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幕間 幼馴染パーティーのその後2


 男子寮。

 その一角に、三年生の頂点であり同級生以下からは尊敬を集めて上級生からは期待されている黄金の爪のメンバーが勢ぞろいしていた。


 バシッ


「さてそれでは、()()()()()()()()()()()()を始めます」

「はあ?」

「……」

「ごめんね。私にはマリオの言っていることがよく分かんない」


 壁に大きく文字が書かれた張り紙を貼りつけたマリオを、他のメンバーは白い目で見る。

 彼女らの態度を前にして、マリオは怒りで頭まで血液を集める。


「おれを馬鹿にするんじゃねえ!」

「そういうわけじゃなくてえ、単純にアンタのしたいことが意味不明なの」

「だから言ってるだろ! おれたちにとって憎きピガロを全員で潰すんだ! 今はもはや過去の恨みつらみだけじゃねえ。先日の一件で、おれたちの評判はかなり落ちちまった……」


 ドレイクを人質にして、今度こそピガロを退学に追いこむまで痛めつける。

 その計画は失敗どころか全員返り討ちにあったことを、あの場に呼んだ他の生徒たちによって学園中に広められてしまった。

 ピガロたちが否定したため表沙汰にはならなかったが、それでもゴシップの類ではなく明確な真実としてみんなに知られてしまっている。教師陣からの目も厳しくなったのをひしひしと自分たち自身で感じていた。


「校内を歩けば、どこかで陰口を叩いているのが聞こえる。

 あんな大口叩いてたのに負けてやんの。『金メッキの割れ爪(メッキネイル)』に名前変えたら? ドレイクさんすごーい同じ女なのの惚れちゃいそう。あいつ、一年の時にダンジョンでビビっておしっこ漏らしてたよな。絵師に倒されるって、紙の一枚以下で?

 ふざけんなよ! なにもやってないてめえらが偉そうな口叩いてるんじゃねえ! あと漏らしたのはションベンじゃなくて水筒の中身だ!」

「はいはい。そういうことにしておいてあげるから」

「ごめんね。あの時はゴースト系の魔物とかいるの知らなくて」

「うるせえ! 黙ってろてめえら!」

「…………」

「全員で一気に静まり返るんじゃねえ! めちゃくちゃ怖えだろうが!」


 ゼーゼー、と叫び続けて疲れたらしく荒い息で呼吸するマリオ。


 その間に、メンバーで唯一マリオ以外の男であるパルマ―がドアに手をかける。


「トイレか? すぐに帰ってこいよ」

「残念ながら、しばらく帰ってくることはないだろうな」

「なにっ?」

「これからボクはボクで独りで行動させてもらう。パーティー参加の授業の時だけまた会おう」

「どういうことだパルマ―!?」

「マリオ。もううんざりなんだよキミといるのは……あとこれ。新人からリーダーに渡してほしいって」


 出ていくと同時に投げられた手紙を受け取る。


「ったく。いつもそうだよあいつは。おれたちに対してはてんで心を開いちゃいねえ」


 去ったパーティーメンバーの文句を言いながら手紙を開く。


 そこにはリーパーから「すいませんが黄金の爪を抜けさせてもらうっす。もう他のパーティーに入っているので心配はいらないっす」という内容が綴られていて、最後には「人を見る目がない()()()()()()へ」と書かれていた。

 

