第3話 「血路は、俺が開くっ!!」
「ラン! 二人はどこにっ!?」
くすっ、とランは微笑んで、あたしの言葉に答えてくれる。
「リロとプルパは城門のところで待ってるわ」
「え……もうあんなトコまで行っちゃったの!?」
ここから見える城の城門までは、結構な距離があると思う。
洞窟から休憩中に、ぽてぽてとどこかへ散歩に出歩いて帰ってこなかった、術使いコンビ。
ランとギルヴスが先行して探しに出てくれて、あたしとジルバが追いかけようとしたところで、後ろからあの眞性異形に追われてきたんだよね……。
「……この場所まで来て何にも襲われずに城の中に入っちゃうとか、どういう幸運が働いたらそうなるのよぅ」
「ふふ、そう言わないであげなさい。城門は鎧戸が閉まってたらしいんだけど……開いてるでしょ?」
「……二人が開けたとかいう!? 開く仕掛けはフツー内側でしょ!?」
「どうにかして入って開けちゃったんでしょうね」
「どうにっ……!? ……ここへ来てまだみんなの全てが分からないですョ……」
そんなあたしを見て、普段はほんわかおねーさん属性のランはニコニコ笑ってる。
「リロが仕掛けレバーの傍にいて、合図一つで鎧戸を落とせるわ。それをこいつの上に落として動きを封じて……ってのはどうかしらね?」
「……おっけ、了解!」
色々考える事はあるけど、そうも言ってられない。
目の前の脅威は、ゆっくりと体を起こし始めているのだから。
『GoooooooooUuuuuuuAaaaaaaaaaaaa……!!』
「……ならば任せろ!」
すっくと立ち上がったジルバが、ギルヴスとランの間を抜けて前へ出て、眞性異形を見上げる。
その様は果たして人の盾となるべき騎士の姿そのものではあるのだけど。
「おぅ、カタブツ。ヘバってなくて大丈夫かよ」
「自然回復の魔力は偉大だ。この甲冑を譲ってくれた、かの御仁に感謝したい!」
旅先での出来事。
それもまた、この城に連れてくるべき想いの一つ。
「その想いに応えるためにも……!」
その硬い握り拳で胸を叩き、ゆっくりと膝まづいて……!
「血路は、俺が開くっ!!」
だんっ、と地面に右の手のひらを叩きつけるジルバ。
その手の下には――さっきジルバが、あの竜種の眞性異形にぶちかましをした際に割れて飛び散った、頭を覆う紫色の鉱石の破片があった。
「行けっ、三人とも!」
「……分かった! お願いジルバっ!!」
言いながら、あたしは走り出す……!
「……『ウェルメイドワークス』……!」
鉱石が――『ゼノグリッター』が光をまといながら形を変える。
――ウェルメイドワークス。
それはこの世界の人間が、眞性異形に対抗する為に編み出した術の総称。
眞性異形の体を覆う、あの紫の鉱石――『ゼノグリッター』と呼ばれる物質を媒介に、自分に最適化した武器を生成し、その武器をもって戦う。
作られた武器は、その作り手の技術にもよるが、往々にして凄まじい力を宿している事が多く――それはジルバの物もまた、例外じゃない……!
「騎士が背中を見せる時! ……己が無様を晒す時っ!」
そう言いながらジルバは立ち上がる。
……手には紫色の鉱石が形を変えた、ビー玉ぐらいの綺麗な球体の石が握られていた。
「されど!!」
石を右手の人差し指、中指、薬指で挟むようにして右手の先端で持ち、くるりと背中を竜へと向ける。
騎士としてあるまじき姿と言われればそうなんだろう。
でも、ジルバの場合は訳が違う。
「我が背中見せる時! それは……!」
背中へグッと手を回し、背中の首の下へと手を伸ばす。
――そこにあるのは、獅子の胸像を紋として象ったエンブレム。
その目玉を模した部分に……!
「友と勝利を分かつ時っ!!」
生み出された石を嵌め込む!
「受けよっ……!」
ジルバが両手を大きく広げると、白銀の甲冑が紫色のオーラを放って……!
「『絶式・衛士反象機構』ッッ!!!」
『GoooooooooooooRuuuuuuuuuuuAaaaaaaaaaaa!!!』
眞性異形が再び大きく口を開けて、ジルバに食いつこうとする――
……しかしっ!
――ギィィィィィンっ!!!
『GaaaaaaaaaaaaaaaAaaaaaaaaaaaaaaaa!!??』
絶叫のような声を上げて眞性異形は、弾かれるようにしてのけぞり、今度はそのまま地面へと横倒しになって、派手な土煙を上げた。
「……見たかっ、悪竜よっ!!」
ジルバのウェルメイドワークスは、その甲冑に対眞性異形のオーラを纏う、防御に特化した術法になるが、ただ身を守るだけでなく、攻撃を行ってきた相手に対して反撃も行う。
威力があればあるほど、反射するダメージは大きくなる。
もちろんジルバの甲冑には傷一つ付いてないんだけど……。
「ぬっ……!?」
背中に嵌め込んだ玉が小さく弾けるように砕け、体を包み込んでいたオーラが掻き消えていく。
オーラがジルバを守れるダメージの量は決まっていて、流石に一撃必殺の威力を持つ竜種眞性異形の食いつきでは、その一回でフィールドは吹き飛んでしまったらしかった。
「見たかじゃねェ! テメェは見てねェで走りやがれっ!!」
「……ぬぅぅぅ!!? 承知ィィィィィ!!」
声を上げるギルヴスに促され、慌てたようにジルバはこっちへと視線を戻し、魔王城へと走り出す。
ジルバの向こうの眞性異形はゆったりと、よろけながらも起き上がろうとしていた。