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第71話 「あんた、この事、知ってたんじゃないのか?」

 翌朝。


「……おはようございます」


 あたしは呼び出しを受けて、寝所から村の集会所へ向かう道すがら、出会う人たちに声をかけるけど。


「……ああ、はい」


「……どうも」


 あたしを確認した後に、視線を逸らしたり、合わせても猜疑に満ちた目で見られる。

 やっぱり昨日の事はかなり響いてるらしい。ヴァイスさんの言ってた長期の戦線維持どころか、今日にも内部からの問題が噴出しそうだった。


 ……子供たちと出会っても。


「おはよ、みんな」


「おはよう……」


「おはよう、勇者様……」


 こちらはまだ、ちゃんと挨拶をしてくれるけど、子供らしい元気が見えず。


(もしも村を守り切れなくて、この子たちが犠牲になるような事があったら?)


 そんな事は絶対に許されない。不安がっている場合じゃない……!

 一つ深呼吸をして、気合を入れて集会所に向かう。



   ◆



 あたしの予想は間違っていた。


 ここへ来る途中、内部不和の問題が今日にも生じかねないと考えたが、それは間違いだった。


「……なんだと!? そりゃ本当か、旅団長!?」


「ええ。今村長のお話した通りです」


「ルーン旅団長。もう少し村民に分かりやすくご説明願えんでしょうかの?」


 ネイプさんが、パルティスや村の重鎮たちを背にしてランに向き合い、そう口にする。

 その口ぶりは、相変わらずどうにも皮肉めいていて。


 ランは眼鏡を指で持ち上げると、小さく頷いた。


「では改めて。壁には今、王国が施した防御術がかかっていない状態です」


「で、でも! 東西の小屋の中の壁面には、守りの法印はちゃんと刻まれておりましたぞ!?」


「形を模したものが刻まれているだけです。守りの術はかかっていません」


「点検はしてるんだろう!? それがちゃんと効いてないってんなら、王国が適当な仕事をしたんじゃないのか!?」


「そ、そのような事はない!」


 傍らのヴァイスさんが慌てたように、それでも胸を張って答える。


「王国とて、この村の重要性を理解しているのだ。魔道アカデミーが手を抜くような事をするとは思えん!」


「ジルバ、お前が術をかけたわけじゃねぇなら、それは言える訳がねぇ。王国の威信がどうとかは関係ねぇんだ。現状、この村の壁にシールドはかかってない。……違うか?」


「っ……! ……確かに、その通りではある……!」


「まぁ、王国はちゃんと仕事はしてったんだと思うぜ。確かに前回の王国の検査の直後は、ちゃんとかかっていたと思う。あの頃、眞性異形ゼノグロシアが壁をぶん殴ったら、あいつら思いっきり弾かれてたしよ。それは俺が保証する」


 村の若頭と言うだけあって、その発言に文句を言う村民はいなかった。


 でも……そうなんだ、『内部不和の問題が今日にも生じかねない』じゃない。


 もうすでに、生じ始めていたんだ……。


「みんな、パルティスも、もう少し言い方が……!」


 同席するマキュリがいたたまれなくなったように言う。


 それでもパルティスは手を上げてマキュリの言葉を遮り、言葉をつづけた。


「だがよ旅団長」


「何でしょう?」


「あんた、この事、知ってたんじゃないのか?」


「ええ、知っていましたよ」


「隠してたのか?」


 村の重鎮たちが更に色めき立つ。


「言わなかっただけ、です。言ったところで皆さんの不安をあおるだけでしたから」


「配慮には感謝するぜ。だが、事実を聞いてりゃ、もうちょっと村民たちに緊張感を持たせることが出来たんじゃねぇのかなって思ったりもするんだがな」


 パルティスの言葉はタラレバで、今どうこう考える問題じゃない。


 ただ、ランの配慮と、パルティスの言葉の裏にある不信感。

 今、この席につく人たちが、どちらを自分のものとするか?


