店舗特典SSが多数ある場合、特典商法は有効か?―ただの一読者として迷走した私の場合―
店舗特典SSの告知を前に、一読者がちょっと悩んで考えたこととしたことです。
皆さま、店舗特典SSというものを、ご存知でしょうか。
大雑把にまとめると、「特定の店舗で特定の本を購入すると、本にプラスし特典としてついてくる、その本に関連した書き下ろし短編のショートストーリー(SS)」のことです。
その店舗で購入すればいつでも付いてくるわけではなく、初版分のみに付属、又はSS冊子がなくなり次第終了というような期間・数量限定のものが多数です。
※本により多少変わりますので、明確な定義や詳細はご自身でご確認くださいね。
特典を付けて販売される書籍は様々ありますが、中でもライトノベルは店舗特典が付くことが多い。
キャラクターイラストだったり、作者の複製サインカードだったり種類はさまざま。
貰えるならどれでも嬉しい。
しかし中でも、私の心を掴んで離さないのが店舗特典SSです。
小説家になろう等で読んでいた作品が書籍化する…!加筆修正があるとはいえ、無料で読めていたものを購入したいと思うほど、本という形で手元に置きたいほど、その作品が、文章が好きなのです。なので、一度も読んだことがない書き下ろし短編がついてくるなんて、本当に嬉しい。
…しかし、店舗特典SSを読むには、巨大な壁が立ちはだかります。
この壁が、私の中では結構深刻な問題なのです。
先日も、私が好きな作品の書籍化が決まりました。
その告知を見て嬉々として発売日を調べようとして気付きました―お知らせに、店舗特典SSの記載があることを。
嬉しい!と同時に、不安がよぎります。そして、詳細を確認し、…暗澹たる気持ちになりました。
壁①店舗特典SSが多数ある<金額>
店舗特典SSがある場合、大抵種類は3種類以上。覚悟はしていた、しかし今回は、7種類あった。
できれば7種類全て読みたい。しかし、7種類読みたいということは7冊買わなければならない。
ライトノベルの大判、1冊約1,500円。1,500円×7=10,500。
かつ、コミック系のオンラインショップは送料600円~。
同県内だが住居と真逆に位置する書店は交通費が往復1,000円以上。
結構な金額。しかしできれば全部読みたい…金銭面は苦しいが何とかなる、よし保留。
壁②店舗特典SSが多数ある<物理>
書店により特典SSの内容が違います。7種類欲しければ、指定された別々の7の書店等から購入しなければなりません。
ということで、店舗を調べてみる。A書店B書店C書店…G電子書籍まで調べてみて気付く。
B書店、県内にない。電話で確認してみる。
『申し訳ありません、着払い含め郵送等の販売はできかねます』…撃沈。
C書店、オンラインショップ、受注終了になっている(まだ告知から数日)
どうやら数量限定で、後は店舗で購入するしかないが店舗が県内にない。…撃沈。
G電子書籍は使っていない。これは今後の読書方法と天秤にかけて保留として。
関東にしかない店舗だからと、まさか北海道や関西から飛行機や新幹線で行くわけにもいくまい。
そこに住む友人に頼むにも、1書店だけではない、お礼するからといっても何軒もハシゴさせるわけにはいかない。
加え、いつもならば日帰りできる遠さまでは遠征もやぶさかではない。けれども。
今は、新型コロナウィルスの件もあり、都道府県をまたぐのは自重しなければならない。
(またがなくても、遠出になる場合は対策を万全に講じる構え要)
距離という物理面に敗北。この時点で全て揃えることは諦める。
壁③店舗特典SSが多数あり、欲しい特典は手に入らない<心理>
まず、全てを揃えることはできない。ここで、「全部読めた!」という喜びと共に「全部集めた!」というコレクション的な高揚は低下する。
次に、では好きなキャラクターメインの、1番読んでみたい特典SSがついた物のみ購入を検討する。
欲しい特典SSが、物理的に行くこと可能な書店にあればいいのだが。
「1番読みたい特典SSの対象店舗には、物理的に行けない」と判明。
1番読みたいものは読めないのに、次点以降の特典SSのために、特定店舗まで出掛けるか…。
それなら、近くの書店で買えばいいのでは。
しかし、同じ値段で何も特典がないと分かっている本を買うのは、損をした気がする。
特典SS自体は、どんなものでも読みたかったはずだ。
もし、行くことが可能な特定店舗のみに特典SSがあったならば、嬉々として向かっただろう。
なのに。
なまじ、数種類あり、内容を比較できてしまうがために、喜びが半減してしまう。
こうなってくると、本自体を購入することを躊躇ってしまう。
特典SSがつかないなら、もういつ買っても同じ。そんな気分になってしまうのである。
一番最初は、加筆修正された作品を是非読みたい!手元に本という形として残したい!(ネット上だと削除の可能性等あるので)という、純粋な気持ちだけを持っていた筈なのに…。
私は悩んだ。
そして、今度は勝手な想像をはじめる。
