第83話 「あれが……王国に選ばれた勇者パーティ……!」
ランとギルヴスが、プルパを守るように背中合わせで挟み込む。
そしてその周囲をぐるりと取り囲む眞化人は数にして17体。
「ギルヴス。この感じ、懐かしいわね。あなたとの共闘は7年ぶりぐらいかしら?」
「ニザンブリッジの攻防戦以来だ。大体そんなもんか」
ランは弓を左手に、矢を数本右手に握って不敵に笑う。
対するギルヴスも両手に銃を握り、自然に立ったまま、周囲の出方を見つめていた。
「二人とも……呼吸はばっちりなんだし……?」
「そうでもないわ」
「ぅゆ?」
「相手が器用だと、合わせやすいってだけよ」
「背中を預けられるのは間違いねぇさ」
「……同じ事だし。じゃ、プルパは出端と援護でいいんだし……」
ふぅ、と小さく息をついたところで、プルパの手が輝きだす。
「いつまでも余裕見せてられると思うなよっ!」
サットが気を発するように言い放つ。
直後、眞化人が一斉に3人に襲い掛かる……!
しかし……!
「『アンスエンシスの円環』……っ!!」
プルパの術が発動する……!
3人を中心にした氷のリングが、眞化人たちの足元を走る!
その危険を察知してか、ほとんどの眞化人たちが一気に飛び退るが、逃げ遅れた3体がその足を、氷で拘束された。
「……なかなか速いんだし……。融通の利かない魔法じゃ対応しきれないんだし……」
「気にするんじゃねぇ、十分だぜ」
「引き続き、牽制お願いねっ! スキルキャスト……っ! 加速力増幅っ!」
「スキルキャスト……知覚拡張」
ギルヴスとランは弾かれたように、後方へと逃げ遂せた眞化人たちに迫る。
その走る最中、各々握っていた武器を放って、プルパが動きを奪った3体の眞化人のゼノグリッターを的確に撃ち抜き、完全に沈黙させてしまう。
「こちらのスピードに対処できるようになる前に……!」
ランは一体の眞化人に狙いを定め、一気に地を蹴り、飛び掛かる。
対する眞化人は辛うじて手にしていた槍を横に倒して、ランの体当たりにも似た飛び掛かりをガードしようとした。
しかしランは、空中で足を突き出し、槍に着地するように乗る。
その時には、手にしていた弓が引かれていた。
「終わらせなきゃねっ!」
ほぼゼロ距離という至近距離で、眞化人の左半身を、ほぼ真上から貫くように矢を放つ。
『っ!!!?』
かわしようも、防ぎようもない状態でゼノグリッターの核ごと貫かれた眞化人は、そのまま崩れる。
ランは槍を蹴って、そのまま回転しながら着地。
そのランに向かって、左右から駆け込んでくる5体の眞化人。
左手側の眞性異形3体に、矢を番えるラン。
直後、速射で放たれた3つの矢は、その一つ一つが必殺であり、かすめただけで体を弾かれる。
それでもさすがに強化された眞性異形だけあり、辛うじて身を捻った眞化人たちのゼノグリッターを貫くには到らず。
更に右手側からランに襲い掛かる2体の眞化人。
手にしていた武器を振り上げる。
だが、それもまた安易に武器を振り下ろさせるには至らない。
銃声。
それが眞化人の攻撃を阻む。
「……戦場全部見てろよ? 流れ弾で撃ち殺されるぜ」
引き金を引いたギルヴスが不敵に笑う。
ランも一瞬だけギルヴスを見て、口端を釣り上げた。
もちろん、それを撃っている間にも、ギルヴスは自分の攻撃の手を休めない。
振り返り様に、後ろから迫っていた眞化人の攻撃をかわしながら、その鳩尾に膝蹴りを叩き込む。
更に前方と後方から迫ってくる別の眞化人2体に対して、右手の拳銃は後ろに、左手の拳銃は前に突き出して発砲。
