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幕間 幼馴染パーティーのその後1



 講習用ダンジョン地下六階。


「どうなってやがるリーパー! 敵と遭遇してばかりだぞ!」


 マリオは自分たちのパーティーである黄金の爪(ゴールドクロ―)に新しく入った【探索者】の首根っこを掴みあげて怒鳴りつけた。


「こ、こんなもんっすよだいたい。むしろあんたらのパーティーに入らせてもらったから気合入れたほうっす。だから実際いつもよりエンカウントは少なかったっす」

「そんなわけあるか!」

「ぐえっ」


 地面に投げられるリーパー。

 松明の下、マリオは摩耗した長剣を見つめる。何度もこの階まで下りてきたことはあるが、ここまで刃が擦り減ることは今までなかった。

 他のメンバーを見ても装備がボロボロになっていて、疲労が溜まっているのが伺えた。


「どういうことだ? 代用ではなく、しっかりとした本職に変えたのに」


 今までダンジョンの先導はピガロの役割だった。だがそれは所詮は他にやれることがないからであって、絵を描くことしかできない【絵師】では大して役に立っているはずがなかった。

 これでは予定していた階層まで行くことはできない。おれたちは学園最速記録で最下層に到達するはずだったのに。

 予定外のアクシデントに頭をこんがらがらせるマリオ。


 その前では、レイが宝箱を発見していた。


「いつまでも寝そべってないで、とりあえずこれ開けてよ【探索者】さん」

「はいっす」


 言うことに従って、リーパーは宝箱に寄って《解錠》を試みる。


 カチャカチャカチャ


 ……長い。

 わざわざ盗賊七つ道具と呼ばれる専用のピッキングアイテムを使っているのだが、かなり時間がかかっているとリーパー以外のメンバーは感じた。


 ピガロだったら、針金一本でもっと短い時間で開けていたのに。


 そんな思考がよぎった瞬間、プシュー、と大きく開いた宝箱から煙が噴き出てきた。


「毒霧か!」

「ごほっ。ごほっ」


 どこもかしこも壁だらけの密集空間で逃げ場はなく、思いっきり吸ってしまう。

 猛烈な痺れと吐き気。

 ウルナが【聖女】のスキルを使ったことで毒の成分は浄化されて一命を取り留めたが、危うく全滅の危機だった。


「いい加減にしろてめえ!」

「ごふっ」


 マリオは怒りの衝動に任せて、失敗したリーパーを殴りつけた。


「わざとやってんのか!? オレたちになにか恨みでもあんのか!」

「そんなものなかったっすよ。逆におれ自身は、あんたら黄金の爪に憧れてて誘われた時は舞い上がるほど喜んだんす。だから引き抜きの件もふたつ返事で受けて」

「じゃあなんであんなことをした? おまえは同学年の【探索者】としては一番の凄腕なんだろ?」

「いくら技術があるからってただの【探索者】に、難易度レベル六の宝箱なんて開けられないっすよ。誰がやったって失敗するっす」


 不貞腐れたようにリーパーは答える。

 

 説明を受けて、愕然とするマリオたち。

 これまで冒険者としては常識とされるはずの宝箱の難易度レベルのことなど彼らは一切知らなかった。なぜならどんな宝箱でも、ピガロは少し時間に差があれど問題なく解錠できていたからだ。

 足手まといを切り捨てて、自分たちになかったものを埋めたはずが今までになかったほどの大ピンチの状態に陥ってしまっている。

 

