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16話 仲間と矛盾

前回出した《地獄の釜》を百枚出すスキルですが、《地獄の釜×100》と名前が付くことになりました

なので今回出す単語にもルビを振っておきます。まことに申し訳ありませんでした。



「ふうー」


 戦闘を終えて一呼吸した俺は、すぐに下に散らばっている《地獄の釜》が視界に入らないよう見上げながら廊下を進む。


 《地獄の釜×100(ムゲンヘルフォール)

 強力なスキルであるが、回収できない一回こっきりなのが難点だな。 一応、他にも予備は残してあるため咄嗟に襲撃されても問題はないが。


 俺はまだ見ぬ敵を警戒しながらもできるかぎり急いだ。


 ガチャリ


 解錠して扉を開ける。鍵穴を覗けば構造(デザイン)を把握できるため、複雑な魔法さえかかっていなければピッキングできる。


「誰だ?」

「俺だ」

「……ピガロ! どうしてここに」

 

 目隠しされていたドレイクが気づいた。

 透けるように白かった頬が青黒く腫れてしまっている。


「俺のせいなんだ。当然だろ」


 関係なかった彼女にまでここまでしたあいつらに怒りが湧き上がるが、今はそれより怪我の治癒を優先したいため近寄ろうとする。


「それ以上近づくなピガロ……」

「えっ?」

「違う。おまえのせいなんかじゃない。これは俺様が勝手にやったことだ」

「でも――」

「おまえはもう俺様にこれ以上関わろうとするな!」


 必死な叫びに、つい俺は足を止めてしまった。


 ビチャリ

 ドレイクは血が垂れてゆく唇を自嘲するように曲げる。


「怒鳴って悪かったな。そもそも俺様からここに押しかけてきたのを、おまえは迷惑してたのに」

「……」

「だけど、もうなにもしなくていい。俺様もこの件が一件落着したらすぐに出ていくつもりだ」

「なんで?」

「ピガロ。おまえはおまえの道を歩んでくれ。冒険者になるには俺様たちみたいな犯罪者に関わることはマイナスでしかない」


 マリオが言っていたことを思い出す。

 どうやらドレイクは本心から俺に冒険者になってほしいと願っているようだ。

 かつて女の身でありながら騎士に憧れたが、家の事情によってその将来は閉ざされた。彼女は憧れを目指せなくなる無念さを知っている。だからこそ俺を諦めてまで、その背を押したかったのだろう。

 

 俺としては別に盗賊と縁を切れるならそれでいい。

 元々、自分から脱走しようとした身だ。

 ドレイクの言う通り、冒険者になるなら不要な繋がりでしかなかった。


「俺様はおまえを守る代わりに部屋に閉じこめる鳥籠になろうとした。だけどおまえの決意を知って考えが変わった。ピガロ、おまえはおまえが憧れる存在になってくれ……俺様はおまえを邪魔するあいつらだけは道連れにしてやる。だからピガロは安心して、これからなんの負債もなくなった再スタートを切れ」


 あいつらというのは黄金の爪のことだろう。

 前までだったら庇っていたが、やつらが俺にしでかしたことを知った今は助けるつもりなんて起こらなかった。

 なんの苦労もせずにどちらの障害も消えてくれる。

 ドレイクの提案は、たしかに俺からすると魅力的だった。


 俺は停止したまま頷く。


「分かった」

「分かってくれたか。なら今はさっさとここから帰ってくれ。ここにいられちゃマズい」

「……でもその前にいくつか質問してくれ。これでお別れなんだからいいだろ?」

「そうだな。でもあまり時間がないから手短にな」


 さっきから焦っているドレイク。

 いったい彼女はなにをしようとしているのだろうか?


「じゃあまず訊きたいのは、なんで抵抗しなかったかだ? おまえなら反撃もできただろう」

「理由はふたつある。ひとつはそういう契約だったからだ。ピガロに手を出さなくする代わりに、気が済むまで俺様を殴れってな」

「でもあいつらは俺を……」

「だろうな。どうせ守られるなんて思っちゃいなかったが、それはそれでよかった」

「?」

「もうひとつの理由。それはこの負傷をきっかけにして、やつらを退学まで追いこむつもりだ」

「なにっ!?」

「冒険者学校だ。私闘の例なんてのはいくらでもある。だが一方的な暴力はさすがにアウトだ。いくら有望視されているとはいえ、かなり危うい立場に追いこまれることになるだろう。もし退学とまでいかずとも、あとはもう学園を辞めてノーダメージの俺様から揉め事を仕掛ければ時間の問題だろうな」


