第50話 「んしょっと。……元気出た?」
そうこうしているうちに、オビアス村の家々が見えてきた。
ここから先は人の居住空間になる。
そのまま歩いて行けば、村の中心の広場に至るんだけど。
「あーっ! イツカー! 戻ってきたーっ!」
と、左手の方から声を掛けられる。
「リロ! プルパも!」
てててっ、と走ってくる2つの姿。
勢いよく走ってくるリロは、あたしの前で急ブレーキをかけて、停止。
……リロの鋭いユニコーンの角が、あたしの胸元、僅か1cmのところまで繰り出された事には触れまい。
「んしょっと。……元気出た?」
「ん?」
「帰ってくるイツカ、楽しそうだったから!」
「あ……うん、もう大丈夫だよ」
そう言いながら、あたしは傍らのマキュリと視線を交わしあって微笑みあう。
「うん、マキュリと一緒なら大丈夫だと思ったんだけど」
「え? わ、私ですか?」
「そだよー。マキュリはね、この村の中で一番いい風を持ってるなーって、見てて思った。イツカとおんなじ風が吹いてるの」
「えっ……?」
「だからきっと、お迎えに行っても大丈夫だなーって思ったんだけどねー」
にぱぱっと笑うリロは、決して誰も傷つける事はない。
相手のいい所を、自分の感性で自然に見つめることの出来るリロのそう言う所を、あたしは凄いなって感じる事がある。年下だけど、あたしもそうでありたいなって思える素直さがあった。
……そして。
「……イツカは少し、自分の『究極不器用』を気にし過ぎなんだし……」
「ふぇありーず、でぃ……何?」
「フェアリーズ・ディフェクション……。『妖精から見放された者』って意味だし。イツカの物壊しの呪いの事だし……」
「あー……」
あたしの生まれつきのコレに、初めて名前をつけられた。
呪文とかが目に見えた形になる、異世界ならでは、かな?
響きはちょっとかわいい。……中身はろくでもないけど。
「プルパも、リロも……多分ランもジルバも、『究極不器用』で起きた事は、ちゃんとどうにかしようって考えるんだし……」
「え……」
「うんうん! それが仲間だもん! ねー、プルパ!」
「ぅゆ……」
「プルパ……リロ……」
リロと一緒に、そんなことを考えてくれていたプルパ。
見た目や話した感じ、ネガティブさが先に立つように見えるけど、リロとおんなじ純朴さであたしと触れ合ってくれる。
それがこの冒険であたしの支えになってくれることもまた簡単に想像できたから、二人と一緒に冒険に出る事があたしにとって、とても自然な事だったんだよね。
「でも村人……もしもイツカの事、邪険にするなら……村ごと凍らせちゃってもいいんだし……」
「こらこらプルパっ!」
時折本気の時に出る狂気めいた目は、アンデッド、と言うか魔族ならではの物か。
でも。
「うふふ、それは困るなぁ」
そんなプルパの心根をマキュリもすぐに見抜いたらしく、プルパの前に立ったマキュリは少しだけかがんで、プルパと視線の高さを合わせる。
「大丈夫、ちょっと誤解があっただけだと思うの。私がきっと解いて見せるから」
「はー……」
その自信に満ちた目でプルパは見つめられ、そして。
「ぅゅ……」
ほぼ初対面のマキュリであるにもかかわらず、それ以上へそを曲げずに、おずおずとだけど頷くプルパ。
なんて言うか、マキュリってすごく年下の子に包容力があるよね。
そういう時のマキュリは――さっきも感じた事だけど、ちょっと大人びて見える。
優しいお姉さんであり、そして人によっては、お母さんに見えたりもするんじゃないかな?
「ごめんね、二人とも。心配かけちゃって。……ランと、ヴァイスさんは?」
「あ、そうそう、こっちこっち!」
とリロは、あたしの手を引いて、やってきた方へと案内しようとする。
「なんか、ちっちゃいおばーちゃんがランに見てほしいものがあるって、こっちに連れてったの」
『ちっちゃいおばーちゃん』で軽く噴いたマキュリを措いといて。
リロの案内する方向は、『林』といった風情で木々が生い茂り、明らかに人の居住空間とは一線を画す気がする。
「この先は、村の非常用の備蓄庫です。人は滅多に入らないんだけど……」
マキュリも不審がってる。
備蓄庫って食料とか生活必需品とかの保存場所だよね。
そこに何があるのかな?