 ザクッ、と手紙にロングソードが刺さった。


「殺す相手が増えたみたいだ」

「キャハハハ。じゃあ早速、今からやりにいきますか」

「さすがにやめたほうがいいんじゃ……元味方同士だし……」

「ピガロもそうだろうがよ!」

「ひぃ。そ、そうだったね。ごめんなさいごめんなさいピガロごめんなさい」

「ちっ。謝ればいいと思いやがって。そういうところムカつくんだよ。強く言われれば誰にでも従うところもな」

「ご、ごめんなさい……」


 しゅん、とうなだれるウルナ。

 彼女の態度につられるように場の空気が沈んでしまった。


 マリオはなんとか元に戻そうとなにか言おうとするが、その前にレイが口を開いた。


「じゃあアタシも抜けさせてもらうね」

「なんでだよ!? さっき一緒にリーパーを相手にしようと言った時は楽しそうだったのに」

「アタシはね、自分より弱い誰かを一方的にいたぶるのが好きなの」

「じゃあピガロを潰すのを手伝ってくれてもいいだろ。今の評判を覆すには、直接、あいつを仕留めるしかない」

「ピガロは……ピガロは……」


 言いながら目を抑えるレイ。

 トウガラシによって受けた辛さを思い出して、ワナワナと震える。


「【大魔女】であるおまえがビビってんのか?」

「うるさい! アンタになにが分かるのよ! だいたい、ピガロだけならともかくあの無駄乳(ドレイク)までいるのにこの三人じゃ無理よ!」

「ごめんなさい」

「ウルナに言ってんじゃないわよ! まあいいわ。とりあえずちょうどいい機会だし、アタシもこの泥船から降りさせてもらうわ」

「ど、泥船だと!」


 マリオの激昂に反応すら示さず、レイは窓から箒に乗って出ていった。


 ふたりだけになったマリオの部屋。


「ごめんね。じゃあ私も」

「待てウルナ。おまえ【聖女】だろ」

「それとこれにはなにも関係なくない!?」

「いいやある。ここに哀れな子羊が一匹だ。おれを救え」

「ただの自業自得でまったく哀れじゃないような……」

「手伝えウルナ!」

「は、はい。う~ごめんねピガロ、無駄乳さん」


 こうして黄金の爪は完全な崩壊を免れたが、その戦力は半分以下となってしまった。



 

 名無しの山。

 特に呼称のない山の中に、現在、ふたりだけとなった黄金の爪はいた。


「よしよし。いるなピガロ」

「なんでこんなことを……」


 アトリエ迷宮がクエストを受注したと情報を聞いたマリオたちは先回りしていた。


 今は木陰に身を潜めながらピガロたちが歩いているのを見ている。


「無駄乳さんだけじゃなくメイドさんまでいるよ。ピガロ、モテモテだね~」

「クソ。なんであいつだけ」

「あっ、でもすごい悪口言われてるよ。薄い巻物で流行ってるツンデレってやつかな」

「そんなわけねえだろ本心からだよ。あいつに男としての魅力なんざこれっぽっちもねえ。もっと言え言ってくれ!」


 ピューイ

 興奮して大声を出してしまった途端、口笛が聞こえてきた。


「わあ! なんかこっちに来た!」

「逃げるぞ」


 ワイルドウルフが走ってくる方向とは逆に逃げる。


「よし見失った。ウルナ、物とか落としてバレるような真似はしてないよな」

「うん大丈夫」

「それならあいつらが来たことだし、準備を始めるとするか」


 逃走を完了したふたりの前には、気を失った魔物たちが転がっていた。

 ウルナが杖を握りしめて、詠唱を開始する。その途中、マリオは違和感を覚えた。


「んっ? あいつまだ意識があるな」

「……」


 くすんだ毛色の獅子――アッシュレオが立ち上がろうとしていた。

 その瞳には、まだ戦意がある。

 喉元に噛みついて捩じ切ってやるという声が聞こえてきそうだ。


 《飛空剣(ソニックウェーブ)


 遠距離から飛んできた衝撃波に当たると、最後に絞り尽くしたはずの体力を奪われて力尽きた。


「ずいぶんとタフだな。本来だったら虫唾が走るところだが、今回ばかりは嬉しいものだ」

「ごめんね。もうやってもいいマリオ?」

「いいぞ」

「みんなごめんなさい。《天使の癒し(エンジェルヒーリング)》《狂信の祝福(ファナティックブレス)》」


 ウルナから散らばった緑と赤の光が次々に魔物たちへ降りかかる。


 緑の光に触れると魔物たちの悪くなっていた血色も元に戻り、怪我も回復していく。

 赤の光が染みこむと――目を充血させ、肉体がひと回り大きくなった。


「さておまえたち。これからはおれがご主人様だ」


 マリオの言葉を聞いた途端、列を作って並ぶ魔物たち。


 《天使の癒し》は中級の全体回復魔法。

 《狂信の祝福》は、肉体強化を含めた複数のバフ効果と『隷属(スレイブ)』をかける。『隷属』とは一定時間、魔物が人間の命令に従う状態異常だ。


 先ほどまで痛めつけられていたアッシュレオさえ、マリオの忠実なる僕となっている。


「相変わらずイカれてるなそのスキル。とても聖女とは思えねえ」

「ごめん。私もよく分からない内に身に付いてて。あと弱ってないとバフだけかかっちゃったりもする」

「まあ別にピガロを潰せるなら今はなんでもいい。そいつのおかげで魔物たちのランクはひとつ上がったとみていい。そんなやつらが大群で押し寄せてくるんだ。いくら他の連中がいてもひとたまりもねえぜ」


 三十体以上の魔物が、今か今かと強化された力を漲らせて指示を待っている。

 マリオの視線の先では、ブラックパールがピガロたちの手によって倒された。


 たしかに強敵ではあるが、この魔物軍団の総合力に比べたら劣る。勝利を得て油断している今こそがチャンスだった。


 マリオは剣をピガロへ向ける。


「とつげ――」

「ちょっと待ってマリオ! あれ見て!」

「なんだ急に?」


 マリオは振り返る。

 それからわずか数秒後、彼らは支配下にしたはずの魔物たちを置いて脱兎の如くその場をあとにした。


「うわぁああああ! ()()()だぁあああ!」


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