第84話 (……友よっ……今、俺がっ!)
王国の誇り高き騎士と、騎士だった者との一騎打ち。
『手を出さないでほしい』というその願いは、当のジルバから他の3人に出された願いだった。
「くっ……全てが必殺っ……! 訓練では味わえぬお前の全力、俺は喜ばしく思うっ!」
『っ!!!』
目の前の|相手(友)もそう思っているだろうか?
意識なく、敵に操られる存在となったとしても、どこか同じ騎士としての誇りを残しておいてほしいと願うジルバはそう願って止まない。
だからこそ、訓練でかわした気迫以上のものを。
受ければ死は必定と言う一撃――それを、勝利と言う王国の誇りを全うしなければならない自分が繰り出せなければ、誇りを果たせぬだけでなく、目の前の友に、戦いの充足と言う物を与える事すらできないと言い聞かせ、渾身の力と技量をもってハルバードを振るっているのだった。
そして、どちらかが動かなくなることが戦いの終わりと呼ぶのであれば、その時は確実に目の前に迫っていた。
眞化人――ゴルトの横薙ぎの一閃が、ジルバのハルバードを弾く……!
「ぐうぁっ!?」
重いハルバードに体を引っ張られるようにたたらを踏むジルバ。
ゴルトは大きく槍を引き、突きを――!
『っっ!!』
隙の出来たジルバの眼前に繰り出す!
「ぬぅっ!!?」
辛うじてその必殺の一撃を弾くシルバ。
しかし、それは必殺であっても、ただの囮。
『!!!』
弾かれることを予見していたらしいゴルトは、即座に槍を引き、直後の突きを腹部に定める……!
「……がぁぁあっ!!?」
かわし切れずに、わき腹の、甲冑の隙間を抉られるジルバ。鮮血が舞う。
しかもその攻撃ですら囮だった。
『……!!』
流れるように続く動きで、ゴルトは体ごと前に出て、次の一撃に全体重を乗せる。
それを見つめるジルバの脳裏に過るものは――
(ゴルトよっ……!)
◆
「ジルバ、振りが大きいのがお前の弱点だな!」
「くぅっ……や、やはりそうか!?」
「ああ、流れに逆らわずに弾かれると、相変わらず隙だらけだぞ!」
「痛み入る! しかしゴルトよ、貴様のその必殺の突きにも伝えておくべき弱点があるっ!!」
「なっ……本当か!?」
「ああ! 初見であれば、必ず喰らうかもしれん。しかしっ……!」
◆
何度となくかわした模擬戦の中で、お互い切磋琢磨する日々。
その中でゴルトには、訓練を重ねても愚直にどうしても変えられない戦法があったのだ。
「お互い手の内を知り尽くした者同士だという事を忘れたかぁぁっ!!」
次の一撃が、ゴルトの真の必殺の一撃だと、ジルバは知っていた。
その三撃のコンビネーションは、敵に隙ができると、クセのように打ち込まれる。
もちろん、たゆまぬ研鑽で改良を重ねられたこのコンビネーションは、初手から必殺だ。一撃目にして受け切れない相手が沈黙する様を、ジルバは共にした戦場で幾度となく見ていた。
だが、それは見知ったものにすればクセ以外の何物でもなく、こうして眞化人となった今でも体に染みついていた戦法だった。
故に二撃目の突きを、身を捩る程度でかわすに留めた。
掠めた傷は浅くはないが、死には至らない。
そして『首元』を狙って突き出された三撃目。
ジルバは三撃目が必ずここに来ることを知っていたから……!
「だぁぁあああっ!!」
突きを払う。
そして全身で繰り出したその渾身の突きを弾かれると、その体に決定的な隙が出来てしまうのはゴルトの方だった。
前のめりに、今度はゴルトがよろめく。
ジルバは勝利を確信して、ハルバードを振り上げる……!
大ぶりなそれが確実に叩き込めるほどの隙が、ゴルトには生まれていた。
(……友よっ……今、俺がっ!)
……だが、そこから先はジルバの知らないゴルトだった。
「……何っ……!?」
ゴルトの体が不気味に捻じ曲がる。それは人の動きと呼ぶにはあまりに歪。
上半身だけが、ブリッジをしたかのようにゴキゴキと言う音を立てて反り返り、更に捻じれて、下半身はほぼ後ろを向いているのに、上半身はこちら向きと言う奇怪な姿が出来上がる。
人体としてはあり得ないその動きを形容するなら、骨のないバケモノの動き。
その動きでゴルトのハルバードが左手側に構えられる……!
「……四撃目っ!?」
体の戻る動きを利用しての事だろう。
ゴルトの槍の柄が振るわれて、大きく隙の出来たジルバの脇腹に叩き込まれた……!
「がぁはっ!?」
その勢いたるや凄まじく、巨漢のジルバを大きく吹き飛ばしてしまう。
地面を転がるジルバ。
「くはっ……! 今の不自然な、あり得ぬ動きっ……眞化人故のもの、かっ……!」
ゴルトに背を向けた状態で血反吐を吐き、辛うじて膝をついて身を起こすジルバ。
そしてゴルトは骨格を元に戻し、そんなジルバへと殺到する――!