※私と作者・編集者・出版社とは何の繋がりも関係もありません。
作者はどう考えているのだろうか。
いくら文章を書くことが好きで、キャラクターを愛しているとしても、短編を幾つも幾つも新しく書くなんて並々ならぬエネルギーが必要だ。
ちらりと見かけた記事では、短編分のギャラはなく無償のことも多いらしい。
短編を読んで、楽しんでほしいという気持ちで一生懸命書いてくれたのではないか。本編は作者の思うままのストーリーだろうが、もしかしたら短編はファンサービスとして、読者が読みたがっているだろう内容を考慮したり、試行錯誤して書いてくれているのではないだろうか。
編集者はどう考えているのだろうか。
本を出版してくれたことには感謝している。
出版社と方針が同じ(売上命)の人もいれば、そうでない人もいるだろう。
そして、売上を重視しているとして、それは読者にもありがたいことではある。
というのは、以前、私が好きな別作品が書籍化したのだが、それがネット上では完結しているにもかかわらず本は4巻で止まってしまっていたのだ。活動報告でちらりと見た限りでは、多分、売上が次巻を発行するには足りないという大人の事情だった模様。
出版社は利益を出し社員に給料を払わなければならないし、いくら良い作品でも、売上が低ければ出し続けることは難しくなるのだ。良い作品で読んで欲しいと思って書籍化を打診した編集者でも、読み続けてもらうには売上を無視できないだろう。
――もし、私がこの本を買わなかったら。万一、他の人も同じ考えで本を購入する人が少なかったら、どうなるだろうか。
作者は。
もし売上が予想以下だったら、作者はがっかりするかな。執筆の気力を低下させてしまったらどうしよう。
あなたの作品が、文章がとても好きなのに。作品を生み出してくださったことに感謝しているのに。もちろん、続きも読みたいと思っているのに。
物理的に作者を応援するには、売上に貢献するべきだとは思う。ただ、特典SSについての一連の流れのがっかり感を思うと、見て思い出すし、今すぐ購入するぞ!手元におくぞ!という決断ができない。
編集者は。
もしも売上が低かったら、原因を考えてくれるだろうか。もし要望書を出したら、特典SSの(逆)効果を少しは考えてくれるだろうか。都心に住み、全部制覇という人もいるだろうから地方の一読者の要望など響かないか。
そうそう、特典SSはメルカリやヤフオクで本体の元値以上で転売されたりしているが、その利益は出版社に入るわけではないし、やり方を工夫してくれるだろうか。
7種類なら7種類、事前予約すれば全て購入できるようにするというチャンスの平等を用意してくれないだろうか。全て違う書店で読者に手間や送料がかかってもいいから。そうすれば、意外と全部購入してしまう人もいるような気がするし、しなくても自分で決めて購入できるのでワクワク感は下がらない。
――とはいえ、そうすると同じ本が7冊。流石に全て手元におけば本棚が一杯になってしまう。
この本達をどうするか…保存用に取っておいた上で、後は布教用にするしかないか。ちょっと多いが。
そして。
迷いに迷い、私は決めた。
『よし、読んでから判断しよう』と…!
読み終えた時の心からわきあがる気持ちで、テンションで判断しようと。
自分で買わないのに、どうやって?
――こうやってだ。
私は、市内の図書館に行き、本の購入リクエスト用紙に記入し、窓口で司書さんに提出した。
「この本を購入していただきたいのですが。」
「リクエスト冊数の上限には達していないですね。…分かりました、少し遅くなるかもしれませんが、検討して購入しましたら連絡を差し上げますね。」
司書さんは快く引き受けてくれた。
私の住む市の図書館は、1年間で1人10冊程度、本のリクエストができる。経験上、7割以上の確率でリクエストした本を購入してくれる。ライトノベルはあまり置いてないから可能性は更に高い(私調べ)
読めるのは、発売日から数日くらい後か。
これで、間接的にだが、売上に一冊貢献できた。
図書館の本の購入先である、特典をつけられない地元の書店の支援にもなる。
加筆修正の中身も読める。
そして読んで自分も改めて購入するか決められる。
その頃に、まだ店舗特典SSが残っているかは分からないけれども…。
さて、私は問題を先送りしました。
どうするかは決めかねています。
そして未だに考え続けています。
店舗特典SS。作者、編集者and出版社、読者、全員にもっとよいやり方はないのか。
店舗特典SSが多数ある場合、特典商法は有効か?
そこまで効果がないような、というか効果がある一方、一部強いアンチを作ってしまいそうな気がします。
店舗特典SS商法、少し(3種類くらいまで)なら効果は高いが、種類が多すぎると効果が下がってしまうのではないかー。一部の地域にしかない書店が含まれる場合は、特に。
または売上は多少伸びても、作品は好きなのに離れていってしまう読者が思うより多く出てきてしまうのではないか。
他の方々はどう考え、どう動くのか知りたいと思いつつ。
これが今の私の感想です。