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第73話 「氷の魔法は……人間の頭を冷やせるんだし……?」

「えっ……?」


 村民が30人余り、ずらりと並んでいた。


 その表情。

 みんな一様に、不安と不満をないまぜにしたような表情を浮かべている。


「み、みんな……どうかし……」


「村の防御壁に王国のシールドが張られていないって言うのは本当ですか!?」


「っ!?」


「魔王軍がまとめて攻めてきたら、村は守れないって事!?」


「王国の仕事が杜撰なんじゃねぇのか!?」


「旅団長が状況を知ってたってどういうことだよ!」


「ちょっ……みんな待って!」


 マキュリが前に出て、みんなを止めようとする。

 しかし、色めき立ち、ヒートアップしてしまった村人たちの口は、留まる事を知らない。


「勇者様! あなたは本当に魔王から我々を救ってくれるんですか!?」


「大した自信もないのに、剣振り回したって眞性異形ゼノグロシアには勝てないんだよ!」


「みんな、落ち着いて! ……落ち着きなさいっ!!」


 更にマキュリが大きな声を上げてくれるけど、声は収まらない。


 不安視は慣れたかもしれないけど、ここまで直接的な声は、流石に――。


「マジックキャスト……」


「え?」


「『雪妖精の足踏みアイス・ピラーズ』……!」


「っ!?」


「うわぁっ!?」


「きゃあっ!?」


 集会場と村のみんなの間に走る、無数の小さな氷柱……!

 その出所で手を掲げている女の子が一人。


「氷の魔法は……人間の頭を冷やせるんだし……?」


 無表情にそう言い放つのは。


「プルパ!」


 そのちょっと乱暴な手段を諫めようとしたけど、プルパ自身の言う通り、ヒートアップしてるみんなが退いて、波のように聞こえてきた罵声は止まったのは確かだった。


 ランがため息交じりに口を開く。


「誰か……中の話を中途半端な所まで聞いて、村中に伝えた人がいるようですね」


 あたし達の視線の端で、小さな影が動く。

 そして、それを追いかける同じ年の頃の、女の子の姿。


「その話は既に中で決着がついていますよ。私たちは魔王軍と相対するための作戦行動を開始します。道を開けてください」


「お前ら、解散しろ! 持ち場がある奴は戻れ! こんなザマで、今魔王軍が襲ってきたらどうする!」


 パルティスの言葉で、囲いが解ける。

 あたしとラン、プルパはその間を抜けて、兵舎へと向かった。


 でもその囲いになっている人々の顔が変わる事はなく。


 あたしは一度、後ろを振り返る。


「……イツカ」


 笑顔で別れたはずなのに、マキュリの顔には不安そうな色が戻ってきてしまった。


「……うん」


 あたしは心配しないでと言うように、頷く。


 状況が良くなれば必ず元に戻る。今はみんな不安が渦巻いているだけだ。

 あたし達なら、それを何とかできるはず。


 マキュリの顔に笑顔を取り戻すべく、あたしは戦いに赴こうと思った。




 ただ、後に思う。

 この時の事が全て、この村でのあたし達の行く末を決定づけたんじゃないかって。




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