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第45話 「実は伝令を受けまして、すでに私が」

「私たちの目的は、王国より伝わっておりますか?」


「もちろんですじゃ、昨日、王国よりの早馬より書状をお預かり致しましたゆえ」


 その回答にハッとなるあたしたち。

 ヴァイスさんが一歩前に出て。


「で、では! その伝令はどうしましたか!?」


「……? どう、というのは……?」


 怪訝そうな表情で、要領を得ない回答をする村長。

 それに、ヴァイスさんが更に詰め寄る。


「書状を村長に渡された後! どうしたかと!!」


「そ、それは……」


 三倍はありそうな体格差で、鬼のような形相で迫られて、さすがのネイプさんも引いていた。


「ヴァイス副団長、落ち着いて」


「あ……も、申し訳ござらぬ……」


 ランに窘められ、今の迫力はどこへやら、苦々しい顔で引き下がるヴァイスさん。


「え、ええと、ですな。……伝令の騎士様なら、少し馬をお休めになられた後、半日も経たずして王国へ帰られましたが……」


「……帰ったのですか!? 何事もなく!?」


「は、はぁ、意気揚々と、勇者様の任はこれにて達成せり、とか何とかおっしゃられながら……。のぅ?」


 村人の数人、一緒に見送ったらしい村の人たちがなんだか釈然としない顔でうなずく。

 ……どうしてそんなにヴァイスさんが切羽詰まっているのか、理解できないって感じだった。


 あたしとランは視線を交わしながら、少し首をかしげる。

 どうも村の人たちがウソを言っているような風には聞こえない。


 だとすれば、やっぱりどこかですれ違ったんだろうか? 昨日の夜とか野営で寝てる時に、見張りの担当してる誰かも気づかなかったとか。うーん。


 と、ランが一歩ヴァイスさんに歩み寄って。


「副団長。ごめんなさい、私もよくなかったわ。騎士の方に対して、不名誉な憶測を口にしてしまったかもしれません」


「不名誉な、憶測……」


「ええ。王国の誇り高き騎士団員が、そんなに簡単に眞性異形ゼノグロシアに屈するとは私も思わない」


「む……」


「そして彼は、彼の任をちゃんと全うしてるんです。だから我々も、我々のなすべき事をしましょう」


「……。そう、ですな。今は、私は勇者殿のパーティの一員、それが私の任務。ゴルトは伝令としての任を果たしたのですよね。奴めの事は、機を見て王国に確認をしてみる事と致しましょう」


 ヴァイスさんの心配は、あたしにもランにも分かる。

 でも今はどうにもならないと悟ったらしく、ヴァイスさんは苦い顔をしながらも、とりあえずは納得したようだった。


「失礼いたしました、村長。改めて、私達の目的はすでに伝わっているという事でよろしいでしょうか?」


「え……ええ、間違いございません」


 気を取り直したように、ネイプさんが口を開く。


「この地に伝わる第参英霊級スキルの威啓律ヴァーチュー・因子アーカイブスを勇者様にお渡しするのが、700年前よりのこの村の役割でありますので。……まぁ、使いこなせるか、そもそもお受け取りいただけるかは、我らにも分かりませんが」


 ちらちらとあたしに向けられる目。

 うー……どうしてこう、皮肉交じりに言うかなー、この人……。


「ありがとうございます。そしてもう一つ。我らには目的が加わっております。この村の安全を確保すること。牧童シェファード級の存在があるとなればなおさらです。魔王麾下の眞性異形ゼノグロシアの軍勢をうち払い、その後に威啓律ヴァーチュー・因子アーカイブスをこの地より持ち去れば、この地に攻め入る理なしとして、軍勢が攻めてくることもなくなるはずです」


「おお、承知いたしました。オビアス村村民一同ももちろんご協力させていただきます。どうか我らが村の平和をお守りくだされ……!」


 ネイプさん以下の村人のみんなも、ランに頭を下げた。

 うん、もーしわけないんだけど、ランを信頼してくれるなら、あたしはその方が気は楽かもね。


「あ、あの、勇者様、ルーン旅団長!」


 ふと、手を挙げて、あたしたちに声をかけてくるマキュリ。


「はい、何でしょうか?」


「その、ですね。この村の威啓律ヴァーチュー・因子アーカイブスなんですが……実は伝令を受けまして、すでに私がこの手に納めてきております」


「……そうなの!?」


 うわ、仕事速い。

 あたしのみならず、パーティのメンバーみんな、感嘆の声を上げた。


「な……このじゃじゃ馬が! また一人で『ファバロ』に入りよったか! 危険だと言っておろうが!!」


「……ふぁばろ?」


 ネイプさんの叱責の声を聞きつつも、あたしはマキュリに向かって首を傾げる。


 マキュリは明るい顔で村の奥の方を指さした。

 そこには小高い山が見える。村はそのふもとにある感じだ。


「勇者様、ご覧ください。あの山がオビアス村の守る霊山。私たちは聖地『ファバロ』と呼んでいます。霊山というにはちょっと低い山かもですけどね。そこに舞う一匹の虹色の蝶。それがこの村が長年守り続けた威啓律ヴァーチュー・因子アーカイブスの姿です」


