第51話 「……由々しき事態かと存じます」
と、道を少し歩いていくと人気がなくなったあたりで小さなログハウスが見えてきた。
多分、用がなければここに人が来ることはないと思う。備蓄庫に必要なものを備蓄してしまったら後は基本的にほっぽらかしだろうなと。
非常用である以上、ここに用がないのはいい事だと言えるだろう。
でも、今はここに用があるってことだよね……?
と、その扉の前に、守衛さんよろしく立っていたのは。
「勇者殿!」
「ヴァイスさん。ランとネイプさんはこの家……」
と聞こうとしたところで、だーっとヴァイスさんがあたしに駆け寄って来て。
「わっ!?」
「おお、ようございました! お顔も晴れやかになられたご様子」
「あ、は、はい……心配かけちゃってごめんなさい」
「何を仰いますか! 勇者殿の笑顔こそ、我らファーレンガルドの民の力! わ、私も……その……微力ながら! その笑顔を守らせていただきたく……!」
「ええ、ありがとうございます! で、どうしたんですか?」
「……」
……あれ? ヴァイスさんが変に硬直した?
「……ヴァイスさん?」
「……え? あ、い、いや! はい!」
「?」
不自然な間に、あたしは首をかしげてしまう。
「し、失礼しました。その……由々しき事態かと存じます」
「ゆゆゆ?」
「中へお進みください。マキュリ殿も、ご一緒に」
「は、はい」
ヴァイスさんに扉を開かれて、奥を案内される。
中はそこそこしっかりした家屋を改造されて作られているらしく、扉を開けると玄関のような場所があり、その更に奥に扉があった。
ランはその向こうだろう。
マキュリと一緒に、ランタンの火が揺れるその玄関を抜けて、奥のドアをノック。
「失礼しまーす。ラン、いる?」
「……ああ、イツカ、来たわね。中へどうぞ」
ランの声が聞こえて、あたしはドアを開く。
そして中へ――。
「どうしたの、ラン。なんかネイプさんに連れられ……。……っ!?」
――中へ入って、あたしは息を飲むしかなかった。
やや広い、壁をすべて取り払ったのだと思われる一つの部屋が、この小屋のほぼ全てだった。学校の教室の半分ぐらいかな。
外から小さいと思ってみても、建物の中って意外に広く感じるよね。
その壁に並ぶ棚。
棚には、備蓄庫というだけあって、様々なものが納められてる。
そして問題は、部屋の真ん中。
そこには大き目の机が3つばかり並んでいた。
そして……その上にあったものが、この状況で最も重要なものだった。
「こ、これって……!?」
そこには、二人の人間が寝かせられていたのだ。