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第60話 「木の幹を回ってどうするあたしっ!」

 ……すいません、ぶっちゃけ本気でナメてました。


 歓迎の宴の翌日の朝。

 あたしはオビアス村の裏手の、ファバロ山へと入山した。もちろん目的は、マキュリと一緒に取り落として壊してしまった、第参英霊級の威啓律ヴァーチュー・因子アーカイブスを探すため。


「……とりあえず、虹色の蝶を探せばいいんですよね?」


 そんなざっくばらんの情報だけを手に、山へ入った結果。


「これは、きっとアレだ。……迷子だ」


 早朝、まだ薄暗いうちに帯剣して、昨日のお残りを折り詰めにしてもらって弁当として持ち、部屋を抜け出した。そして村の防護壁の門を越えて山へ入った時は、非常になだらかな道で、斜面も大した角度でなく。

 ファバロ山そのものは、山頂までは標高300mに満たないぐらいと言う高さで、あたしの世界の日本の『山』としても低すぎる部類に入る。


 山頂までの道のりは1時間半と言った所。


「はぁ……のどかだねぇ。……じゃなくて」


 マキュリの言った通り、山頂まではそれこそ観光地の山みたいな、何となく人が登った後にできた道のりで、何の苦労もなく登り切れた。おにぎりでもあれば広げたいぐらいだった。


 でも目的が違う。したいのは登山じゃない。

 『虹色の蝶』を探しに来たんだ。

 もちろん、この道のりでは見つかっていない。


「……林とかに、入ってみちゃおっかな……?」


 要はそういう事だ。

 登山に使われる道だけ歩いてたんじゃ、見つからないって事。


 あたしは何の根拠もなく、何となしに『入りやすそうだな』と思われた木々の生い茂る山肌へと入り込んだわけだ。


 ただ、歩きながら考えた。

 これは結構絶望的かもしれない、って。


 確かにファバロ山はなだらかな山だけど、山としての面積が広い。

 前半1時間ぐらいはほとんどまっすぐ歩いた気がする。


 つまり、最低でも、1時間歩いた距離を半径として描かれた円の面積分、探す場所がある。

 単純計算で、東京ドーム1000個分と言われる富士の樹海・青木ヶ原と同じぐらい。……最低でも。


 人一人が、うっそうと生い茂る木々で視界が悪く、足場も満足に整ってないそれだけの面積の中で、一匹の蝶を探すとか確実に頭おかしかった。


 んで、最終的には遭難仕掛けている現状。しかもあたし、この捜索の事を誰にも告げずに出てきてしまった。

 もう、コレは迷惑甚だしい……。


「……落ち着いてイツカ。こういう時は空を見るの。ほら、星の位置関係があたしに方位を教えてくれ……」


 ……。真っ昼間だった。


 しかもあたしはこの世界の星座の事は全く知らない。

 北に輝き、動かない北極星みたいな星があるのかどうかも分からない。


「た、太陽は、東から西に動いてるってランは言ってた……!」


 ……。


 ……。


 ……。


「ど、どっちに動いてるんだろう?」


 短い時間では、半分錯乱しかけているあたしでは判断できず。眩しくて見つめてらんないし。

 落ち着いて考えれば、日の光で落ちた影でも見てればよかったのかもしんないけど、そもそも東西南北が分かったところで、オビアス村はどっちだ。


「そうだ! 左手法を使えば……!」


 迷路などで、壁に左手をずっとつけたまま歩くことで、迷路を攻略できると言われるアレだ。


 ……左手を、そばの木に触れさせて、ぐーるぐーる……。


「……ちがぁぁうっ!! 木の幹を回ってどうするあたしっ! 落ち着けっ、そもそも迷路ですらないっ!!」


 ちなみに左手法は、もう2、3エッセンス加えてあげないと、正しく機能しない。

 トレモー法とか拡張左手法とか言う奴なのだが、それは今はいいとして。


「はぁ……木の幹じゃなくて……ずっと空回ってる気がする……あたし……」


 またぞろ、悲しくなる。

 ちゃんとしよう、自分の出来る事で努力しよう、自分らしく、自分らしく――と言い聞かせて動けば動くほど、あたしはドツボにハマってるんじゃないだろうか?


 今のところ、あたしがこの世界にとって役に立ってることなんて、せいぜい『戦えばちょっと強い』ぐらいでそれ以外、誰かの、何かの役に立ってんの、なんて自問まで出来ちゃう。それに対する自答には、何一つ自信が持てない。


 はぁ、ともう一度ため息を吐く。


 ……さらに吐く。


「んっ……」


 吐き続ける、吐き続ける……息が詰まるまで吐き続けて……!


「んっ……んんんんんっ! ……ぷふぁはっ!」


 つまんない溜息に気づいちゃったら、気持ちそのまま息と一緒に気持ちを全部吐き出しちゃいなさい。

 ……あたしの母さんの教えてくれたことだ。


「はぁ。……うん。立ち止まってなんかいらんないよね」


 多少、気は紛れてくれた。


 せっかく第参英霊級の威啓律ヴァーチュー・因子アーカイブスを見つけてきてくれたマキュリの努力を無駄にしたのはあたしだ。

 その罪滅しができるなら、この程度、苦だなんて言ってらんない……!


 もしかしたらマキュリなら声をかければ手伝ってくれたかも……なんて一瞬頭によぎったが、そんな甘えもどうかってハナシ。


「よっし……!」


 気合を一つ入れて、あたしは立ち上がる。

 とりあえず、探しながらでも、帰り道を探そう。


 そこを基準にして、林の中の歩く先の木に、印とかつけながら迷子にならないように捜索を続け――


「ん……?」


 周囲は木が密集し、腰ぐらいまである低木なども生い茂っている。

 空は見えるけど、晴れていても太陽が真上にでも来なければ日の光は満足に落ちてこず、あたりは薄暗くて、要は視界がひどく悪い。


 だから、音が先に聞こえた。




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