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第68話 「やる気がありすぎるっていうのが、どうもね」

 ……夜。


 オビアス村は、小規模の村なりの、ではあるけど、大掛かりな厳戒態勢が引かれていた。


 村の周囲にかがり火が焚かれて、夜でもかなり明るい状態。

 防壁の上には必ず数名が立って寝ずの見張りだ。


 村人は全員、村の中心に集められ、固まって過ごすことを強いられている。

 あたしが知っている光景で言えば、地震とかの災害時の、学校の体育館とかだ。


 いくつかの、広場の傍の家が寝所となって、子供や老人を優先に、代わりばんこで睡眠をとる、と言う形をとる。昼間のネイプさんや村の代表さんたちとの話し合いでこの形が決められた。


 ランとマキュリと一緒に、あたしはその退避状況を見て回る。


「皆さん、大事ないかしら?」


「ルーン旅団長! 心配ございませんぞ! ワシら意気軒昂でおりますからの!」


「みんな、張り切ってるね」


「おぅマキュリ! 大丈夫だぜ、こっちが片付いたらすぐに見張りに駆け付けるからな!」


「私たちも、食料の備蓄の確認、進めてるからね!」


「マキュリねーちゃん、あたし達も荷物運び、手伝ってるよー!」


 おじいちゃんおばあちゃんも、おじさんおばさんたちも、みんな何かしら忙しく動き回る状況。

 子供たちも手を振って答えてくれる。


「ありがとうございます、みなさん、落ち着いて対応していきましょう」


「分かりましたじゃ! よし、全員次は掃除の割り当てを決めるぞい! くじ引きを作っておいたからの!」


 わいわいと賑やかに、何だか村全体でキャンプでもしているかのように、元気よく避難生活を営む村の人たち。


 戦うあたし達にとってみれば、助かる状況――


「良くないかもしれない」


 あたし達に、兵舎として宛がわれた小屋に入り、ランがぼそりと呟く。


「え、なんでですか?」


「やる気がありすぎるっていうのが、どうもね」


 良く分からなくて、マキュリと一度、顔を見合わせる。


「……いい事なんじゃないの? ほら、守る人たちが元気なら、戦う方も安心して戦えるし」


「そうね。意気軒昂、と言う内に決着を付ければいいだけの事なんだけど」


 どうも歯切れの良くないランの言葉だけど、それって言うのはつまり。


「……あれ。さっきランがみんなに言ってた『落ち着いて』って、もしかして結構本気だった?」


 あたしにそう言われて、ため息交じりに苦笑いを浮かべる美人。

 大変絵になるが、話の内容は大変辛辣で。


「この環境であっても、みんないつもと変わらない、日常を過ごすぐらいの気の持ちようであるべきなの。今からあまりやる気を出していると、長期に及んだ時に疲労しやすくなって、気持ちがずるずると崩れていく可能性が高い。……もちろん、気を張らないと不安に押しつぶされてしまうから、それがとても難しいことは分かるんだけど」


「……確かに、無理に気を張っているように見える人もいました」


「ね。だから、いつまでもこの状況を続ける訳にはいかないと思うの」


「いかにも。敵が攻め込んでくるかもしれない、状況的に家に帰れない、と言った精神的な負担は、やがて綻びとなって人々を蝕みます」


 と、部屋の奥から、装備をしっかりと固めたヴァイスさんが現れる。


「……北方の今は無き都市・ワガラーバの長期防衛戦線での、騎士団への人々の批判の声が忘れられません」


「あ……。そういうの、ご経験があるんですか、ヴァイス副団長?」


「ええ。時間と共に人は急激に疲労し、怠惰になり、共同施設も汚染されていき、衛生面も人に精神的負担を強いて、物資の奪い合いや勝手な帰宅など、個々の身勝手な行動に繋がりました。結果、内面から戦線は崩壊して魔王軍に滅ぼされたのです。……今回も規模はともかく似たケース。オビアス村の人々の結束を信じてはおりますが、やはり長期に及ぶわけには参りますまい」


「……」


 それを聞いたマキュリが不安そうな表情を浮かべていた。


「さっき、伝書役の精霊が戻ってきたの。……騎士団の到着は早くても4日を見てほしいという事らしいわ」


「……結構、かかるね」


「我々が王城を出た翌日に、南方の戦線に主要騎士団を送る予定でおりました。そちらが落ち着くまではこちらに回す戦力も少ないはず。……牧童シェファード級の存在が予見出来ていたら、少しは兵力を残せたのかもしれませんが……」


「魔道アカデミーの魔捜研なら数名、明後日にでも来てくれるというんだけど、遅いという点については否めないわね」


「うーん……どう進めたらいいかな、この状況?」


「正直、この件はあの魔王軍を殲滅すればいいというだけの話ではないわ。恐らく、ここに第参英霊級の威啓律ヴァーチュー・因子アーカイブスがある以上、何度でも戦力が召喚されると思う。それであれば、一刻も早く威啓律ヴァーチュー・因子アーカイブスを手に入れるべきなんだと思うけど……」


「申し訳ありません、ルーン旅団長。今はまだ……威啓律ヴァーチュー・因子アーカイブスからは何の反応もなくて……」


「気にしないで。焦ってもしょうがない事もあるわ。とにかく、ジリ貧にならないように、村の人たちに適切な精神的なケアを心がけましょう」


「わかりました」


「マキュリ、あたしにもできる事は言ってね」


「……。……ありがとうございます、イツカ」


 そうは言っても、あたしにはマキュリの少し、何か思いつめたような表情が気になった。




 その後、あたし達は夜の警備につく。


 ヴァイスさんとリロは正門側で、魔王軍の動きを逐一警戒する。

 ランとプルパは、臨機応変に動けるように村内を巡回。

 マキュリは村の広場の方で、みんなの様子を見てもらってる。


 そしてあたしは東側の櫓で、村の側面を警戒してた――




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