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25話 村の秘密

 

 ボンボコボコ ボンボコボコ

 どこかの民族楽器のような独自の太鼓を叩く村人たち。

 

 湖の前で、彼らとかがり火に俺たちは囲まれる。

 あの場にいた三人そしてドレイクまでもが手足を縄で縛られて拘束されていた。


「どういうことなんです村長!?」


 信じられないといった顔で叫ぶグリニア。

 怪しげな仮面を被った村長が村人たちの中から姿を現す。


「いったいなんなんですかこれは!? 村を救ったはずのオイラたちがどうしてこんなことをされて!? ガルーもどうしているんです!?」

「錯乱しているな。おい。少し追加しておけ」

「分かりました」

「や、やめ……」


 首元に注射がうたれる。

 さっき俺たちもされた。おそらく麻痺薬かなにかのようで感覚が鈍って体の動きに自由がきかなくなる。

 ドレイクとリリヤは回復薬と一緒に、俺はそうしなければふたりの治療はしないと脅されてだ。


 グリニアがおとなしくなったのを見て、村長は口を開く。


「お互い大人じゃ。落ち着いて。順を追って話そうではないか」

「分かり……ました……」

「よろしい。では、まずきみたちが一番知りたいであろうこの状況について教えよう……今、この場で行われているのは村の儀式じゃあ」

「儀式? なんらかの魔法を使うのか?」

「いいや。我々に魔術を嗜んでいるものは誰ひとりいない」

「はっ? じゃあなんで?」

「古来より我々は村の()()()によってこの身を守られてきた。その守り神様を祀るための儀式じゃ」


 うさんくさい。カルト宗教みたいだ。

 とはいえそんなこと根拠もなく口にしたらろくでもないことになりそうな雰囲気なので黙っておくことにする。

 仮面の下の村長の瞳は、とてもじゃないが正気のものに思えなかった。


「二十年前に起きた落盤事故。海への道は閉ざされたが、それから村をお守りくださったのも守り神様じゃ。そしてバジリスクが村を襲ってこなかったのも、守り神様が食い止めてくださったのじゃ」

「ちょっと待ってジジイ! じゃあアッシュレオ以上のランクの魔物がいることも知っていたのか!?」


 ボコンッ

 屈強な村人が俺の頬を殴ってきた。


「若造が。失礼な口をきくな」

「……」

「質問したいことは分かるが、とりあえずこちらの話を聞いてからにしてもらおう。いいかね?」

「分かった」


 返事に不服さがつい滲みでてしまう。

 ここに来た時は、どこにでもある質素だが表裏のない平凡な村だと思った。だが今は、なにも考えていることが分からない狂気の集団に見えている。

 村長は柔和な老人という体を崩さないまま、会話を続ける。


「おっほん。こうして村を守り続けてきてくださった守り神様を称えるため、三年に一度のペースで儀式を行ってきたのじゃ」

「三年前って、オイラがこの村に来た日」

「そうじゃな。懐かしいのう。夜中まで歓迎会を開いて、一緒に呑んだくれて楽しかったのう。村人との一日一日の活動が、わしの思い出じゃ」

「村長……!」


 感動して涙ぐむグリニア。

 村人たちも目元を抑えて震えていた。


 俺からするとどうでもいいことなので話を進めてほしいと思っていたら、


 ガルルル!


 生きていたガルーが檻に入れられたまま登場した。


「ガルー無事だったのか。やっぱり村長は、オイラたちのためにしてくれたんですね?」

「……」


 ブンッ


 檻から出されたガルーの()()が響いた。傷跡から振り下ろされた杖が放れる。


「村長?」


 ブンッブンッブンッ


 村長はガルーが動かなくなるまで何度も杖で傷口を叩いた。


「ガルー! 村長。なんでこんなことを!?」

「前々からこの狼はわしに対して敵意を向けていて気に食わなくてのう。昨日なんて、足まで噛まれてしまったよ」


 その言葉でやっと俺は気づいた。

 村長が履いている()はガルーが咥えていたものと()()だった。


 ということはこいつ……いやこいつら、ずっと俺たちを隠れて見ていたのか? だとしたら、なんでそんなことを?


