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第6話 「イツカっ! 前を向きなさいっ!」

「ぐくっ……! くっ……そっ……!」


 あたしは転がりながら立ち上がった。


 と……見れば、もうもうと土煙を上げる向こうで、城への入り口が壊れた壁によって塞がれてしまっている。


(……リロっ……!)


 息を呑む。

 あれじゃリロは出てこれない……!


『GuuuuuuuuuuRuuuuuuuuuuuuuuuu……!!』


 破壊した壁からその頭をもたげてこちらに顔を向けてくる竜種眞性異形ゼノグロシア

 それに注意しながら、あたしは周囲を見回した。


 ランとギルヴスは、竜種眞性異形ゼノグロシアの向こう側で、何とか起き上がってはいるものの、竜種と子鬼種たちに挟まれて警戒が解けないでいる。


 そしてジルバとプルパの姿が見えない。

 募る不安――無事でいてくれているとは信じたいけど……!


 ……あたしは、ぎりっ、と歯を食いしばった。



 あたしがまた、みんなを危険にさらしてる。



 『物を壊す』という事は、その『物』に込められた期待を根こそぎ奪う事。


 それが生み出す楽しみも。

 それに願われた結果も。

 それが存在し続ける事の喜びも。


 どんなに注意しても、どんなに大切にしようとしても、あたしが手にしたものは、未来への期待と一緒に手の上から滑り落ちる。


 これは必ず起きる事じゃない。

 あたしが触れたからと言って、あらゆるものが粉微塵になったりするわけじゃないんだ。


 でも、だからこそ残酷。

 それはあたしに淡い期待を抱かせるだけ。


 手に持ったものが悉く壊れてくれるのなら、あたしはこの手に何も持つことのない人生を送ればいいだけの話だ。


 けど――『もしかしたら壊れないかもしれない』という期待で、何かを成さなきゃいけない時。


 そう、それは正に今のこのシチュエーション。


 『あたし以外に、鎧戸を落とすためのレバーを引くことができない』ような時に、他の人なら失敗し得ない失敗を、あたし自身は犯すかもしれない恐怖。


 そんなものが付きまとうのであれば、それは『呪い』と呼ばれて然るべきだろう。



 ……でも。



「イツカっ! 前を向きなさいっ!」


「っ……!」


 辺りに響く声。

 それは聞いての通り、あたしへの叱咤。


「しょぼくれる前にやる事があるよなぁ!!?」


 飛び掛かってくる子鬼種達を、各々の武器で捌きながら、ランとギルヴスが声を上げていた。


 更に。


「これしきの事っ! 我々は何も始めていない、始まってもいない事で何かが終わる事はない!!」


「しょぼんは……プルパの専売特許なんだし……!」


 ランたちから少し離れた所で、別の一団と戦いを演じていたジルバたちも声を張り上げる。


(……。……そう、だよね……)


 ああ、そうだよ。


 この冒険でも、パーティのみんなの期待をどれだけ壊して来たか分からない。


 みんなだけじゃなくて、あたしが訪れた先の人々の難題を解決するために、もっと上手く立ち回る事ができたかもしれないと、いつだって思ってきた。


 でも、それはもうみんなは乗り越えてくれてる。

 あたしがするべき事は、悲観に暮れる事じゃない。


 なぜなら。


 あたしはこの『呪い』で、『物』は壊しても。



(……この『呪い』で、『人間関係』は絶対に壊してこなかったって、胸を張って言えるから……!)



 ――剣を握りなおす。



 もちろん、ある時に何かを壊して、一度はその持ち主との人間関係を壊してしまった事はあったかも知れない。

 今回みたいに、人を危機に陥れた事だってあったかも知れない。


 でも、あたしは絶対にそれをそのままにしない。




『――やっちゃったことを悔やんでもしょうがないと思うんだ。ならそれをどうフォローするか。いつもちゃんと向き合って考えられれば、きっとイツカは大丈夫だから、ね?』




 それが、あたしの家族が、子供の頃からずっとあたしに言って聞かせてくれたこと。


 特に兄さんがあたしのことをよく庇ってくれた。

 あたしが誰かの物を壊しちゃっても、どうしたらその子ともう一度仲良くなれるか、あたしに近い目線でいつだって真剣に考えてくれたんだ。


 だからこそ、兄さんのその言葉が痛烈にあたしに根付いてる。


 そしてこの世界でも、あたしは決してその努力を諦める事はなかった。

 だって、ずっとそれをしてきて、あたしはちゃんと知ってるから。



 それを考えて、それを成せば、人は以前よりも更に強固に結びつくんだってこと……!



 パーティのみんなとの繋がりは、そうやってあたしが作ってきたものなんだから!




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