねえけどな。心まで盗賊になっちまったら、おまえら結局自分たちを虐げた連中の言う通りだった存在になっちまうぞ!」


 謝り続ける彼らを怒鳴るドレイク。

 彼女の言葉を聞いて不思議に感じたことがあった。


「どういうことだ? 心まで盗賊って」

「こいつらだけじゃなくここの盗賊団は全員、【盗賊】のジョブ持ちなんだよ」

「そうなのか。でも、それがいったいどうしたんだ?」


罠の解除、宝箱開け、敵の探索、etc…

【盗賊】というジョブは冒険において重要な役割を持ち、パーティーにおいてはひとりは必須とされていた。マリオたちとのパーティーではとりあえず他にやれることが少ない俺が代役として動いていたが、どれもこれも一筋縄ではいかない作業ばかりでなれた人を羨ましがっていた。


 ジョブが【盗賊】だからと言って、実際には盗みを働いたりする盗賊とは関係すらない。俺がドレイク含めてここにいる面子を【盗賊】だと認識していたのは、自己申告を除けば装備から推定してのことである。


 俺が思っていたことをそのまま伝えると、ドレイクは複雑な顔をした。


「冒険者ならばだいたい、おまえと思うことは同じだよピガロ……だけどな、それを知らない一般人は違った」

「?」

「十年前まで、【盗賊】のジョブに選ばれた冒険者は世間からは軽蔑の目で見られていた」

 

 話を聞くと、実にひどい歴史だった。

 ドレイク曰く、人によって言うことは様々だったが、ようするに【盗賊】に選ばれたやつは本当に盗賊になると信じられていたそうだ。なにもしていないのに、罪人扱いされて石を投げつけられたらしい。


「だから今では【盗賊】は【探索者】と名前が変えられている。既存のジョブ持ちにも変えられる権利は与えられた。だけど差別されていた【盗賊】たちの中には、襲われたり貧困に窮したことで犯罪を働いてしまったやつも少なからずいる。環境に強いられたとはいえ、当然、そんなやつらがのこのこ神殿に入ればお縄にかけられちまう」

「遅かったんですよ。おれだけ宿屋に警戒されて野宿する羽目にあったり、店に入ると万引きするとか怒鳴られて。その内、仲間だったやつらまで世間の空気に引っ張られて距離を置くようになりました」

「ボスはそんなどこにもいられなくなったおれたちに、生きる道を与えてくれたんです」


 話している最中に過去を思い出して泣き出す団員たちまでいた。

 どうやら俺のイメージする盗賊と彼らが少し違っていたのには、それ相応の背景があったようだ。

 しかし【探索者】と【盗賊】が同じジョブだったとは。どちらも名前は聞いていたが、そこまでは知らなかった。


「だからといって、こいつらのしでかしことが許されるわけではないが」

「申し訳ありません兄貴!」

「もう二度とあのパン屋には近づいたりもしません!」


 必死に頭を下げてくる男たち。


 俺に謝られてもな……別に俺が直接こいつらにやられたことって汚い姿に文句言われた程度で……


「これからおまえらが得たものは、必要なもの以外は全てあのパン屋に渡す」

「そ、それはさすがに」

「おまえらはあの人たちがこれから得る全てを奪うところだったんだ。これぐらい当然だ」

「はい……」

「これでいいんだろ副団長? おまえ自身はなにもいらないみたいだし」

 

 困っていると、ドレイクが代わりに言ってくれた。

 うなだれつつも了承する男たち。これにて、今回の騒動については解決したのだった。

 

 ガキィンガキィン

 あんなことが昼間にあった今夜も、俺は変わらず穴を掘り進めている。

 山狐盗賊団にあんな過去があったとは知らなかった。盗賊なのは変わらないが、同情はできなくもない境遇だった。


「だからといって、仲間になるつもりはないけど」


 俺が目指すのは冒険者だ。彼らとは目指している先が違う。だからなんとしても復学に間に合うよう、できるだけ早くここを脱出する。

 

 アイスピッケルを振っている内に、ふと、かつての仲間のことを思い出す。

 

 俺がいなくなってどうなったのか? 足手まといが消えて楽になったのか?

 いや、よそう。

 もう既に俺の居場所はあいつらのところにはないんだ。脳裏に浮かぶ幼馴染たちの姿を消して、この先にあるはずの出口を開くことに集中する。


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