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五歳、殺人現場を見た日。

作者: エリマキトカゲ

とにかく雨だった。

家で悪さをして親に外に出されて鍵を閉められたのだ。今思えばこの時代じゃそれも過剰なしつけとなって問題になるのだろうか?だが当時はそんなことも思いつかない五歳の俺だった。玄関前で地面のタイルの隙間を歩くダンゴムシを落ちていた木の棒でちょっかいをかけている時だった。ポツポツと雨が降り出したのを覚えている。何故か知らないが俺は雨がとにかく好きで、パラパラ雨とも言えない豪雨とも言えないちょうどいい塩梅の雨が好きだったのもあり俺は玄関前に据え付けてある屋根を飛び出し、街頭で照らされほんと若干地面に空の景色が反射した真っ黒な鏡世界へと飛び込んだ。


その間の記憶はない。道中引かれて潰されたカマキリを見たような気がするがそれはまた別の日だったかもしれない、最もこんな夜更に外に出されたのは後にも先にも今日だけだったような気もするが、そんなことどうでもいいだろう。

家を出てどのくらい歩いただろうか、大きな歩道橋と団地が隣にある道路で俺が歩いている時だった。大きな車が奥からやってきて排水溝の隣で止まった。その車はよく見覚えがあった、なぜなら俺がよく遊んでいたトミカに全く同じ車があったからだ。だから俺は立ち止まりその車をよく観察した。そしてその車から慌てた雰囲気の黒づくめ男が大きなゴミ袋を排水溝に投げ捨てるのが見えた、とても重そうに。

一種の正義感かもしれない、もともといらない一言を言って先生や親に迷惑をかけてきたタチだ。それはこんな時も例にそれず、俺は おーい とその黒づくめの男を呼びかけた。その男は遠目でも分かるくらいに飛び上がったのを覚えている。黒いカッパをつけたその奥目がランと光って俺を見つける。その瞬間それもしかり遠目でも分かるぐらいに安堵した様子を見せて車へと乗り込んでいった。それからの記憶もあまりない。ただもう少し進んだ先で傘をさした母親が半泣きで俺を抱きしめたことくらいは覚えている。


そもそもなんでこの記憶だけが鮮明に俺の頭に残っているのか、残っていなけりゃ俺はこんなことにならずにすんだのに。




17歳高校2年生、朝ぼんやりと眺めていたニュースに過去の凶悪な殺人事件が流れていた。母子殺害の事件が流れる。すぐそこじゃん!俺はふと声が出る。

その時間は夕暮れに強盗が入り込み、そこで暮らしていた母親と娘の二人家族を惨殺し近くの排水溝に捨てたというものだった。犯人は依然として見つかっておらず有力と見られた清掃員の男も証拠不十分で立証とならず、犯人発見にまで至らなかったものである。


俺は見覚えがあった、再現VTRに流されるその団地もその排水溝も、その日の雨も、その日も。


全部全部俺が見たものだった。

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