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第69話 「勇者、否定派……」

「このファーレンガルドには、勇者否定派って言うのもいるからね」


「勇者、否定派……」


 東側の警護には、あたし以外にパルティスとサットのコンビが当たっていた。


「もしかしてあたしが召喚されるのを待ってらんなかった人たち、とか?」


「そうだね。まぁ、否定『派』なんて言ったけど、それは個々の人たちの考え方だから、派閥的なものじゃないけど」


「でも、そういうのをまとまりで共有する奴らとかいるよな」


 頷きながら意見を返すパルティス。


「ウチの村は聖謐巫女なんて、勇者を手助けする役割を持つマキュリみたいのがいたりするだろ? そうすると旅の行商人とかで、昔何かあったりするような奴らは、露骨にウチの村を毛嫌いして通ってったりもするんだよな」


 3人もいて、夜なんて環境なもんだから、そんな雑談で眠気を紛らわそうとする。

 もちろん村の外への警戒は怠りないように、ね。


「ランから、ちょっと聞いてるよ。勇者の到来を待ってられない、なんで来てくれないんだ、みたいなことを考える人がいるんだってね」


「そうそう。そんで逆に、今こうして君はこの世界にやってきたわけだけど、今度は来たら来たで個人的な事情から『なんでもっと早く来てくれなかったんだ』みたいなことを、考える人たちもこれから出てくるかもしれないし」


「……分からねぇでもねぇが、そりゃ神様になんで助けてくれなかったんだって言ってるようなもんじゃねぇのか?」


「そうは言っても、目の前に責任をおっかぶせたい対象がいたら、そっちに矛先が向いちゃうのは仕方ない事でしょ?」


「……そう、だよね」


 あたしはちょっと声をトーンダウンさせて、そんな返事をしてしまう。


「あ、ゴメン……ちょっと配慮が足りなかった。僕が言いたかったのは、個人的な感情は簡単には曲げられない。そういう人たちの存在が、この先勇者様の活動の妨げになるから気を付けてね、ってこと。とは言え、まぁ、この村は……ね?」


 と、サットが視線をパルティスに送ると。


「おう、俺たちは勇者のパーティの味方だ。マキュリのお役目も、村が責任持ってしっかり果たして、あんたたちを送り出すからよ!」


「うん、大丈夫。二人ともありがとね」


 二人に悪気はない。

 そして言わんとしてることも分かる。


 マキュリみたいに応援してくれる人もいれば、そうじゃない人たちもいるって事。

 ……振り上げた拳の振り下ろし先を探したがるのは、どこの世界も同じみたいだね。


「村の連中は少しは丸くなったと思うけど、どうだい?」


「そうだね、大丈夫。大分みんな打ち解けてくれて来てるみたいだから」


「そりゃよかった。ウチの村で生まれ育ったみんなはそこそこ天然でさ、勇者様の事心配してたけど、それ以上じゃないと思うから」


「ああ。まぁネイプばーちゃんだけは、何考えてるか分かんねぇけどなぁ……」


「時々僕らの分かんないトコで怒りだしたりすることもあるからね」


「ちゃんと湯沸かしは見てろよ。泡が出始めりゃ、沸くタイミングは少しは計れるだろ?」


 そんな冗談を言い合う二人につられて、あたしも少し笑ってしまう。


「ま、それでも、あれだけの大軍に囲まれてもよ、勇者様のパーティがいるってだけで、相当村の連中は気が楽だと思うぜ。俺らだけじゃ守り切れない事だって――」



 と、その時だった。



 凄まじい轟音が、あたし達のいる櫓とは、村の反対から響いた……!


「……なんだぁっ!?」


「まさか、西側に眞性異形ゼノグロシアが!?」


「行こうっ!」


「待て! 何があっても持ち場を離れるなって旅団長に言われただろうが!」


「あ……そ、そっか……」


 側面からの攻撃があるとすれば、陽動の可能性がある。

 落ち着いて、その場を警戒しなさいってランが言ってたっけ。


「……」


 警戒しながら、耳を澄まして待つ。


 吠え声のようなものが、数度聞こえたような気がした。

 剣戟も聞こえたろうか?


 ただ、それも長い事かからずに収まる。


「……」


「……」


 無音――逆にそれはそれで不安をあおるもの。


 サットとパルティスと一緒に、そんな落ち着かない中で東側の警戒を続ける。


 村の人たちがどうなったのか?

 壁を破った眞性異形ゼノグロシアがここへ押し寄せて来るんじゃないか……?


 そんな事を考えると視線がどうしても散漫になる。

 せめて、現場にいて状況が分かれば――あたし自身が問題に手の届く場所にいれば、対処もできるって言うのに――


「……おーいっ!」


 その不安がようやく終わる声があたし達に届く。


「おっ!? マールかっ!?」


「伝令だぜ、3人とも!」


「マール! 西側で何があったの!?」


 マールが櫓に駆けあがってくるのももどかしく、あたしは聞く。


「西側の壁をぶち破って眞性異形ゼノグロシアが現れたんだ! かなり村の真ん中近くまで押し込まれたけど、旅団長さんと、包帯の魔術師さんが止めてくれた!」


「なんだと!? 被害は!?」


「ケレスさんが……背中を斬られた」


「えっ!? 無事なのかい!?」


「身動きは出来ないけど、旅団長さんの手当てで命に別状はないって……。でもハウおじさんとマケマさんも腕とか肩を殴られたり斬られたりしてる……。エリスばーちゃんも逃げる時に転んで怪我した」


「そうか……。でも、その……みんな負傷で済んでるんだね?」


「うん。まぁ、ね」


 『死』と言う言葉を使いたくない。

 この場の会話には、それが伺えた。


「けど……壁が破られて、安全って言われてた広場近くまで攻め込まれた事で、みんなショック受けててさ……」


「確かに。壁を破られた事なんて、これまでなかったからな。王国の防護術も役に立たねぇって事か……!」


「……」


 ランから聞いてる。

 村の防護術は今効果を発揮してないって。それを村の人たちは気付けてないって。


 あたしはそれをこの場で口にはできなかった。


「西側の見張りはどうしてたんだい?」


「便所に行ってたって。旅団長も、そのタイミングで北側の巡回に向かってたみたいなんだ」


「ち……緊張感が足りねぇ……! 襲ってきた数は?」


「10か20ぐらいみたいだって話だけど」


「これまでなら、どうにかなってた数じゃねぇか……くそ……!」


 パルティスが悔しそうに、拳で手のひらを叩く。


「神出鬼没、タイミングを見計らっての突撃。……これが牧童シェファード級って奴の存在か……」


 サットも不安そうに呟いた。




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