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第44話 「これが……勇者とは……世界の命運はどうなって……」

「これが……勇者とは……世界の命運はどうなって……」


「おーい! 門を開けるぞ!」


 ネイプさんが何やら唸るように言う中、門の櫓からの声で村人たちが一瞬緊張する。


 しかし、その櫓の声があまり緊張を孕んでいないのに気付いてか、すぐに門の向こうから何が来るのかを見定めようと、みんな揃って視線を向けていた。


「イツカ様、お怪我はありませんか?」


 そんな中、門を少し気にしながら女の子が手を握ったまま、あたしの肩に手を置いて気遣ってくれる。


「う、うん。ありがとう。えっと……マキュリ?」


 あたしは何気なくこの場で連呼されていた、女の子の名前を口にしてみた。

 と、それでまたその女の子の――マキュリの顔が、満面の笑みになる。


「はっ、はい! マキュリと申します! マキュリ・ソーリアです!」


 年が、近い。

 多分、ほとんど同じ年齢だと思う。


 この世界でそんな子と知り合いになれた、これも初めての事だった。


「イツカっ!」


 門の方から声がかけられる。

 その姿を見て、あたしはこの場でやっと緊張を少しほぐすことが出来た。


「……ランっ!! みんな」


「よーかったっ! お馬さんが暴走してったのが見えてびっくりしちゃったもん!」


「振り落とされなくて……よかったんだし……」


「リロ、プルパ、心配かけてごめんね。……ヴァイスさんも」


「申し訳ございません……! ご信頼頂くべき我らが軍馬が、あのような暴走を……」


「いいえ、あんな傷じゃ、どんな馬だってびっくりしちゃうと思いますから」


 そう言ったのは、あたしの後についてきていたマキュリ。

 その向こうで、あたしの乗っていた馬は、怪我の治療のために村人数名に引かれて行った。


 と、ランはマキュリの姿をしげしげと見て、何かを納得したように問いかける。


「……あなたはもしかして、威啓律ヴァーチュー・因子アーカイブスの?」


「はい、オビアス村の聖謐せいひつ巫女、マキュリ・ソーリアでございます」


 少し大人びた雰囲気で、マキュリはランに挨拶をした。

 ん? マキュリが、威啓律ヴァーチュー・因子アーカイブスの、何?


 と、あたしの疑問をよそに、ヴァイスさんが一歩前に出て丁寧に頭を下げる。


「ハインヴェリオン王国、元スタリット騎士団副団長のジルバ・ヴァイスであります。われらが軍馬を抑えて頂きましたこと、感謝申し上げる」


「いいえ、とても素直で、主思いの子でした。私が手を出さなくても、勇者様を振り落とそうとは決してしなかったと思います」


「王国ギルド、碧風ヴェルデマーレ旅団長のラン・ルーンです。ヴァイス副団長と共に、勇者の付き人としての任を受けております。そしてこちらは同じく勇者のパーティメンバー、リローヴィとプルパですわ」


「こんちゃ!」


「……」


「おぉ……王国の……! お待ちしておりましたぞ……!」


 マキュリの更に後ろからやってきたネイプさんとお付きの人たち。

 ……どうやらネイプさんにとっては、勇者って言う存在より、王国でしっかりとした役職についてる人たちの方が信頼できるみたい。いや、さもありなん、って話ではあるんだけど。

 あたし的には、そんな人たちとちゃんとした関係を結べてるって言う方が大事なのかなー……。


「いや、すげぇよ。あれだけの大群、たった4人でどんどん蹴散らして、門の外までほとんど一直線だったぜ?」


「マジかよ、さすが王国の精鋭……。あんな勇者なんて必要なのか……?」


 ……聞こえてますよー、村の皆さん。

 そりゃあたし、一週間前までフツーの女子高生でしたしねーっていうのは理由にならないですかね……?

 なんて言うか、そろそろ本気で居た堪れなくなってきた……。


「流石は王国の選ばれた皆々様でいらっしゃる。この程度の烏合の衆の軍勢など物ともされないとは、誠に頼もしくございますな」


「いいえ、村長。それは逆かもしれませんわ」


「逆、と仰いますと?」


「烏合の衆ではなく――私たちには、軍勢が逆に統率が取れていたからこそ、眞性異形ゼノグロシアのたちは我々から退いたように見えました」


眞性異形ゼノグロシアが……統率……?」


 ネイプさんが怪訝そうな顔をする。


「はい。私たちは牧童シェファード級の存在を警戒しています」


「なんと……! この村にそのような眞性異形ゼノグロシアが……!?」


「……牧童シェファード級って?」


 居た堪れなくなって言葉が発せられなくなりつつあるあたしだが、おずおずとランに聞く。

 どうやらマキュリもよく知らない存在らしく、あたしと並んでランの言葉に耳を傾けていた。


眞性異形ゼノグロシアの中でも、戦闘より状況の把握や知略に富んだ、指揮官のような存在の事よ」


「っていうと、それは力任せに襲ってくる眞性異形ゼノグロシアとは……」


「はっきりと一線を画す存在ね。牧童シェファード級に統率された凶暴なだけの眞性異形ゼノグロシアたちが罠を張って待つ、みたいな計略を仕組んでくることもあってね。それだけで戦力を数倍に見る必要が出てくる。個体数は少ないながら、どの級の眞性異形ゼノグロシアよりも危険視されてるわ」


「そっか。眞性異形ゼノグロシアって、無暗矢鱈に押し寄せてくるイメージがあったんだけど、じゃあ、こないだみたいにお城に攻めてくるとか、引き際を見極めるとか、そういうのはどうやって決めてるんだろうとは思ったんだよね」


「そう、そのあたりの裁量も牧童シェファード級が考えているらしいの。こないだ城に攻めてきた軍勢にも、多分一個体、二個体ぐらいはいたと思う。ただ、それに対して軍勢が多すぎたみたいで、そういう時はどうも指揮が大雑把になってしまうみたいね」


「さっき村に入る前に言ってた『あれ』ってのも、その牧童シェファード級っての? 待ち伏せされてたのも、そいつのせい?」


「ええ、そう。ただ、今回のこの村に押し寄せてきた軍勢は、被害を最小限に抑えてる。勇者の出現、そしてそれに対して第参英霊級スキルを警戒して攻めてきたとすれば、軍勢の十分な管理ができてるかもしれない。注意が必要かもしれないわね。間に合ってよかったと言っていいかもしれないわ」


「な……なんと、ではこの村は一歩間違えば、その強大な魔王軍の戦力に蹂躙されていたやもしれぬと……!」


 ざわめく村の人たち。


「村長、ご安心召されよ! 勇者イツカ殿と我らその一行が、この村を強固にお守りし、軍勢を蹴散らして見せましょうぞ!」


「はぁ……皆々様の実力は王国が証明しておられますが、はてさて、勇者様は如何許りかと……」


「うぐ……」


 ネイプさんに引っ張られるかのように、不安に駆られた村の人たちの視線があたしに一斉に突き刺さる。

 完全に針のムシロ全開。


「村長。一つ確認したいことがあります」


「いかなる事でしょうかの?」


 ランの問いかけに、ネイプさんがあたしとは比べ物にならないぐらい、柔らかく応じる。




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