 ドレイクはしたたかだった。

 夢を諦め、盗賊になった彼女はその人生で騎士になろうとするだけでは得られないものを身に付けた。それはとても便利で、決して悪いものではないだろう。


 ()()()――俺から見える彼女の笑みはどこか寂しそうだった。完成した絵を前にして見せてくれたあの時のものとは明確に違っていた。


 ギィギィ


「なんの音だ……おいピガロ。まさかおまえ近づいてきているのか?」


 その通り。俺は動かしてなかった足を進めている。

 ドレイクに触れるまであと一歩のところで止まると、手を伸ばした。


「じゃあ、最後にもうひとつだけ訊かせてもらう」

「おいピガロ、おまえなにして――」


 ピシッ、と目隠しのリボンを引っ張る。


 再開した彼女の瞳は――


「ドレイク。よかったら俺の()()になってくれないか?」

「えっ?」


 ――涙で潤んでいた。


 一瞬、意識をどこかへやるがすぐに慌てて目元を隠す。


「おまえ泣いてたのか?」

「泣いてなんかない! 泣いてなんかないんだぞ!」

「まあそれは別にどっちでもいいんだが」

「よくない! 俺様は泣いてない!」


 躍起になって否定するドレイク。

 とりあえずハンカチで顔を拭いてやることにする。


「なにをする!?」

「血をとってやったんだ。大事なことなんだから顔合せて話そう」

「それならまあ許してやらんこともないが……」


 ポケットにハンカチを戻す。血以外にも水のようなもので濡れていた。


 顔を上げるドレイク。

 眼帯のない実物の彼女を見るのは初めてだ。思わず、綺麗だ、と呟いてしまいそうになるが今は他に優先することがあるので喉元でグッと抑える。


「それでさっきのに対しての答えはどうなんだ?」

「いやそのことなら既に言っているだろう。これ以上おまえが俺様たちに関わっても得はない」

「でも俺、副団長だよ?」

「そんなものとりあえずあいつらに手を出させないためのでっち上げた立場だし、なによりもおまえ自身はとっくに盗賊辞めただろうが」

「出ていくって言っただけで辞めるなんて一言も口にしていない」

「屁理屈はやめろ」

「そうだね。俺も別にてきとうに誤魔化したいわけじゃない――だから学園に残って、俺とパーティーを組んでくれドレイク」

「無理だって言ってるだろ!」

「盗賊のボスだっていい。俺が冒険者になるまで、おまえに隣にいてほしいんだ」

「……」

「たしかに黄金の爪の連中が消えてくれるのは嬉しい。でもドレイク、その引き換えにおまえとまで関われなくなるのは嫌なんだ」


 もう気持ちを偽りはしない。

 この一か月間を経て、俺はもうドレイクに仲間意識を覚えていた。

 別れるのは悲しいし、なによりも彼女とこの学園で共に過ごしたかった。

 それに()()()()()()もできた。

 そのためには、俺に協力してくれる存在がほしかった。


 バタンッ!


 閉じていた扉が、勢いよく開いた。


「ピガロ! ぶち殺す!」


 廊下には死んだはずの連中も含めた黄金の爪が勢ぞろいしていた。


「マリオ。レイ。おまえたちがどうして」

「ごめんね。わたしのスキルで復活させちゃって」

「さっきはよくもやってくれたわね。今度は全員でその雌牛もろとも一方的に殺してあげるわ」

「……」


 全員が大技の準備をする。どんな強力な魔物だろうと、この総攻撃をもらって生きていられるものはいないだろう。


 突如訪れた絶体絶命の危機を前に、俺はドレイクのほうへ振り返った。


「ドレイク。力を貸してほしい」

「……」

「おまえらもよく聞け! 俺は次に行われる学園大会で優勝する!」

「学園大会。生徒全員による冒険者としての能力の競い合いで、学園最優のパーティーが決まる戦い」

「なにを世迷言を! おれたちと一緒ならともかく、おまえ独りにそんなことできるか!」


 否定の言葉が続々と聞こえる。

 そうだな。たとえこの画像があっても俺ひとりじゃ無理なのは分かっている。


 スパッ

 縛っていた縄が切れ、ドレイクは手にサーベルを有していた。


「教えてほしいピガロ。なぜおまえがそんな決意をした」

「【絵師】の力を見せつけたい。本当はこんなこともできるんだぞって偏見を取り除きたい」


 【探索者】になる前の【盗賊】もそうだった。みんな、よく知りもしないのにイメージだけで人を平気で傷つける。

 だから俺は自分の力で、このジョブの悪印象を払拭してやりたかった。


「ちょっと前まではこんなジョブに選ばれたことを不幸に思っていた――だけどこのジョブのおかげで救えた人がいて、ドレイクにも会えたんだ。ようやく好きになれたんだよ。だからドレイク、俺に協力を――俺を封じこめる()ではなく俺の()になってくれ!」


 ドレイクは俺の前に立ち上がった。

 そして同時に放たれる強力スキルの数々。


「死ね!」

「貴様たちにひとつクイズだ。東の大陸で、矛盾という言葉がある。それは全てを貫く矛と全てを通さない盾がぶつかったらどうなるかという話だ」


 《恐竜牙切裂》

 《神の裁光ゴッドジャッジメントレイ

 《迦楼羅浄炎旋風》

 《黒金剛右砲(ボルツストレート)


 言い切る前に物凄い迫力で襲いかかってきた。

 どれかひとつだけでもとんでもないのに、合わさるように飛んでくる。当たる直前、ドレイクは口を開く。


「さてQ(クイズ)、ではそんな矛と盾を同時に装備した相手を敵にしたらどうなるでしょうか?」

 

 A(アンサー).敵は死ぬ


 《女神聖天守護壁》で全てが防がれる。第二撃がくる前に俺が見せた《地獄の釜》を見た四人は絶命に陥った。

 

 勝利の光景を背にして、ドレイクは俺へ振り返った。


「おまえの頼み、承ったぞピガロ。これから俺様はピガロの望む道を邪魔する連中からピガロを守る盾となろう」


 その笑顔は、かつて俺がときめいたそれとまったく同じだった。


『仲間紹介』エドワード・ドレイク

【年齢】17(三年生)

【誕生日】8月20日(小犬座)

【身長】171/63

【スリーサイズ】90/60/87

【趣味】美術品鑑賞

【好きなもの】レインボーマグロソテーのタプナードソースかけ、ピガロの絵、マヨネーズ(最近好きになった)

【嫌いなもの】甘いもの、偉そうなやつ

【ジョブ】聖騎士(上級職)

【攻】B

【防】S

【魔】C

【速】D

【運】E

※E~Aに上がっていくほど優秀。SはAを越えた規格外。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 最強コンビの誕生。 [一言] 絵で殺すというあまり見ない戦い方だが、ちゃんと戦法を考えている主人公が利口。 メンバー全員でたった二人に勝てなかった黄金の爪の株は大暴落ですね。
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