序章 ハジマリ
「高校にはモテ期があるぞ」なんて父に言われて育ってきたが、
今だにそんなものは来ていない。
稲神高校に通う高2の僕、神木春樹はその時期を心待ちにもしなくなった。
軽くいいなと思った女子にはことごとく彼氏ができて、世の中の不条理さを認識させられる。
しかし、まぁ、高校生活自体は思ったより楽しい。
来年高3だと思うと気が重いっちゃ重いけれど。
「おっはー、サクラ!何だよ、朝っぱらからくだらねー顔してんなぁ」
なかなか当たりきつめに話しかけてきたのは、田島成貴。
中学からの腐れ縁だ。数少ない本音を話せる相手だがこの男、当たりがきつい。
そんな奴だからこそ話しやすいというのもあるのだけれど。
「朝なんだからみんなそうだろ」
「そんなんじゃ本当に彼女できないまま、高校生活終わっちゃうぜ。
ほら、俺みたいに魅力的になんねーと。あー今日は音羽と何喋ろっかなー」
この口ぶりでわかっただろう、こいつには彼女がいる。
転校して来たてで僕はまだあまり喋ったことがないがこいつには余るくらいの可愛らしい子だ。
それ以来ずっとこの調子だ。こいつのどこが良かったのか。
進路や恋など青春は分かれ道が多いしややこしい。
かくゆう僕にも好きな子くらいいる。
同じクラスで幼馴染の小芝愛華。
とても可愛い。そこらへんの女優と引けを取らないレベル。
そんな彼女だから、クラスメイトからはモテモテだ。親衛隊まであるらしい。
まさに高嶺の花。
報われないとはわかってるけどどうしても捨てられない恋に落ちているのだ。
ずっと。本当にずっと。
「おはよー、サクラー!」
愛華と反対とも言える女子が来た。クラスメイトの佐倉有彩。
特徴をいうなら、超明るい。なぜ僕の周りにはこんなに明るいやつばっかなのか。
「なんだ、有彩か。びっくりさせんなよ」
「なんだとは何よ。なんか考え事でもしてたの?似合わないよ」
「さりげなく失礼だな。僕にも考え事くらいあるんだよ」
「どうせ好きな子のこととかでしょ。まぁいいけどね」
なんと。流石に付き合いが長いだけあって勘が鋭い。
言い当てて「どうだ!」と言わんばかりの表情だ。
顔文字で表すなら「(`・ω・´)」くらいだ。
「じゃあそれでいいよ。」
「何よそれー。気になるじゃん。寂しくて死んじゃうよー。」
「小動物とはかけ離れてるよ」
「なんだとぉ。ま、元気そうで何よりだよ。テンションあげてこーよ!明日から文化祭なんだから」
そう、明日は稲神高校の文化祭「夢限祭」が開催されるのだ。
ダサい。取ってつけたような適当な名前だ。
ちなみに僕は祭りは好きな方だ。楽しみではある。
しかしここまで周りが明るいとしんどくもなる。
有彩は高2なのに実行委員会会長(なんで?)、成貴も会員だ。
張り切るのも無理はないんだけど…。
「とりあえず、行こ?準備もあるし。」
「そうだな。じゃあ、行こっ「おはよっサクラ、成貴君、有彩ー!」
あ、天使降臨した。ありがとう神様。
「愛華〜!おはよー!」
「おはー!相変わらず仲良いねサクラ組は。」
「もー。そんなんじゃないから〜。」
こんなくだらないやりとりを聞いていても心が休まるのだから小芝愛華は偉大だ。
今日もいい日になりそうだ。
そんなことを思いながら今日も、1日が始まる。