 俺が考えている間に、村長はガルーの身体を村人たちに指示して湖へ放り投げさせた。


 ボチャンっ


 時間経過しても沈んだまま浮かんでこない。

 想像できる結果に思わず目を背ける。


 だがその数秒後、ボコボコと泡が立つと水面から巨大な()が飛び出した。


「あいつは!?」


 ()()()()()()が湖に現れた。


 まさか再開すると思わなかった存在に驚いていると、村人たちが揃ってスライムへ跪く。


 一番前にいる村長が話しかける。


「お待ちしておりました守り神様」

「……」


 黙って村人たちからの礼拝を受け入れる黒いスライム。


 なるほど合点がいった。

 だからあのスライムはバジリスク相手に戦っていたのか。


 俺が納得する横で、グリニアは騒ぎ立てていた。


「なんでです村長! なぜガルーを殺したんです!?」


 その様子は尋常じゃなく、本当に薬が入れられたのかと疑うほどだ。

 だがグリニアの必死さに対して、村長は冷ややかな態度で見つめていた。


「これは神聖な儀式じゃ。ガルーは守り神様に選ばれたのじゃよ」

「どういうことなんです!? ガルーに殺される理由なんてありましたか!?」

「やはり村で産まれないきみにはとうてい理解できないようじゃな」


 お互いに一方通行で、同じ言語なのにまるで言葉が通じてないようだった。

 呆れ果てた村長はガックリと肩を落として俺たちから遠ざかっていく。


「やれやれ。やっぱりグリニアくんは駄目だったようじゃわい」

「では」

「生贄にしてやれ。()()のように」

「分かりました」

「ちょっと待て今なんて言った!?」


 村人たちがグリニアの体を掴む。彼は暴れて抵抗しながら疑問をぶつける。


「ビートをいったいどうしたんですか!? 預かっていてくれたんじゃないんですか!?」

「きみが村に来た日のことじゃ。酒を好き放題呑んで眠っている隣で、彼はここで守り神様に捧げられたんじゃよ。純粋な子供ほど儀式に相応しいからのう」

「ふざけるなぁあああ!」

「黙れ」


 哀しみのあまり血涙を流すグリニア。村長を殺すとばかりの勢いで走っていくが、村人たちから武器で叩かれていく。

 いくら冒険者といえど、直接戦闘職じゃない彼では数で潰されるのも時間の問題だった。


「……」

「もういい。いつまでも飢えた守り神様を待たせられない。あの小娘たちから供物にしなさい」

「ふざけんなこのイカレジジイ! おい汚い手でそのふたりに触んじゃねえ!」


 俺がなんと言おうと村人たちは動じることなく、まるで機械のように命令に従う。


 最初はリリヤ。


 次はドレイク。


 瀕死の状態で薬をうたれたふたりは眠ったまま湖に沈められた。


「やっと恩を返せたと思ったのに、なんでオイラがここまでの仕打ちを受けなきゃいけないんだ!?」


 そしてグリニアが無念を叫びながら落とされていった。

 最後に残った俺は黒いスライムへ視線を向けた。


「……」


 なにを考えているのかまったく分からない。

 未知のものに対し、人間がまず抱くのは好奇心か恐怖か言われているが、俺が感じているのは後者だった。

 一度、助けられたとはいえ今ではあれは気まぐれかなにかしか考えられない。

 闇の塊のような存在を前にして、ゾっ、と背筋が冷える。

 

「よし。そいつも捧げ――」


 守り神は村長の言葉も待たずに動くと、俺を自分から呑んだ。


 そして湖に入る。

 そのままスライムは深い場所まで潜っていく。

 どこまでいくのかと思っているその内に俺の意識は途絶えた。


 それから俺が目覚めた時には、目の前に夕日を背にした()()()()が広がっていた。


続きが気になってもらえたらブクマか広告下の☆☆☆☆☆から応援いただけるとありがとうございます

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