17話 学園大会に向けて
学園大会。
それはトレジャー学園における一~六学年の全校生徒同士による冒険者としての覇を競う学園最大のイベント。外部からはOBだけではなく各ギルドのお偉方はては一般人までもが観戦にくるほどの大規模な催しで、優勝すればひとつの学校の規模に収まらない栄誉が手に入る。
もちろんそんなことは経験した上級生どころか新入生すら把握していて、生徒たちはひとり残らず全力を注いで参加するのが当たり前だった。
毎年行われるこの大会は時として命がけの戦いにも発展する熾烈な争いだった。
「――というわけでそんな大会で優勝するために、お知恵をお貸しくださいお嬢様」
「えっ?」
黄金の爪を倒してからの翌日。
放課後になった直後、俺はクラウチングスタートを決めてダッシュでこの教室まできた。
目の前には帰りの仕度をしている最中のマツリエ。
夕日で輝く金髪ドリルの間で、ポカーンとした表情を晒していた。
「い、いきなりなんですの? ピガロさん」
「三年生パーティーの№2『薔薇の庭園』のリーダーに相談がしたくて参りました」
黄金の爪が学年トップと認識されていたのは、ただ漠然とした基準ではない。
ダンジョン講習や催し、そして現在直面している学園大会において同学年の中で最大の好成績を残しているからである。
薔薇の庭園は、黄金の爪に継ぐ順位のパーティーあった。
事情を話すと、マツリエは段々と納得顔になっていく。
「なるほど。つまるところピガロさんは新しいパーティーを作り、そのパーティーで優勝して汚名を晴らしたいのですマシマシね」
「はい。だけど俺、他に相談できそうな人もいなくて。忙しいようなら、今すぐじゃなくて空いている時間でいいんですけれど」
「お嬢様。本日はこれから理事会への出席それが終わってから町長との夕食、夜には舞踏会への出席があります。」
「じゃあ今日は無理か……」
「全部キャンセルマシマシ」
「はっ?」
「分かりました。すぐに連絡させていただきます」
「いいのそれで!?」
少しの間、席を外す銀髪メイドのリリヤ。
マツリエは足を組んで、悠然とした態度で椅子に腰を下ろす。
「どうせ全て決まり事。直接会わなくても済むようなことばかりですわ」
「いやそれにしても滅茶苦茶というか」
「まあ過ぎたことはよいじゃありませんの。それよりも、ピガロさんのお世話をするほうがずっと愉快……もとい有意義ですわ」
「玩具にする気満々ですね」
「マシマシ! これで先日の借りは返しましたわよ!」
もはや鳴き声のように語尾で高笑いするマツリエ。
本人がいいというなら折角なので知りたいこと全部尋ねることにする。
「ぶっちゃけた話、今から俺たちが大会で優勝するにはどうしたらいいでしょうか?」
「そうですわね……とりあえずまずこちらからも質問させていただきますわ。疑問文に疑問文で返す非礼をお許しくださいマシマシ。逆にピガロさん、あなたたちの今の戦力だとどれくらいの確率で優勝できると思っていますの?」
「厳しいですが、まあ奇跡を信じて五%くらいはあるんじゃ……」
「残念。〇%ですわ」
「そ、そんなにですか!?」
たしかに俺が足を引っ張りかねないが、ドレイクは黄金の爪の連中と同じく三年には収まらない優秀な能力の持ち主だ。
ならばなんだかんだで芽はあると思ったのだが、さすがは学園大会。とても高い壁だった。
俺が落ちこんでいると、オホホホホと笑うマツリエ。
「だってドレイクさんとピガロさんのおふたりだけじゃ、参加人数に足らないんですもの」
「ガクーン」
「ですのでまずは最低人数の四人までパーティーメンバーを集めることをおすすめしますわ」
「な、なるほど。でも人を集めると言ったってどうすれば?」
「あら? ピガロさんはかつて黄金の爪に入っていたのじゃありませんの?」
「そのへんのことは全部リーダーのマリオに任せていたんで。あと結局、全員知り合いでしたから」
「たしかにそれならば知らないのも無理がありませんわね。よろしい。ならばそこからわたくしが直々に説明してさしあげましょう」
マツリエは黒板前に移動するとチョークを手にする。
「ではパーティーメンバーを集める方法を紹介しますわ。
①スカウトですわ。単純に他のパーティーに属していない人に声をかけて、入ってもらうことですわ。上級生や同級生はもう目ぼしい人材はどこかで固定されていますから、対象としては新入生が狙い目ですわね。
