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第38話 「あたしのこないだ使ってた力っていうのは」

「うぅむ……じゃあ、あたしのこないだ使ってた力っていうのは、実はかなりすごい?」


「その剣に宿っていた力とはいえ、第壱英霊級スキルを3つなんて、その時点で人知を超えてると言わざるを得ないわね。勇者という存在の力量を強く感じるわ」


「ぬー」


 そうは言われても、どうにもその力っていうのに実感が湧くでもなく。


威啓律ヴァーチュー・因子アーカイブスで能力を向上させた状態で、ウェルメイドワークスが使用できることが、一流の戦士の条件と言われているの。でもそんな力を宿した状態で、更に複数人による同時攻撃が可能になるなんて……私たちからしてみれば『絶技』と称するに値する。はっきり言ってそんなイツカに勝てる人がいるとは思えないわね」


 うん、確かにこれは、ランたちファーレンガルドの人たちから見れば、あの神様の言う『チート』なんだろうね。

 あたしは小脇においた剣をちらりと見た。


 でも、だよ?


「でも、その第参英霊級の? 威啓律ヴァーチュー・因子アーカイブス? を手に入れに行くんだよね?」


「そうよ」


「あたしに勝てるような人はいないって、ランは思ってるのに?」


 まぁちょっと自信過剰な聞き方だけど、ちゃんと目的を明らかにしたいってことで。


 ランは少し目線を下げて、眼鏡の弦を持ち上げる。


「ええ。……人なら、ね」


「お?」


 ランの眼鏡が、一瞬焚火を反射して光った。


「魔王の城に向かった700年前の英雄たちも、第参英霊級のスキルをいくつか身に着けていたという話なの」


「そうなの!?」


「うん。でも、そんな英雄たちでも?」


「あ……帰って、こなかった……」


「その通りよ。そうである以上、第参英霊級の威啓律ヴァーチュー・因子アーカイブスを身に着けるだけじゃ、勝てないかもしれない。魔王というのはそれだけ凄まじい相手ってこと。まだあたしたちが知らない眞性異形ゼノグロシアもいるかもしれないし。……絶対は絶対にないわ。入念な準備は必要なのよね」


「うん……!」


 心構えだけじゃなく、しっかりと伝説の装備を探して、身に着けて行こうってことか。

 ますますファンタジーRPGっぽくなってきたなぁ……。


「それがあるのが、その、オビアス村? 城から三日って、意外に城から近いトコにあるなーって認識は合ってる?」


「ええ。イツカの言う通り、今、王国でいくつか知られている第参英霊級の威啓律ヴァーチュー・因子アーカイブスの所在地では、王城から一番近い場所よ」


「危なくない、その村の人たち? 見た感じ、この荒れたご時世、眞性異形ゼノグロシアだけじゃなくて、強盗とか村を襲ったりとか……」


「それは多分、大丈夫よ」


 小さく微笑んでランが言う。


「使用者が極々限られるっていうのがポイントね。行っても一般人には価値はないし、その上――」


 と、ランが再び手のひらの上に威啓律ヴァーチュー・因子アーカイブスを出現させて。


「第参英霊級の威啓律ヴァーチュー・因子アーカイブスは、どれも最初は、こんな白い玉みたいに分かりやすい形してないのよ。ちゃんと使えるようにするためには、ある特殊な儀式が必要だったりするから、普通の宝物としてはとっても扱いづらい代物なの。盗むリスクとは見合わないわね」


「儀式、ですか……」 


 特別なものっていうのは分かったけど、なんていうか、『正体を得ないお宝』というのが正しい気がする……。実態がよく分からない。

 伝説の宝物ってそんなもんなのかな?


眞性異形ゼノグロシアの侵略にずっと耐えてきたんだよね。村っていうけど、大きな村なの?」


「いや、集落としては小さな部類に入ります」


 その辺の事情に明るいらしいヴァイスさんが口を開いた。


「ですがオビアス村は、過去よりそのような特別な土地であるゆえ、王国が防衛のサポートをしているのです」


「あー、なるほど」


「騎士団は要請がなければ出せぬのですが、村には強固な防壁が敷かれ、多少の眞性異形ゼノグロシアの攻撃でもびくともしませぬぞ!」


 誇らしげに言うヴァイスさん。


「我らファーレンガルドの民は、決して勇者殿への尽力を惜しみませぬ。そ、その……無論! この私めも! 勇者殿の盾となって、勇者殿をお守りする所存でございます!」


「……ありがとうございます。でも、無理して怪我はしないで下さいね?」


「おぉ……! お優しき言葉……我、千人力の力を得たかの如く! その身が常に安らかであられますよう、尽力いたしますぞ……!」


「は、はぁ……」


 何だろう、無理するなって言っても無理しちゃいそうな人だよね、ヴァイスさん……。

 あたしも人の事言えないトコはあるんだけど。


「ジルバー」


 と、リロがあたしにすり寄るように座りながら、ヴァイスさんに言う。


「ジルバはイツカが悲しいのって、いいの?」


「リローヴィ殿、そのような事は決してあってはならぬ事でありましょう」


「でも、ジルバがイツカ守って怪我しちゃったら、イツカ、悲しんじゃうよ、きっと?」


「ぬぅ!?」


 痛い所を突かれた、と言わんばかりの形相を浮かべるヴァイスさん。


「ねー、イツカ? イツカ、女王様のトコで兵士のみんなに言ってたもんね?」


「あ、う、うん」


 確かにあたしは、みんなにケガとかしないで下さいって言った。


「な、なるほど……お優しいが故のお気遣い……! 我は、どのように立ち回るべきなのか……!」


「それが副団長のこの度の命題になるんじゃないですか?」


 ランが意外なほどサラッとヴァイスさんに言う。


「命、題……?」


「騎士団なら騎士団の戦い方があるんでしょうけど、この勇者のパーティでは、ここなりの戦いがあるって事だと思うけど?」


「むぅぅ……!」


 あぐらをかいたまま腕組みをして頭をひねり、何事かぶつぶつ言いだすヴァイスさん。


「さ、イツカ。リロも、プルパも休みましょう」


 ヴァイスさんをほっとくかのように、ランがあたし達に言う。


「……ヴァイスさん、地面にこめかみが付きそうなぐらい頭捻ってるけど、大丈夫かな?」


「彼なりに壁に突き当たってるって事よ。『想い』だけ先行しても怪我するだけ。仮にも若くして王国の重職に就いた人なんだから、しっかり悩んでもらわないとね」


「……そーゆーものなの?」


 ランはにこりと笑う。

 どうやらあたしは、まだまだこのパーティの事を良く把握できてないって事みたいだった。




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