第57話 「そういえば、あたしもリロの幻獣のお友達って知らない」
「いやー、言い合い始めた時はどうなる事かと思ったけど、さすがは王国騎士。いい人で良かったよねぇ」
「そりゃ、勇者のパーティの一員ならいい奴に決まってんだろ。なぁ、勇者様?」
「あ、あはは、そうだね」
パルティスも大分、ヴァイスさんの評価が上がったみたい。
喧嘩から仲良くなれるって、なんかちょっと羨ましいかも。
「……勇者様、大分表情がほぐれたみたいだね」
「え?」
唐突にサットに言われて、ちょっとギクッとするあたし。
「……そんなに顔、強張ってたかな?」
「マキュリと一緒にいた時はそうでもなかったけど。……お昼の事、引きずってたんじゃない?」
「まぁ、うん」
「勇者様、目立つことキライでしょ」
「……分かる?」
「あはは、僕もおんなじだからね。村の中で目立つことは大体、若頭なんて立場のパルティスに振っちゃう」
「まーったく、面倒ごとは全部押し付けやがるからなぁ、サットは」
「ちゃんと抜けがないようにフォローしてるでしょ」
二人は笑い合う。いいコンビなんだね。
「勇者様の腕っぷしの方は、村のみんな心配してるみたいだけど、人柄はちゃんと受け入れられると思う。……ああ、腕っぷしの方は、未知数って意味でね」
「あは、あたし的にはみんなと仲良くできるだけでいいんだけど。実際、へちょいし」
「そいつは頑張ってもらうとしてよ、明日からはもうちょっと過ごしやすくなるからな」
「村長だけちょっと気になるかもだけど、マキュリが味方なんだから、意識しすぎなくて大丈夫だよ」
「うん。ありがと、二人とも」
「よし、じゃあ、俺らは見張りの時間なんでな。席を外すぜ。村の大人連中の事は任せとけって感じなんだが……あっちの方は、そっちで話をつけてくれ」
「え?」
「イツカー!」
不意に名前を呼ばれて、そちらに振り返る。
そこにはリロを先頭にして、子供たちの集団がやってきていた。10人ぐらいかな。
一番最後尾には子たちと手を繋いだ、マキュリの姿もある。
「リロ!」
なるほど、村の子供たち、か。
「じゃあね勇者様。ひとまず、おやすみなさい」
「あ、おやすみなさい」
あたしは、席を立つパルティスとサットに手を振る。
二人も振り返してくれた後は、更にやってくるマキュリや子供たちに手を振ってその場を去った。
「やー、イツカー! ご飯いっぱい食べた?」
「うん。リロはみんなと遊んでたの?」
「そー! ボクのお友達を紹介してたのー!」
「リロちゃんの幻獣、みんなすっごいちゃっちゃくてかわいいから、子供たちが喜んじゃって。それでリロちゃんもずっと相手してくれてたんです」
マキュリがにこやかにそんな事を言うと、小さなみんなが揃って、うん! と頷く。
「ま、動物とじゃれるなんて趣味じゃねぇんだけどな!」
「ウソつきマール! マールだって足にすりすりされて、ニヤニヤしてたじゃない」
「う、うるせーぞウェンナ! そんな事ねーよ!」
「あーりーまーすぅぅ!! 見てたもん!」
マールとウェンナって二人は、確か11歳とかマキュリが言ってたっけ。やり取りが小学五年生っぽくて、なんかちょっと安心する。他の子たちよりもちょっと大きいみたいだから、マキュリがいなかったらこの子たちのお兄ちゃんかな。
リロの、お友達……幻獣……。
「……そういえば、あたしもリロの幻獣のお友達って知らない」
「そうだった! よーし、イツカにもボクのお友達を紹介しちゃうぞー! みんなー、集合しちゃってー!!」
と、リロが体の前に手を差し出して、空中を撫でるように滑らせる。
すると、リロの前の地面に小さな魔方陣が4つ、ほわっと表れて小さく輝いた。子供たちが小さく歓声を上げる。
そして、ぽぽぽぽんっ! という小気味よい音と共に魔方陣相応の小さな動物たちが、そこから飛び出してきた。
……この時、その中で見覚えのあるのが。
「えっと、そっちのちっちゃい馬はりんちゃん、だったよね」
「そうそう、名前覚えてもらえるの、嬉しいんだよね、りんちゃん!」
『ひんひん!』
前足を上げて喜んで見えるのは、ちっちゃいポニー、じゃなくて幻獣キリン。
こないだ、抜群のスピードで敵を翻弄してたけど、こうして見るとくりくりの目が円らでとってもかわいい。
「で、こっちはヒーちゃん」
『ぶひひ』
飛び出た時に着地に失敗したらしく、不器用に立ち上がる、見た目は完全にうり坊のその子。
しかしその実、この子は神の作りし完全なる獣ベヒーモスであると。
「この子は、りーばくん」
『……』
ふわふわ浮いているタツノオトシゴ。
何を考えているか分からないぼーっとした顔で宙を見つめている。
ランの話では、その正体は海龍リヴァイアサンだという。
この子の脅威度を知るのはもう少し先になるけど、それよりも横向き姿がややほっそい千葉県に似てるのが気になる……りーばくん……。
「んで、こっちの子たちは、けーくん、べーたん、すーちゃん」
『ひゃん! ひゃんっ!』
子犬が3匹。ほとんど同じ姿。
3匹まとめて紹介されたワケだけど。
「……ひょっとして3匹セット?」
「そー!」
もう言わなくても分かるだろうけど、この子たちも尋常な存在ではなく。
正体は地獄の番犬ケルベロス。……なぜか3匹に分かれてるけど、そんなの知った事かと。
撫でたくなるしかないような愛らしい姿で、尻尾をぷんぷん振る……。
「以上、リロの喧神殿のお友達でしたー! ご清聴あざーしたーっ!」
「術を使わなくても召喚できるんだ」
「うん、呼び出すだけならねー! 眞性異形と戦う時はウェルメイドワークスで、ずばばーん! って召喚するのー! みんなすっごく強いんだよー!」
うん、りんちゃんだけでもそれは良くわかった。
幻獣のみんなも、子供が大好きらしくて、つつかれたり、撫でられたりしても大人しい、っていうか嬉しそうにリアクションしてる。ヤバい、ホントかわいい……。
「さ、みんな。ご挨拶、できるよね?」
「ほい?」
マキュリの声で、なんのこっちゃと顔を上げる。