表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

83/102

第80話 「こんな力、何にもならないよ。でも」

「――お前程度の力がっ! なんになるって……!」


「何にもならない」


 『正面に立っていたあたし』に、声をぶつけていた『サットの後ろから』、『あたしが声をかける』。


「え……?」


 サットが僅かに頭を後ろへと――『あたしのいる方』へと傾ける。


 その直後、『あたしに蹴られた』20体余りの眞化人シンカビトは、全員後ろへと吹き飛ばされ、地面を盛大に転がった。


「なっ……!?」


「今……何が起きた……!?」


 パルティスや、村の人たちが訳も分からず声を漏らす。


 そして、サットも。


「な……なんで、そこに……? いま……目の前で、僕と喋って……」


 あたしはそのまま、震える声のサットの横を通り過ぎて、元の場所へと歩く。


「こんな力、何にもならないよ。でも、何かを成すことに、役には立つんだ」


 サットに背を向けたまま歩き、ギルヴスさんとすれ違った直後、立ち止まった。


「……覚悟はできたか、小娘」


「……はい」


 背を合わせるように、ギルヴスさんと会話する。


 寝ているマキュリを見つめて……あたしは頬に一筋の涙を流していた事に気付いた。


「……」


 指で涙をぬぐう。今は、泣いている場合じゃない。

 そもそもあたしは泣くことすら許されない。


 あたしは跪き、静かにマキュリの手を組ませてあげた。


 ゴメン……今してあげられることは、これが精いっぱいだよ……。


「この力を、受け入れる覚悟はできました。……でも」


「ああ。人を殺す覚悟はどうだ」


「……」


 その葛藤はまだ、振り払えてない。

 眞化人シンカビト眞性異形ゼノグロシア化したとはいえ、人。


 それに手を下すという事については、さっきまで抱えてた悩みとは完全に別の問題だ。


 あたしは……その覚悟は……。


「それは私たちが引き受けるわ」


「えっ……?」


 顔を上げるとそこに。


「第参英霊級スキル。凄まじい力ね。――外は全部お任せしてもいいかしら?」


 『あたしの仲間たち』がいてくれた。


「勇者は世界の希望よ。怪物になってしまったとは言え、人を殺すという負い目を、この世界の住人ではないあなたが背負う事はない」


「プルパも、だいじょうぶだし。プルパは、怪物だから……ふふっ……人を殺すのはやるんだし……!」


「イツカ、泣かないで! ボクたちがついてるよ!」


 各々の笑顔で、あたしを気遣うみんな。


 そしてヴァイスさんはみんなの最前面に立って、一人の眞化人シンカビトをぐっと睨みつける。


「ゴルト……なんという姿か……! 貴様に正しき引導は、俺が渡す!」


 それにこたえるように、一際大柄な眞化人シンカビトはハルバードを構えなおした。


 あたしの傍らで、ギルヴスさんが弾丸を込め直して、みんなと同じ方向を見つめながら言う。


「小娘……イツカ。テメェはテメェの役割をこなせ。料理は担当のシェフが責任をもって作り上げるもんだ」


「……うん、分かりました」


 あたしは村の正門の方へと視線を向けた。


「イツカ、リロも一緒にお願い」


「え?」


 ランの言葉に、あたしは僅かにそちらへ視線を向ける。


「リロの幻獣は人を殺傷するために動けないの。それに、リロの純粋さにも傷を負わせたくない。ね?」


「ありがと、みんな……ボク、イツカのために頑張るね?」


「うん」


「リロ……行くんだし……」


「リロはゼノグリッターを持って行きなさい」


「はーいっ!」


 リロが軽く念を凝らすと、ギルヴスさんの銃撃で飛び散った周辺のゼノグリッターが、紫色の輝きを伴ってその手に集まる。


 それを見て、あたしはリロと一緒に、ランたちとは反対の方向へと歩き出した。


「ま、待てよ! お前らが出て行ったところで、なんにっ……!」


 銃声。


「食材はグダグダ喋るもんじゃねェ。大人しく捌かれる事だけ考えてな」


「なに、をっ……!」


「奇術の使い手よ! 王国より選ばれし勇者の護衛である我らが告げる! 我らを踏み越える事なくして、ファーレンガルドの勇者に触れること能わず! 望みあらば、まずは我らと尋常に刃をかわすべしっ!!」


「ふざけんな……邪魔だぁっ!!」


 そんなやり取りを聞きながら。


 あたしはリロと一緒に、村の防壁の櫓へと昇っていく。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