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1話 役立たず、パーティーから追放されて死ぬ


「ピガロ。おまえにはこのパーティーから消えてもらう」


 幼馴染であるマリオが俺へ追放をつきつけてきた。


 あまりの驚きに、大切な仲間と思っていた周囲の人物たちの顔を見渡す。


 強大な魔力でどんなものだろうが灰燼と化してしまう炎を放つ【大魔女】レイは察しの悪さに呆れ果てていた。

 どれだけ硬い壁でも一撃で打ち砕く【拳闘王】バルマーは冷たい目線で見放していた。

 全ての状態異常を無効にし、死さえも癒す【聖女】ウルナは罪悪感を覚えつつも納得していた。


 ……やっぱりな。実は分かっていた。


 この四人とは同じ村の出で、いわゆる幼馴染というやつだ。学園に来るまでは神童ともてはやされていた俺と仲良くしてくれて、みんなで将来は冒険者の頂点に立つと約束してくれた。

 だがジョブを言い渡されたあの日から少しずつ、彼らの心が離れていくのは手に取るように感じていた。


 俺のジョブである【絵師】は、どうやら学園トップクラスに昇りつめようとしているこのパーティーには不要なようだった。


「でも、俺は俺なりに必死に頑張ったんだ」

「結果の出ない努力なんてのはなんの意味もない。少なくとも、おれたちには必要ないものだ。遊びでやってるんじゃないんだよ。武器もろくに振るえない魔法も使えない、絵を描くことしか能のないお荷物を背負う余裕なんてものはない」


 大人の冒険者でも歯が立たないA級モンスターであるグランドラゴンの首を切った【剣聖】。

 誰よりも実績をあげているマリオに言われたら、所詮は雑務しかできてなかった俺にはなにも言い返せなかった。


「ごめんね」

「バイバーイ。あんたの代わりは用意してあるから、もうお役目ごめんよ寄生虫さん」

「さっさと失せろ」


 ひどい言われようだった。

 いくら足手まといだったとはいえ、仲間にこんな仕打ちをするなんてのは頭にキた。


「まあそういうことだ。分かったらさっさとオレたちの前から姿を消してくれ。そして二度とその惨めでうっとうしい面を出すな」


 グググ

 怒りを力にして、拳を思いっきり握りしめる。


 ジョブの差というのはとても大きい。だがこの距離での不意打ちならば当たるはずだ。それに故郷にいる時に、マリオへ剣を教えたのは俺だ。


 最期に俺は決別の拳を放って、別れようとした。


 バゴン!


「っ~!」

「安心しろ。峰打ちだ」


 殴りにいった右腕を抑えて、俺は床をのたうち回る。

 激痛が走っているのに感覚が消えている。明らかに骨折していた。


 攻撃を見抜いていた? それともマリオの動きが速過ぎた?


 どんな内容で反撃されたのかも分からない時点で、俺はもうマリオが今いる世界の足元にも到達していないことを噛み締めてしまう。


「ダサすぎ!」

「あの、治療」

「放っておけ。捨てていくものへ半端な情を与えるな」

「……ごめんね。ピガロ」


 かつての仲間たちは、怪我する俺を放置して教室から去っていく。

 最後にマリオだけが残った。


 ペッ


 頬につばが吐きかけられた。


「十で神童、十五で天才、二十過ぎればただの人。おまえの場合は少し賞味期限が早かったな」


 それだけ言い残して、マリオも俺の前から消えていった。


「ちくしょう」


 独りになった俺が悔しがろうが痛がろうが、誰も慰めも助けにもきてくれるなんてことはなかった。




 休んで痛みが和らいだ俺は、まず自分のアトリエへ戻ることにした。

 今日は学園が休みなため、保健室は閉まっている。治療については自力でやるしかない。


「もう辞めようかな。冒険者学校」


 卒業生のほとんどが一流冒険者になっているエリート養成を得意とするトレジャー学園。本来ならば多額の入学金が必要で貴族や大商人のボンボンな子供くらいしか通えない。当然、片田舎産まれの俺にはそんな金はなかったが能力が評価されて特待生として受け入れてもらった。


 だが三年になっても結果を出せない俺へさすがに見切りをつけてきたのか、つい先日、退学届を渡された。


 書け、とまだ直接言われていない。けれどこんな調子では、問答無用で追い出されるのもすぐだ。


「でも辞めたところで、こんなジョブで仕事につけるのやら」


 絵が上手い。【絵師】の特徴はそれだけだ。

 武器で魔物をやっつけることもできず、魔法で生活の助けになることもできない。

 なんの実りにもならない職業だった。


 ……なんでこんなジョブになったんだろう?


