第78話 「まだ火入れすら始めてねぇじゃねェか」
複数の銃声が村に響き渡る……!
「っ……!?」
それであたしや村の人たちに迫っていた、前の方の眞化人達がまとめて吹き飛んで、その後ろを走っていた全員の足も止まった。
「なんだ一体っ……!?」
サットが慌てたように状況を把握しようとする中で、あたしの目の前に立つ、黒いコート、黒いテンガロンハットの男の人……そして……!
「何をビビってる? 何が躊躇する理由だ?」
僅かにこちらに向けられる、その横顔は琥珀色のドラゴン――あたしはその人を知っている……!
「ギルヴスさん……!?」
その人は――ギルヴスさんは一つ小さく鼻を鳴らした。
「フン……俺が知ってる勇者って存在は、剣一振りで希望を生み出すって話だったがな」
「そ、そんなの……」
「その剣……この村で振ってみせた事はあんのか?」
「え……」
徐に言われて、あたしは腰の剣に手を触れて、僅かな間の後――首を振る。
「……いえ……村の中では……」
「なら、まだ火入れすら始めてねぇじゃねェか」
「っ……」
始まってない……始めてない……。あたしは、この村で……勇者として人々を救う事を、何も……!
「もう一つ。その娘――聖謐巫女が願った事はねぇのか? お前に託したモンはねぇのか?」
「あ……!」
マキュリへ、視線を送る。
「それを背負え。そうすれば、それがお前の力になる。……腑抜けに力を貸すと言った覚えはねぇぜ?」
あたしに願ったもの。あたしに託したもの。
ああ、あたしは、ファーレンガルドで初めての同い年の友達と、微笑みながら語り合ったじゃないか……!
「……マキュリっ……!」
忘れかけていた、自分自身に腹が立つ。
だからあたしはぐっと拳を握りしめて、今、この村を滅ぼそうという脅威を放つ、その人にまっすぐに言い放った。
「サット……今の」
「あ?」
「今の世界がこのままでいいなんて……それはマキュリを前にしても、同じことが言えるの?」
「……」
一瞬、たじろいだような表情を浮かべたサット。
「……あんたが言うなよ。あんたが僕たちの時代に現れなかったら……僕もマキュリもみんなも……それなりに平和に暮らせていたはずだったのに……!!」
「……それでも……マキュリは……」
あたしは、ぐっと目を見開いて……!
「『それなり』じゃない、本当に平和な時を! 自分や村のみんな、そして自分の子供たち――そしてこのファーレンガルドの全ての人たちが過ごせることを願って、聖謐巫女であろうとしたはずなんだ!!」
「っ……!」
と、その時。
(あっ……)
あたしの目の前へと舞い降りてきたのは、虹色をした蝶。
それはマキュリが命懸けで、連れてきてくれた、この世界の希望のかけら。
ゆっくりと手を差し出すと、静かにその手に舞い降りてくれた。
(ホントだ……すっごく綺麗だ、マキュリ……)
そこが安住の場であると感じてくれているかのように、蝶は色を変えながら、休ませるように羽根を開閉させている。
そしてあたしが触れた瞬間、流れ込んで来る『力の性質』。
(マキュリ……あたし……)
託された、その力で。
(翔ぶよ……)
世界を救うなんて、大それた目的のために……!
「スキル、キャスト……!」
マキュリが残した最後の術で、あるべき場所へと舞い降りた第参英霊級の威啓律因子はその姿を取り戻す。
「『加速力爆増』……!!」
宝玉となったそれが、強く輝いて……!
「やって見せろよっ! お前程度の力が――」