「……蝶!? ちょうちょなの?」


「はい! ですが私の祈りにより威啓律ヴァーチュー・因子アーカイブスとしての姿を取り戻しております。それがこの……」


 と言って、マキュリが胸元から何かを取り出す。


 それが。


「……おっとぉ!?」


 取り出された次の瞬間、マキュリの手を離れてきれいに宙を舞う。


 ……。


 ……舞うっ!?


「え、あっ、まっ!?」


 あたしは慌ててその宙を舞ったものに手を伸ばす。


 それはマキュリの言った蝶の形じゃなかったけど、虹色の宝玉だった。


 威啓律ヴァーチュー・因子アーカイブスの形を取り戻したって言ってた。

 ランのそれと同じように、これもこの形で威啓律ヴァーチュー・因子アーカイブスの役割を果たすんだろう。


 それが今……美しい弧を描いて、宙を舞って……。


「うわわわっ!!」


 あたしが手を伸ばすと、宝玉は指先で弾かれて更に宙を舞った。


「ひぇっ!?」


 マキュリが手を伸ばすと、宝玉は掴もうとしたその指の間をすり抜けた。


「なぁぁっ!?」


 あたしが手を伸ばすと。


「ぅひあっ!?」


 マキュリが手を伸ばすと。


 ……まぁ、結果は『言わずもがな』だとお分かり頂けることだと思う。

 何せ『あたしが手を出した』んだもの。


 そして、マキュリもまた、ある部分あたしに負けず劣らずドジっ子だったらしい。


 そんな二人が織りなすハーモニー、一緒に一つの球をお手玉しながら、かなりハイスピードなポルカを踊る事数秒。


 村の人たちも、ランたちも、何が起きているか把握できないうちに。

 そしてその結末がどうなるか想像しえないうちに。


 聞こえた最後のメロディーは。



 かしゃぱりんっ!!



「ぁ……」


「ぅあ……」


 ……。


 伝説の宝具は、ものの見事に木っ端みじんこだった……。


「……」


「……」


 周囲の人たちがやっと状況を理解して、さーっと血の気が引く音が聞こえるかのようだった。

 そしてそんな中、最初に声を上げたようとしたのは。


「こっ……」


「ごっ……」


「こっ……」


「ごっ……」


「このっ……貴様がっ……勇者などとぉぉっ!」


「ごめんなさぁぁぁいいいいっ!!!」


 いつもだったら物を壊した時、その場から逃げたりなんかは絶対にしない。


 でも、状況が違った。

 人々の期待を背負ったこの立場で、人々の希望を奪うようなその出来事に、今度こそあたしは完全に居た堪れなくなって、


「イツカっ!?」


「勇者様っ!」


 あたしはただ一人、誰もいないと思われる村の奥へと、脱兎のごとく走ったのだった。



   ◆



「勇者殿、お待ちくださいっ! お付きの者も付けず、お一人でなど……!」


「ヴァイス副団長!」


「は?」


「イツカを一人にしてあげて。イツカは勇者という大きな存在になったばかりの女の子なの。デリカシーのない行為は慎まれた方がよろしいわよ?」


「で、デリカシーのない行為でしたか……! ぬぅぅぅ、気をつけねばっ!!」


「……。これは難しそうね……」


「は?」


「いえ、なんでも」


「マキュリ! お主は、どこへ行くのじゃ!」


「今の! 勇者様だけの責任じゃないのは、誰の目にも明らかでしょう!」


「それはそうじゃが……!」


「それに勇者様、多分『第参英霊級の威啓律ヴァーチュー・因子アーカイブスを誤解なさってる』……! 私、当事者として、この村の巫女として、ちゃんとお話してきますから!」


「……こっ、これ、お主が行ったところで……! 全く……憧れだけでどうしてあのように跳ね回れるのか……」


「聖謐巫女という聖職にあっても明るくて快活なお孫さんですね。見ていてとても清々しいですわよ、村長」


「何をおっしゃる、ただのじゃじゃ馬娘でございますよ。……ところでルーン旅団長、実はどうか見て頂きたいものがございましてな」


「見てほしいもの。……何でしょうか?」


「言葉で説明するは難しく存じまする。ささ、皆様も、どうかこちらへおいで下さいませ……」




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