 教師にも誰にも成り手がいなく、授業中も今日までひとりで黙々と描き続けているだけだった。


 力も湧かせず、絆も作れない。

 唯一の拠り所であった故郷からの仲間を失った今、初めて俺はこうなった不幸を恨んだ。


 そしてさらに、俺は己の運の悪さを実感することになった。


「も、燃えてる」


 たよりない足どりでやっと向かっていたアトリエが、丸々と火に包まれていた。


 なんでだ? 

 危険だから火種になるようなものは置いてなかったはず。


 疑問で頭がいっぱいになるが、逆に俺は足を止めることなく必死になって走っていた。


「作品が」


 なにも糧にならなかったが、描いた絵は全て俺の努力の結晶だった。誰に認められずとも、教師からも同級生からも蔑まれようとも、俺は本気で描いていた。


 痛む腕を我慢して、俺は燃えている出入り口を潜った。


 熱い!


 紙と画材である油が火の威力を高めて、とんでもない高温になっていた。


「ごほっごほっ」


 充満している煙の一部を吸って、息苦しくなる。


 時間がない。こうなったら。

 俺は壁一面に張られた絵や積んでいた失敗作を見捨てて、二階へ駆け上がる。


「ごめんなさい」


 なに対して謝っているのか分からなかった。でも俺は泣きながら謝罪を口にしていた。ああこの涙が溢れかえって、炎を全て消してくれればいいのに。


 俺は下と同程度に火が回っている二階へ着くと、テーブルへ手を伸ばした。

 そしてできるだけ多くの道具を抱えると、窓の外へ投げた。

 作品は全て頭に残っているからいい。だが、あの道具たちがなきゃ再現はできない。


 俺は何度か往復すると、無事だった画材を全て救出した。


「もう限界だ。そろそろ俺も、ごふっ」


 突然、力尽きて俺はその場にひざまづく。


 なぜだ? 灰や煙を吸いこまないようにしっかり口元を抑えていたのに?


 原因不明の状態に苛まれた体に命令しても、もう動いてはくれなかった。

 不幸とは重なるものだ。いや不幸ならば、それは俺が【絵師】になった時から既にそうだった。


 火が垂れた絵の具を伝ってくる。死が少しずつ接近していた。


「――えっ!?」


 俺の脳内が絶望に包まれる直前――閃きが生じた。


 炎。酸素の減少。二酸化炭素。杉の木。コンクリート。羊羹。茶碗。ベッド。カレンダー。勉強机。ペットボトル。ゲーム機。ブルーレイディスク。漫画。テレビ。スマートフォン。パソコン。インターネット。


 浮かんでくるのは、名前さえも知らないはずなのに妙に馴染みのある物たち。


 ()()()()()()()()()が、パソコンでネットサーフィンをしている光景が見える。

 俺()ホラー好きで、よく都市伝説やオカルトの類を探していた。この日もそうしていたが、発見するのは既知のものばかりで飽き飽きしていた。だから俺はネットの奥の奥まで、自分の興味を満たしてくれるものを探し続けて、

 ――ついにあの未知の画像を目にしたんだ。

 この目の前に広がっている炎のように熱い一枚だった。


()()()()()()()()


 全てを理解した俺だが、ここで意識を途絶えさせてしまった。瞼を閉じかける途中、パリィン、とガラスの割れる音が響いたような気がした。


続きが気になってもらえたらブクマか広告下の☆☆☆☆☆から応援いただけるとありがとうございます


本日は複数投稿する予定です

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