 それを決めるのは他人じゃない。

 そしてどっちに転ぶかなんてのは、火を見るよりも明らかだろう。


「……パルティス、ひとまずは良いであろう。ルーン旅団長たちは勇者様のパーティ。この村を守る責任があるわけではない」


「そりゃそうだ、ばーちゃん。……マキュリも」


「え?」


「俺は言いたい事を俺なりに言っただけだ。村の連中の気合不足は、それこそあんたの責任じゃねぇしよ」


「恐縮な話ね」


「ただ、俺もちょいとばかり気に入らねぇ方向に村が傾きつつある。それは知ってほしかったのさ。マキュリにも、な」


「……うん」


 マキュリは完全には納得していない表情だったが、それでも何とか頷いて見せた。


「だからこの状況、打開策があるなら聞かせてくれ。今のオビアスのためにも建設的な事を話さねぇと」


 ネイプさんに対してパルティスは、言葉の響きに皮肉めいたところが全くない。

 パルティスは本当に自分に正直な人だって事か。そして言葉の端々から、どちらかと言えばあたし達側に寄った考え方でいてくれるように感じる。


 問題はそれを聞いちゃった、パルティス以外の重鎮の人たちの反応だろうな……。普通の人は多分、パルティスほどに、気持ちをバッサリと切り替える事は出来ないと思う。


「わかりました。ではまず、報告からしましょう。……我々は王国の魔道アカデミーに来村を依頼し、これは明日にも到着の見込みです」


「それでシールドは復活する?」


「ええ。それまで私たちは持ちこたえる必要があります」


「今日一日持たせるという事か……」


「一日……長いと見るか、短いと見るか……さて……」


 老人たちが首をかしげる。


「具体的な案は?」


 パルティスが厳かに聞く。


「私たちが、昨日の眞性異形ゼノグロシアたちのように、魔王軍へと打って出ます」


「あんた方、勇者のパーティでか?」


「ええ」


 ランはもう一度眼鏡を持ち上げる。


「ヴァイス副団長は防御戦闘が得意な方ですし、的確な指示が出せますので、村に残ってもらいます。それ以外のメンバーは、敵の側面から、三隊に分かれた各隊を突いて混乱を作る。それを時間をおいて二度、可能であれば三度も成功させられれば、魔王軍の陽動を警戒するレベルを引き上げて、一日ぐらいの足止めができるのではないかと考えています」


「あなた方、5人、いや、ヴァイス副団長を除いて4人で、ですか?」


「そうです」


「あの一隊200以上の眞性異形ゼノグロシアに、一人か二人というのは……」


「これでも、王国選抜の勇者のパーティですので。特にプルパも、リロも、強大な力を持った術師ですから、その一撃は敵にとっても無視できない損害になるでしょう」


「それは、確かに。しかし、勇者様はどうですかのう……」


 小さくため息をつくあたし。

 不安視されることに、そろそろ少し慣れてきたかもしれない。

 結局、そう思われたって、やるべきことが変わらなければ――。


「大丈夫! 勇者様なら、きっとやり遂げてくださいます!」


「マキュリ?」


「だって、勇者様は昨日――」


「……あー、そう!」


 あたしは声を上げて、マキュリの言葉を遮る。


「マキュリは昨日、あたしの特訓している所を見てくれてまして!」


「……勇者様……?」


「まだまだ未熟ですけど、結構やれると思いますよ!」


 自分でも良く分かんない事を言ってる気がする……。

 まぁ、目的は果たせたかな……?


「なるほど、そう言った努力を欠かされない、ということですかな」


「良い結果を生んで頂けるのなら……お任せするしか我らにはないのですが……」


「……」


 マキュリが少し残念そうな、切なげな表情で席に着く。


 納得が得られたようにはとても見えなかったけど、眞化人シンカビトとかいう更なる不安を、今、村の人に植え付ける訳にはいかない。


「作戦とか軍事とかは、俺らには分からねぇ。ただ、効果的ではありそうだとは思う。俺らはそのサポートをしっかりするからよ。任せたぜ、旅団長、ジルバ、そんで勇者様」


「はい」


「うん」


「任されたぞ」


 パルティスは納得したようだった。

 村の重鎮たちも、ひとまずそれで、という事に落ち着いたらしい。

 まぁ、この人たちには他に方法がないともいうけど……。




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