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第74話 「マキュリ姉さんが、どこにも見当たらなくて……!」

 それから村の様子をぐるりと見回りながら、西側の守りについていたリロと合流。


 そして小屋へと戻って、作戦の内容を話す。


「……うん、だいじょーぶ! ボクやプルパは少し離れた所からでも術が使えるからね!」


「ぅゆ……イツカは、大丈夫なんだし……?」


「話の都合上、魔王軍の三隊全部に対して作戦を行うと言ったけど、二隊でいいと思うの。プルパとリロは二人で東側をついて? 中央の隊を私とイツカで攪乱するから」


「はーいっ!」


「二人とも大丈夫?」


「リロはこれでも、ギルドで何度か隠密作戦の中核に立ってもらったから、コツは理解してるわよね」


「えへへー、いぇいっ!」


「そうなんだ。こういうのは、あたしよりもしっかりしてそうだね……あたしも頑張る!」


「よろしくねー、イツカ!」


 リロの笑顔を見てると、心配なんて吹き飛ぶような気がするよね。


 まぁ、色々言われたけど、とりあえず引きずってたら今は何にもできないと思って、気持ちを切り替えてみてはいる。


「で、もう一つ話しておきたい事があるんだけど」


「何?」


 一度眼鏡を持ち上げて、視線を村の外へ投げながら、ランは口を開いた。


「昨日、あの襲撃の後に、東側も気になって門の向こうを見回りをしていたら、おかしなものに気付いたのよ」


「おかしなもの? ……え、ちょっと待って? それってつまり、あたしやパルティスたちが東門で守りについてたころに、何かあったって事?」


「ええ、そう」


「何に気付いたの?」


「東側の門の向こうの森にね、ゼノグリッターの反応が僅かに残っていたわ」


「ゼノグリッターの、反応? 『残ってた』っていうのはどういう事?」


「……ああ。ゼノグリッターってね、眞性異形ゼノグロシアの体から分解すると、長時間保存ができないの。塊の大きさにもよるけど、小さい物なら10分も放置すれば消えちゃう。って訳で、持ち歩けないからその場その場で使うしかないのね」


「そうなんだ……注意しとこう」


「うん。で、私が見回りに出た時には、もうほとんど消えかけてたけど、ゼノグリッターの残滓のようなものが確認できたの。……ウェルメイドワークスで針みたいな矢が作れたから、間違いないと思う」


「つまりそれって……?」


「ゼノグリッターを体に身に着けた、何かがそこにいたって事よね?」


「……眞化人シンカビト?」


「まぁ、可能性としてはあり得なくはないわね。でも……」


「でも?」


 ランは改まった様に、もう一度眼鏡を持ち上げて言葉を続けた。


「私はね。昨日の西側に現れた眞性異形ゼノグロシアは、牧童シェファード級による挟撃かつ陽動の兵力だったんじゃないかって思ってるの。でも、西側の陽動は成功したけど、東側は失敗した。だから本隊は状況を警戒して動かなかった。……そんな風に考えてるんだけど」


「じゃああの時、東側にも眞性異形ゼノグロシアがいた?」


「ええ」


「そして、その眞性異形ゼノグロシアの一小隊だか二小隊だかを殲滅した人たちがいる……」


「……全部推測だけどね。ただ、こう考えた時。そしてさっき、村長から聞いたことや、この村で起きている事を繋げると――」


 と、ランがそこまで言いかけた所で――。


「ルーン旅団長!」


 血相を変えた村の人が小屋に走り込んできた。


「どうしたの!?」


「魔王軍がっ、魔王軍が動き出しました!!」


「えっ!?」


「先手を打たれたかしら……!?」


 まだ村の中にあたし達の事を信頼してくれる人はいる。

 それは喜ぶべきことだが、状況は歓迎できない。


「行くわよ、3人とも!」


「うんっ!」


 各々の装備をもって、慌てて小屋を出る。


 しかし、小屋を飛び出したところで、更にあたし達は呼び止められた。


「旅団長! 勇者様!」


「ウェンナ、ネイプさん!? どうしたんですか?」


「マキュリは、こちらに来てはおりませんかの!?」


「……え? ……いえ、来てないですけど、何か……?」


「マキュリ姉さんが、どこにも見当たらなくて……!」


「マキュリが!?」


「私が集会場から血相を変えて出て行った姉さんを見たんです。あの時の顔……変に焦っている感じで、それを見て凄く胸騒ぎがして……」


「それが最後ですじゃ。その後、どこにも姿が見えんのですよ……!」


「……どれぐらいになりますか?」


「皆様と別れた直後でしたから……1時間近く前から……でしょうかの……?」


「普通なら、全然気にならないけど……この状況じゃ危険だし、何があるかも分からないわ。割ける人数を融通して、探さないと……!」


「しかし、目くら滅法探しても、見つかるものでは……」


 村の中にいない。

 とすれば、今マキュリが誰にも知られず向かいそうなところは……。


「……ファバロ山に向かったんじゃないかな」


「えっ!?」


 全員顔があたしに向く。


「この魔王軍との戦いを止める事は、あの軍を殲滅する事じゃない、あたしが第参英霊級の威啓律ヴァーチュー・因子アーカイブスを手に入れる事です。それを聞いた時のマキュリの顔……凄く思い詰めた顔してた。しかも村の人たちにも、この状況のせいで不安が広がってる。そんな中で、威啓律ヴァーチュー・因子アーカイブスの反応があったら……どうすると思いますか?」


「マキュリ姉さんの責任感の強さなら……!」


 ウェンナの言う通り。

 この考えに、あたしは強い確信がある。

 たった3日しか一緒に過ごしてないけど、マキュリの性格は十分に把握できてるつもりだから……!


「で、ですがこの危険な状況で、一人で向かうなど……!」


「この状況じゃ、みんな止めるに決まってます! マキュリを見てられたなら、あたしだって止めます! お気楽な山登りしかできないあたしなんかと違う――聖謐巫女っていうその重大な役目があったから、その役目を正しく果たして、一刻も早く村も救うためにマキュリは一人で山に行ったんです! あたしが探しに行きます!」


「お待ちなされ! 勇者様に何かあってからでは……!」


「あたしなら」


 一つ、深呼吸をして。


「絶対に大丈夫……!」


 あたしは飛び出す。

 あたしはあの山の中で迷ってた時に、マキュリに見つけてもらったんだ。今度は……あたしが必ず……!



 しかし。



「っ……!?」


 あたしは山への防護門を直前にして、その走りを止めなければならなかった。


「……な……に……?」


 あたしの目の前に立った『その人』のため。


 その人は――。




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