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第79話 『あたしは怖かったんだ』

 ……ああ、やっと分かった。


 あの時、あの眞性異形ゼノグロシアの大軍を、櫓から見下ろした時の違和感の理由。



 『あたしは怖かったんだ』。



 この世界の、普通にあるべき人たちや、ランたちですら脅威に感じるものを見て『何の脅威も感じない』感じる事が。


 ただの普通の女子高生だったあたしが、普通じゃない存在に変わっているという事を認識するのが怖かった。



 ――5歳ぐらいの時のこと。

 あたしは物を壊すと言う自分の呪い――ファーレンガルドで言う所の『究極フェアリーズ不器用・ディフェクション』で、勝手に物が壊れていく事が心底嫌になって、癇癪を起して、保育園で園の物を手当たり次第に壊した事があった。


 次々に物に触れた。

 物が壊れた。

 時折壊れないものがあったけど、それは床に叩きつけたり、ぶん投げたりして壊した。


 全部、全部壊そうとした。


 その時、あたしは自分の持つ脅威を、脅威と感じていなかった。

 自分が触れたものは壊れる――それが普通だと思い始めていたから、気にも留めずにそれを振り回してた。


 ただ、全てが終わった後。

 周りの子たちの悲鳴や、先生たちの危険で奇異なものを見るような目。

 それが何より怖かったのを、今でもよく覚えている。


 あたしは翌日から半年以上、保育園を休んだ。

 おじいちゃんたちの神社で過ごし、自分のその呪いについて学んだ。

 物が壊れる事の危険やその悲しみは、物を『自分のもの』に置き換えるだけで、実感するにはさほどかからなかったはずだ。


 怖くなった。


 普通の人が脅威と感じる物を、そうだと思えない自分が。

 自分の力を、当たり前だと感じてしまう事が。


 そして、今またあたしは、保育園の時のように、何も考えることなく力を振り回した時に、誰かに怯えられるかも知れないと感じて、自分に与えられた、このチートと言う力を、信じようか信じまいか、迷ったんだ。


 だから脅威に怯える自分を演じたかった。それで普通の人間でありたいと思った。

 それがあの違和感の――そして違和感が生んだものの正体。



 今、オビアス村に迫る600だか700だかの眞性異形ゼノグロシアの大軍。


 そんなもの、『あたしはなんにも怖くなかった』んだ。



 そして今……こうして手遅れになってから、やっと理解できた。

 本当に怖い事は、それじゃないって。



 本当に怖い事は、『この手が届かない事』。


 無慈悲や理不尽に対して、そうとしか叫ぶことが出来ない事。



 第参英霊級の威啓律ヴァーチュー・因子アーカイブスを手にした今、更に理解する。

 あたしの力は本当にチートだ。


 『戦えばちょっと強い』どころじゃない。

 この手の届くものなら、あたしはなんだって壊せる。

 力で解決できることなら、この世界のあらゆる難事を瞬時に解決できる。


 でもそれは、人の社会の中じゃ、最強なんてものには程遠い。


 マキュリに――その死に、手が届かなかった。


 あたしのせいだ。サットの言った通りだ、ただ腑抜けてた……!

 あたしが自分のこのチートな力を信じることが出来ず、勝手に怯えていたからマキュリはこうなってしまった!


「……ごめんなさい……ごめんなさい……!」


 失ったものが大きすぎて。苦しくて苦しくてたまらない。


「ぐっ……うぅぅっっ……!」


 だから、もう、こんな思いを自分にも、他人にもさせたくないから……!


 もう、あたしは……躊躇わないっ!!




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