胸、肩をそれぞれ撃ち抜かれた眞化人たちは、突進を止め、バランスを崩して地面を滑った。
その最中に、膝蹴りを決められて『くの字』に丸まった眞化人の後頭部に、右手の銃の台尻を渾身の力で叩き込むと、腹部に打ち込まれたギルヴスの膝を支点に回転して、地面に叩きつけられる眞化人。
右手の銃の引き金を冷静に3発引いて、ゼノグリッターを破壊する。
そこで、左手の銃を宙に投げるギルヴス。
さらに左側から迫っていた眞化人の攻撃をかわしながら、その顔面に右肘を叩き込むと、よろめいた眞化人を左手一本で、首を掴んで持ち上げた。
宙づりになってジタバタとする眞化人を、間を置かずにそのまま後方へと、高高度から地面に投げ叩き落とす。
そしてその手で、右肩越しに落ちてきた銃を左手で握り、同じく3発の弾丸で、ゼノグリッターを粉砕する。
「な、なんだ、ありゃ……」
「あれが……王国に選ばれた勇者パーティのメンバーだってのかよ……!」
「こんな凄い人たちが……魔王軍と戦ってくれてるのか……?」
村人たちは口々にその華麗なる戦いぶりに感嘆の声を上げる。
しかしそれは同時に、サットの苛立ちにもなるものだった。
「くっ……攻撃をずらすな! 隙を与えないでまとめてかかれっ!」
サットの指示で、サット自身を守っていた2体の眞化人たちも、ランとギルヴスに襲い掛かる。
「……ギルヴスっ!!」
「任されたぜっ……!」
ギルヴスが両手の銃のシリンダーから空薬莢を落としながら、念を込める……!
「ウェルメイドワークスっ……!!」
周囲に飛び散ったゼノグリッターが渦を巻きながら空シリンダーに寄り集まり、そこに一つの術が完成。
シリンダーを手のスナップを効かせて銃に納め……!
「『縛鎖の魔弾』ッ!!」
くるくると腕を回転させるように、眞化人一人一人に銃口を向けていくと、次々に引き金が引かれる。
撃ち出された12の弾丸は、狙い過たず生き残っている眞化人達へと襲い掛かった。眞化人たちは身を守るべく、身構える。
だが、その弾丸はゼノグリッターを射抜くための物にあらず。
着弾直前、弾丸は魔法の鎖に変わり、それぞれの対象となる眞化人達を一様に拘束してしまう……!
『!?』
『……!!』
鎖は、眞化人をからめとった後、その先端が楔となって大地に打ち込まれた。この場の全ての眞化人は全員完全に身動きができない状態となる。
魔力以上の、ウェルメイドワークスによる拘束は、彼らの一切の抵抗を許さなかった。
「まな板に乗った魚は、素直に包丁を入れられるもんだ」
再びシリンダーから魔術の空薬莢を落とすギルヴスは、悠々と次の銃弾を装填する。
「くっ……!」
眞化人を操っていたサットが、術を唱えるプルパに向けて右手を伸ばす。
その術で新たな眞化人を生み、この状況を変えるために……!
しかし、銃声と共に……!
「あ……うあああああ!!?」
サットの手のひらが、銃弾に撃ち抜かれる。
あまりの激痛に、手を抱きしめるようにしてその場に膝をつくサット。
「……おかしな動きをするんじゃねぇ」
背中を向けて左肩越しに銃を撃ったギルヴス。
サットは王国が追うユスティツア教団の重要な生き残り、死なせるわけにはいかない。
そしてそんなサットを尻目に、次々に放たれる矢と弾丸、そして魔法。
高速で動く標的でさえ捉える彼らの精密な攻撃。止まっている相手の、ゼノグリッターの核を射抜くことはさして難しくなかった。
ギルヴスたちと相対してた眞化人は、それで全て沈黙する事となる。
そしてその傍らでは。
「ぬぅおおおおあああああっ!!」
『……!!』
重々しいハルバードの交錯する音が幾重にも響く。