第94話 「次の部屋、何かあると思うよー!」
警戒しながら歩いている内に、あたしはいらん事とは思いつつも、ちょっとだけこの迷路について思い出すことがあった。
(この迷路……『アレ』に似てる気がする……)
あたし達の世界での事。
あたしはこの状況に、よく似たものを目にした記憶があった。
となってくると、魔王って人はやっぱり……?
そんな事を頭の片隅で考え、危険感知のスキルを発動させたままのランを先頭に歩くこと、およそ30分。
「……罠、かしらね」
「ああ、どうやらな」
「やっぱり現在進行形でかかってるよね、コレ」
ランとギルヴス、そして隊列の真ん中あたりを歩いていたあたしが、示し合わせたように言う。
「どうしたのー、イツカー」
覗き込んでくるリロに頷いて答える。
「明らかにね。歩きすぎてるんだよ、この城の中を」
「うん! ずっと歩いてるよね!」
「罠にも引っかからず。一本道の様にまっすぐ、30分以上ね」
入口の部屋から先も、立方体の部屋が続いていた。それが延々と。
あたし達は、最初の方針通り、罠の気配が正面の入り口の先に現れるまで、まっすぐに歩いてみたんだけど……確かに罠の部屋はないけど、行き止まりも出口もない。
「最初は警戒しながら歩いてたけど、途中から警戒をちょっと緩めて歩いてたでしょ。だからそろそろ1km近くは歩いている計算だけど」
「魔王城がデケェとは言っても、外から見た感じ、その半分もなかったはずなんだがな」
面白くもなさそうに言うギルヴスの傍らに、周囲を見回しながらプルパが立つ。
「……多分……簡易転移の術が仕込まれてる部屋を、何度か通過してるんだし……」
「それで無限回廊が出来てるやがるのか」
「あっ、それ罠なんだ!」
一瞬全員、リロが何を言ったか分からず、周囲を見回すも、その言葉の意味を把握してハッとリロに振り返る。
「え、リロ気付いてた!?」
「うん! みんなでお散歩、楽しいなって思って!」
「魔王城の中ですよ!?」
「えへへー、ヒーちゃんたちが教えてくれたの」
「ぶひっ」
「いつのまにっ……!」
ヒーちゃん、りーばくんたちがリロの足元に。召喚獣だから魔力とかに敏感なのかな。
何にせよ、リロらしいと言えばリロらしいけどね……。
「ふふ、まぁ、罠と断定できたという事で良しとしましょう。……何かおかしなことに気付いたら、教えてねリロ」
「はーい」
「じゃあ、指針を変える必要があるわね。この部屋の左右は、いずれも危険感知に引っかかってる。正面はワープが続くとなると……どこまで戻ればいいかしら……」
「あ、イツカー! ランー!」
元気に手を上げるリロ。
「何?」
「早速教えるね! 次の部屋、何かあると思うよー!」
「……え!?」
「その部屋通るたびに、前に歩いてた部屋に戻ってたんだよねー」
あたしはそれを聞いて、次の部屋に歩み寄る。
「あれ?」
さっき怒られたので、注意して中を覗き込むと、その部屋の中には。
「ねぇ。あんなのここまでにあったっけ?」
そこには、腰の高さぐらいまでの小さな台座が、ちょうど真ん中に、一つだけ置いてあった。
「無限回廊の終わり……かよ?」
「うぅむ……これまでとは何かが違うというのは間違いないだろう!」
「実りのない一言ね……」
あたしはその部屋の中をぐるりと一望して。
「他に罠とかないかな? アレも大丈夫?」
「大丈夫だと思う。私が先に入ってみるわね」
ランは周囲を警戒しながらゆっくりと部屋を歩いていく。
そして、中央に置かれた台座のようなものにも、警戒しながら触れてみると。
「……うん、大丈夫よ。もう作動してないけど、残留魔力からして……プルパ、どう?」
「……うん……転移の魔法だし」
「ね。これが無限回廊の発生器らしいわ」
「むぅ。我々が仕組みに気付いたら、動作しなくなった……という事か……?」
「きっかけがおかしいだろ。……しかし、何が引き金だ?」
残念ながら、今の状況だけではそれを把握することはできないみたいで。
「うむ、仕方がない! ひとまず前進することを提案する!」
「正面と右の部屋は何かあるわ。恐らくは罠、ね。左の部屋は大丈夫」
あたし達はランに促されるように、左の部屋から先へと進む。