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第41話 「勇者様勇者様、勇者様ぁぁぁーっ!」

「にしても……昨日の村の事はあるけど、ここまで順調な旅だったね、ラン?」


 ふと、そんな事を後ろのランに聞いてみる。


 お城での晩餐会とか、城を出る時とか。

 『街道は危ない』『十分に注意して』なんてのを何度も聞くぐらい、城の外は危険だって話だった。


 神出鬼没の眞性異形ゼノグロシアはどこから現れても不思議じゃない――そう言われ続けてきたにもかかわらず、一度もその襲撃にあってない。


 昨日の村の惨状はあったけど、別段その付近で眞性異形ゼノグロシアに襲われるような事があったわけでもなく。


 これじゃ、ファーレンガルドの現状をまだよく把握できてないあたしには、眞性異形ゼノグロシアの脅威はともかく、王城の外の危険って言うのを――


「……そう、そうなのよ」


「え?」


 不意にランの声が緊張を帯びて発される。


「ここまでの行程、ちょっと異常なほど順調すぎた……まさか!」


 ……その時……!


「みんなぁ、待って……アレっ! あそこっ!」


 リロが大声と共に指をさした方向。

 それは村の方角であり、その草原の先には、壁らしきもので大きく囲われた場所があった。


「あれが、オビアス村!?」


「その通りよ!」


 そして、その村をぐるりと取り囲むようにいた大群は……!


「……眞性異形ゼノグロシア! あんなにっ!」


 大小入り混じった、歪な亜人たちのその数――300はいる気がする。

 そいつらが街道の左右に、横に大きく広がって、じわじわと村の防壁へと距離を詰めようとしていた。


「村を攻め落とすために、このあたりの眞性異形ゼノグロシアを集めていた……? だとすれば、『あれ』が……!?」


(『あれ』……?)


 ランが何やら気になる事を言ってるけど、あたしは眞性異形ゼノグロシアの進行の方が気になっていた。


 あたしたちと眞性異形ゼノグロシアの軍勢の距離はまだ4、500mはあるだろうか?


「ぬぅぅ……さすがにあの数は、我が王国の誇る防衛力でもしのぎ切れんやもしれん……!」


「で、ですよね!? 急がないと……!」


『GuooooRuuuuGaaaaaaa!!!!』


「うわわ!? なんだぁ!?」


 不快な声と同時に、不意に街道の両側の少し高い草むらから、突然現れた亜人たち。


 それは、前の戦いで見たあの眞性異形ゼノグロシアの小鬼種とか言われる奴らだった。


「ぬぅぅ!? 待ち伏せかっ!?」


「えぇ!? こいつらそんな事出来るんですか!?」


 ただただ、単純に突進していくだけの怪物たちだと思ってたんだけど……!


 でも、そんなの今はどーだっていい。

 村に向かう軍勢に劣らず、こちらもその数30あまりと、5人で裁くには少し数が多いんじゃ……!?


『GoooRouaaaaa!!!』


「みんな、気を付けっ……!」


 とランが言い終わる前に、その内の一匹が投げ放った手斧が……!


 ――ヒィィィィィンンっ!!!


「うわわっ!?」


 あたしの乗っていた馬のお尻を捉え、ざくりとその刃が突き立った!


 馬が暴れて前足を大きく持ち上げる。


「あくっ!?」


 それと同時にあたしの後ろにまたがっていたランが、大きく振り落とされた。


 馬に残されたあたしは何とか手綱につかまって、振り落とされまいと馬にしがみついていたので振り落とされることはなかったけど。


「えっ、ちょっ……えっ!?」


「イツカっ!?」


 振り落とされても、華麗に着地したランの声が一気に遠ざかる。


 突然の攻撃による痛みで驚いたあたしの馬が、あたしだけを乗せて一気に走り出したのだ。


「ランーっ!? これ、どうしたらっ……!!」


「逆らわずに! 手綱を持って……!」


 手綱を持って……どうしろと!?


 それを聞こうとしたときには、馬はすでにランの声が届く距離にいなかった。

 ぐんぐん走る馬は、そのまま道なりにオビアス村に。


 しかし……!


『GuAGyaaaaaaa!!!』


 今度は村に攻め入ろうとしていた眞性異形ゼノグロシアの十数体ぐらいが、あたしの馬の突進に気付き、振り返って駆け寄ってくる。


 前方から迫りくる眞性異形ゼノグロシア

 あたしの馬に殺到する……!


「うわわわぁぁっ!!?」


 気づいたら、あたしの前方にバカでかい鬼人級の眞性異形ゼノグロシアが立ち塞がろうとする!