②募集ですわ。掲示板に募集記事を頼んで貼ってもらいますの。多くの人の目につくのがメリットですわ。反面、足りない人材を晒すという学園大会においては情報のデメリットがありますわ。
③引き抜きですわ。先ほど言ったスカウトを既に別のパーティーにいる方へしますの。成功すれば競争相手の戦力を削ぎつつほしい人材が手に入るという最高の方法ですわね」
「いいんですかそれ?」
「規則のうえでは問題ありませんわ。ですが学園生活でのトラブルの種になりえますし、引き抜かれた人物も悪印象を受けるのを嫌がるので正直おすすめしない方法ですわね。他には④契約魔物という方法がありますけど……」
「魔物で一枠埋めていいんですか?」
「ええ。だけどこれは無しと考えたほうがよろしいでしょうね。人間よりもよっぽど集めにくい人材ですし」
魔物と契約することは、【魔物使い】というジョブにしかできなかった。
ひとつひとつの方法の細かい点について書き続けるマツリエ。あとでまとめて質問しようと沈黙していると、彼女から話しかけてきた。
「そういえばドレイクさんはどうしましたの?」
「あいつなら少し用事があると言って」
「そうですか……残念マシマシ……」
目に見えるほど落胆するマツリエ。
実際、用事なんてないのだがドレイクは顔を合わせるのを嫌がって逃げた。気持ちは分かるのだが、ここまで暗い雰囲気になるマツリエを前にすると少し憎い気持ちになる。
しかしドレイクはマツリエが誰か分かっているからともかく、なぜマツリエのほうはここまでドレイクに好意を持っているのだろうか?
「実はドレイクさんは、わたくしの尊敬する人と似ていますの……」
「へぇー」
「赤髪で女ながらに騎士を目指していたお転婆娘」
「ぶー!」
「ど、どうしました急に水を吹き出しまして。お背中をさすりましょうか?」
「だ、大丈夫。気にしないで」
動揺を抑えながら廊下に垂れた水を雑巾で拭く。
おいバレているぞドレイク。いや同一人物とまではまだ確信されていないようだが。
手伝ってくれたマツリエは、持ってきたバケツに貯めた水を絞る。
「彼女は生意気でうるさくて、そのくせ不正に誰よりも厳しい正義漢。そんなみんなと違って剣を振り回していつも泥だらけのあの娘を周囲は影でせせら笑っていました。だけどわたくしだけえは胸の中でずっと慕っていましたわ。でもある日、そんな彼女も行方不明になってしまって」
「あっ、はい」
「どれだけお金をかけて探し回っても、彼女の消息は掴めませんでしたわ。騎士団ばかりでなく家族の方々も諦めていました――しかしわたくしは信じていますの。あの少女は絶対どこかで昔のように騎士を目指している。だからわたくしは立派になった彼女といつか対面した時に恥ずかしくないよう誇りある高潔な騎士になってみせますの!」
水を抜いた雑巾を、バッ、ときっきり広げて乾かすマツリエ。
すごくかっこいいんだけど、色々と事情を知っている俺からすると複雑な心情を抱かさるをおえなかった。
今回教えてもらったお礼に、せめて彼女の志をドレイクに話しておくとするか。
掃除を終えた俺たちは講義に戻ることにする。
「それではこれからの具体的な方針ですが――」
「お嬢様。戻りました」
「リリヤ! ちょうどよかったマシマシ!」
「? お嬢様のワガママに振り回されて従者としてとても疲れているのですが」
無表情のまま首を横へ傾げるメイド。
彼女の文句をまったく気にすることなく、マツリエはカッ!とチョークで黒板の一点を叩く。
「ピガロさん。あなたが最初にすべきことはこの②募集ですわ。そのためにこれからあなたたちには遠征に出てもらいます」
「分かった」
「そしてリリヤ。あなたも彼らの初クエストに同行してあげなさい」
「――えっ?」
俺が首を回すと、メイドと目が合う。
「この愚鈍で虚弱としかいいようのない蝋燭みたいな男と組め? 冗談はおよしください」
彼女の瞳はまるで氷のように冷たかった
『仲間紹介』リリヤ
【年齢】18(三年生)
【誕生日】4月1日(虎座)
【身長】175/59
【スリーサイズ】80/53/92
【趣味】?
【好きなもの】?
【嫌いなもの】?
【ジョブ】?
【攻】C
【防】E
【魔】E
【速】A
【運】B
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