 動揺していると、背後から足音が聞こえてくる。


「まずいっす! ハイオークっす!」

「オーク程度!」


 マリオは予備の剣に切り替えて、《切裂》を発動する。

 巨大な体から振り下ろされる棍棒と剣がかち合う――マリオは耐えきれずに弾き飛ばされた。


「マリオ!?」

「ちっ。どうなってやがる」


 これまでならば初級スキルでも充分だったはずなのに明らかに威力が落ちている。


「手伝うわ」


 レイは遠距離から一方的に火炎魔法をぶつける。

 マリオとパルマ―が防御に回ってハイオークを足止めする。しばらく死闘した末に、かろうじて勝利した。


 おかしい。

 たかがハイオーク一匹にこんな苦戦するはずないのに。


 不満と疲れは別の感情に変わり、マリオはウルナを怒鳴りつけた。


「ウルナ、なんでボーっと突っ立てるだけでなにもしなかったんだ!?」

「ご、ごめんなさい」

「謝るんじゃなくて先に理由を説明しろ! 相変わらず陰気でむしゃくしゃするんだよその態度! 謝ったら怒られずに済むと思ってんのか!?」

「ひぃん!」

「落ち着けマリオ。そんなんじゃ話すにも話せないだろ」

「てめえもだよパルマ―! どうして攻撃しない! おまえが参加すればもっと早くケリがついただろ!」

「……武器がもうボロボロでな」

「!」


 パルマ―の籠手が自分の剣と同じ状態になっていることに気づいたマリオ。

 どういうことだと考えていると、ウルナはなぜ自分がなにもしなかったのかの理由を話してくれた。


「あの私。さっきの毒の治癒でもう魔力切れで」

「なんだと。おまえ、いつもならこれくらいじゃヘバらなかっただろ」

「そうなんだけど。私にもよく分からなくて。でも今日はなんでか魔法を使うたびにこれまでより魔力を持っていかれちゃって」

「……たぶん、武器の消耗のせいじゃないっすかね?」


 声をあげたのはリーパー。

 彼はウルナの杖に《鑑定(アナライズ)》をかけると、大声をあげる。


「なんだこの装備!? めちゃくちゃ凄いじゃないっすか!」

「そ、そうなのか?」

「はいっす! 状態はひどいけど性能自体は杖も服も冒険者の装備の中では一級品で、学生なんかじゃ手に入らない破格の品っすよ! ダンジョンの下のほうにあったんすか?」

「いやこれはピガロが作ってくれたもので。メンテナンスもあいつに任せていた」


 今回の授業ではそれぞれ持ち主たち自身でやっていた。

 

 話を聞いた途端、リーパーは思いっきり溜息を吐いた。


「はぁ~。学年ナンバーワンにして次の学内大会では先輩たちを追い抜いて上位に並ぶって噂の黄金の爪がどうしてこんな期待外れのひどいパーティーだったのか分かったっすよ」

「き、期待外れだと!」

「多分あのピガロってやつが影の立役者だったんすね。絵ばっか描いてるだけの雑魚だと思ってたのに、評価を改めたっす」

「あいつを持ち上げるんじゃねえ!」

「うごご。苦しい」


 今度は首を絞めつけられるリーパー。

 怒りに燃えるマリオの後方で、ウルナは複雑な顔をしていた。


「そろそろ死ぬぞ。そのへんでよしておけ」

「黙れ。なにも知らねえクセに、好き勝手言いやがって」

「ボクたちに関係ないなら喧嘩なんていくらやっててもいいが、これからどうするんだリーダー?」

 

 パルマ―の助言を聞いて、マリオの手が放れる。

 現在、自分たちはダンジョンの中にいるのだ。学園の授業用とはいえ魔物も罠もうんざりするほど設置されていて、死さえもありうる状況なのだ。

 

 退却が当然の判断なのだが、今回は最下層までを目指したため今までほとんどアイテムを収穫していない。

 

 このまま戻っても実入りがないことを考えると……


「進む」

「えっ?」

「キャハハハ。じゃあアンタらなにもできずに超ダサい状態だから、アタシが唯一の希望ってわけね」

「レイ。おまえも魔力切れ近いだろ。まだ残っているなら、ハイオーク相手にもっと強い呪文をぶつけていた」

「……」


 だがここから下には行かない。なんとかこの階で最低限の収穫だけはする。

 難しいことだが自分たちならばできるはずだ、とマリオはこの絶望的な状況の中で決断する。


 リーダーの指示に従って、パーティーはダンジョンを進行していく。


 この日、黄金の爪は結成以来初めての全滅をした。




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