 不慣れな馬に振り落とされないようにするのが精いっぱいの今のあたしじゃ、剣を振るどころか、抜くことすら……!


『GouHuaaa!?』


『GeGyaGyaaaa!?』


「えっ……!?」


 不意に、前方の眞性異形ゼノグロシアの壁が割れる。


 そこから現れたのは――!


「……な、なにっ!?」


 一頭の白い馬だった。

 その馬があたしの馬の横についたと思った瞬間、反転してあたしの馬に並走する。

 そして……!


「……勇者様、ですねっ!?」


「はいっ!?」


 その背中には誰かが乗っていた。


 それが誰かをちゃんと確認する前に、ひらりと舞うようにして、その人が――一人の女の子が、ランの代わりのなるようにあたしの後ろにまたがる。


 そしてあたしの代わりに手綱を持った。


「エートース!! 行って!」


 主のいなくなった馬は、それでも忠実に主の言葉を聞いていななき、あたしたちに先行するように走る。


 その疾走で再び割れる眞性異形ゼノグロシアの一団。


 だけど、その馬をかわした後、正面に迫っていたその鬼人級の眞性異形ゼノグロシアがバカでかいこん棒を振り上げて……!


『GooouRoooAaaaa!!!』


「頭を下げてっ!!」


 それを……!


「ぅひゃうっ!」


 ……すり抜ける!


「うっはー! あぶなかったっ!!」


 ちらりと振り返れば、勢い余ってたたらを踏む鬼人級の姿。


「お怪我はありませんか勇者様っ!?」


「えっ……」


 振り返ったついでに、あたしは後ろに乗った人の姿をまじまじと見る。


 不思議な民族衣装に身を纏った……あたしの世界で言えば、なんかモンゴルの遊牧民のようなゆったりとしたもので、淡い緑と白で綺麗に整えられた色調がステキな服装。


 それに身を包んだ、柔らかな表情の女の子。


 一言でいえば、カワイイを絵にかいたようなその子が、今の華麗な馬術を……。


「勇者様……」


「は、はい」


「勇者様勇者様、勇者様ぁぁぁーっ!」


 後ろから抱きつかれて、ぎゅううう!


「うにゃぁぁぁっ!?」


「ずっと、ずっとお待ちしておりました……! このマキュリ……勇者様のご来訪を、心から……!」


 とかいいながら背中に頬ずり、体の前に回された手がもぞもぞ。


「はにゃっ……ちょっ……ふぁっ!? にゃっ……くすぐったっ……」


 変な上擦った声を上げるしかないあたし。

 この子は一体、何なんですかぁぁぁぁ!?


 しかし、とかやってる間にも、村の門が近づいてくる。


 その村の門の周りに、第一波として村に取り付こうとした眞性異形ゼノグロシアの群れ。

 それが更にこちらに顔を向けてきて……!


「マキュリーっ! そのまま走れっ!」


「えっ!?」


 村の門の上の櫓から声。

 そして体格のいい男性がこちらに声をかけてきていた。


「パルティス! お願いっ!」


 その男性の横に、少しひょろりとしたメガネの男の人。

 弓を持って矢を番え、それを放つと……!


『GueAu!?』


「やった、当たった!」


 一匹の小鬼級眞性異形ゼノグロシアの肩に当たり、そいつはぐらりとよろめく。


「まぐれかよ、サット! もうちょっと真面目に練習しろってのっ!」


 苦笑いでそんな事を口にする男性たちの周りに、さらに何人もの人が現れて弓を放つ。

 おじさんやおばさん、おじいちゃんみたいな人もいるし、何人かはまだ子供と言った風情の子たちもいた。

 でもみんな一様に弓をしっかりと放ち、眞性異形ゼノグロシアに矢の雨を降らせていく。


 残念ながら、頑丈な眞性異形ゼノグロシアには、当てても倒すことはほとんど出来ていないみたいだったけど、それでも足止めぐらいには十分になっていた。


「はぁっ!」


 後ろの女の子が、あたしの前の手綱を握り、操馬する。


「うひゃっ!? うわわっ!? うっひゃーっ!?」


 ジグザグに跳ねる馬が眞性異形ゼノグロシアの間をすり抜けていく。

 あたしは無様もにがっくんがっくん揺らされながら、なんとか振り落とされないようにするのに精いっぱいだった。


 それでも女の子の操馬は確かで、そのまま馬は門をすり抜けていく……!


「よし! 閉めろーっ!」


 その声が後ろから聞こえた所で、馬はやっとスピードを落としてくれた。




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