第95話 「走ってっ!」
今度はさっきの様にまっすぐにだけ進むような事はなく、横道に逸れたりもしてみた。
しかし。
「……うぅむ、我々は何を持ってこの迷宮の出口に達したと言えばいいのだろうか」
「確かにな。構造的には階段でも見つかるか、全く違う景色の空間に出るか」
「直接魔王の部屋に行っちゃうってのもありだよね」
「一番最善だけど、どうかしらね……」
と言う具合に、どこを目指して歩いていいか分からない有様。
そうやって歩き続ける事、また1時間ぐらい。
「ふぅ……」
「ラン、大丈夫?」
「ええ。でも危険感知のスキルを維持し続けるのが難しくなってきてるわ」
苦笑いしてるけど、流石に2時間近く気を張りっぱなしなんて疲れない方がどうかしてるよね。
「落ち着いた場所で一息入れ……」
「……待って」
部屋の真ん中付近を歩いていたところで、にわかにランの顔が険しくなる。
「いけないっ……!」
「何っ、ラン!?」
何か、重い鉄っぽいものを引きずるような音が周囲に響き始め……!
「走ってっ! 罠っ!!」
ランに促され、全員それ以上何を確認することもなく、弾けるように正面の入り口に向かって駆け出した!
「……っ!?」
地面の石畳の隙間のあちこちから、あたしの胸ぐらいまである、大きな回転ノコギリのようなものが半円状態でいくつも現れ、あたし達に迫ってくる……!
「うおっ!?」
「わはっ!? あっぶなーいねぇ!」
みんなが進路に現れる回転ノコギリを、辛うじてかわす。
でも縦、横、いつ、どこから現れるか分からない、引っ込んだり現れたりするその仕掛けは、挙動を予測することが非常に難しい……!
「止まるなっ、一気に走り切れっ! カタブツっ! プルパをっ!」
「うむっ!」
すぐそばにいたリロを担ぎ上げるギルヴス。
プルパを抱きかかえようとしたジルバ……その背中にっ……!
「ジルバっ、後ろっ!」
「何っ!?」
回転ノコギリが凄まじいスピードで迫る……!
「『妖の氷結界』っ!」
プルパの魔法で、回転ノコギリが包み込まれるように氷に覆われる。
……しかしそれも一瞬の事、ノコギリは僅かに速度が落ちただけで、鈍い音を立てて氷を粉砕し、ジルバに再び迫る……が……!
「何のおっ!!」
腕を振り上げて、その前腕を勢い良く回転ノコギリに叩きつける!
「ぐぬぅぅっ!!!」
「ジルバっ!」
普通の鎧ならこの瞬間、腕ごとジルバは真っ二つにされていただろう。
でも、その鎧は普通じゃなかった。速度が一瞬でも落ちたのも功を成したようで……!
「これしきっ……我が信念を宿したこの鎧を切り刻めると思ったら大間違いだっ!!」
回転ノコギリが、ジルバのガントレットに阻まれて……止まる……!
……けどっ……!
「ジルバ、まだ来るっ!」
更にその背中に迫る回転ノコギリを見て、悲鳴に近い声を上げるラン。
あたしは地面を滑って反転っ……!
「走る準備してジルバっ! ……『加速力爆増』」
あたしがスキル発動と同時に火桜を抜いて、一気に駆けこんで……!
「『攻撃力極大上昇』っ……たぁぁぁっ!!」
振り抜いた刃が、重々しいノコギリの横腹を叩き、見事にへし曲がる。
そのへし曲がった部分が地面に突き立って、ノコギリはそこで停止した。
「今っ!」
「おうっ!!」
プルパを抱きかかえたまま、身を捩るようにしてノコギリの滑走線上から飛びぬけて、そまま一気に隣の部屋へとあたし達は駆け込んだ。
……何とかその部屋はクリアしたらしかった。