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第39話 「村の人たちは……?」

 その翌日の事。


 あたしはその日、改めて眞性異形ゼノグロシアと言う物の脅威に触れる事となった。


「……っ……!?」


 オビアス村への行軍中、開けた土地に残された村の残骸に遭遇する。


 焼け焦げた家や、半壊した建物、痛々しい破られた防衛の痕跡。


 そして、それらは決して古すぎるものではない事が、あたしにも伺い知れた。


「……一月前の事です。この地を守っていた騎士団が、別の村の防衛に回ったタイミングを計ったように、眞性異形ゼノグロシアの一軍が、村を襲ったのです」


 沈んだ声であたしに聞かせてくれるヴァイスさん。


「村の人たちは……?」


「……辛うじて逃がされた数名を残し……ほぼ全滅と……!」


 惨状を反芻するかのように食い縛った歯が、ヴァイスさんのそれ以上の言葉を遮る。



『勇者様、お願いいたします! 故郷の家族の仇を!』



 ……王城から出る時、そんな声を聞いた。


 その人の故郷がここでなくとも。

 少なくともこの地を奪われた人がいるという事。


「村の裏手、見に行く?」


「え?」


 ランが、ボロボロになった一つの建物の向こう側を指さす。


「墓標があるわ。全ての人に一つずつお墓を作ってあげる事は出来なかった。だからそこには、村の共同墓地が、ね」


「……」


 この時、あたしは既に正常な判断が出来ていなかったと思う。


 ついこの間まで、のうのうと平和な日本でただの女子高生として過ごしていたあたしが、生と死が常に付きまとう世界に放り出され、そして死の匂いしか感じられない場所を目の当たりにしている。


 あたしも現代っ子として、のほほんとしたものばっかりじゃなく、陰惨な戦いを描いたアニメや映画も結構見ている方だ。


 あのシーンが。


 戦いを宿命づけられた男たちばかりでなく。

 日常の生活を守る女性や何も知らない子供たちまでもが、突如火の海の中で焼かれ、錆びた武器の餌食になっていく、あれらの場面がリアルに起きた、その場所にあたしはいるんだと。


 そして、共同墓地とは聞こえがいいけど、その犠牲になった人々が有象無象であるかのように雑多に一つの場所に放り込まれ、埋められている場所が建物一つ越えた向こうにあるのだと。


 その事実をどう認識していいか分からなくて、色んな事を頭に駆け巡らせたあたしの心は、この場の自分にとって何をする事が最善なのかと言う判断が出来なかったらしかった。


「……ううん、いい」


「そう?」


 無機質にあたしはそう口にし、それは当然にようにみんなに受け入れられて、あたし達は行軍を続ける。

 村を離れてしばらくした後、あたしは自分の喉がカラカラに乾いていたのに気付いた。



 その判断は、結果として良かったとは思う。

 少なくとも、それで足が竦んで、前に進めなくなることはなかったのだから。


 そして――それは結局、遅かれ早かれ触れる事になったのだから……。




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