第37話 「今回の目的地について話をしましょうか」
さて、そんな王城を出て最初の夜。
馬の鞍の上という、慣れない物にずっと座りつづけるお尻への苦行に、やっと一心地つける野営の時間となった。
「さて、それじゃあ今回の目的地について話をしましょうか」
焚火を囲んで切株や少し大きめの石とかに腰を掛ける、あたしたち女子一同。
ヴァイスさんは地面に胡坐だけど、体が大きいからそれで十分みんなと同じ目線の高さになる。
さらにテントを張って、守りの術を周囲にかけて。
おお、なんとも異世界ファンタジーの野営といった風情だね。
「私たちの向かう先は」
「オビアス村だよねー、この道って!」
「はいリロ、よくできました」
「てぃひひー♪」
にぱぱっと笑うリロ。
ちなみにリロとプルパも一頭の馬に二人で乗ってるんだけど、さすが幻獣使いというところなのか、あたしなんかと比べるのは失礼ってレベルで、リロの馬術は見てて全然危なげってものがなかった。
「冒険の行き先とかって、王城で落ち着いて話をしてもよかったんじゃない?」
実はこのタイミングに至るまで、目的地について具体的な話がなかったので、あたしはランに言われるがまま――っていうか、馬に乗せられるがままにここまでやってきたわけだけど。
「勇者イツカの行軍経路は、基本的に王国では極秘事項として扱うようにしているの。どこかから漏れて、敵に待ち伏せされるなんてあってはいけないことだし、そもそもこういう行軍にはトラブルがつきものだから、何かあったら途中で経路変更も考えなきゃだし。だから具体的な目的地は、パーティの面々だけで話せる状況で共有した方がいいと思ってね」
「なるほど」
できる用心はしといたほうがいい、と。
「この目的地は……ランが考えたんだし……?」
「私だけじゃないわ。女王様や騎士団長を交えて、ある程度の指針を取りまとめたの。だからこの経路を知っているのは、今のところ私たちと、女王様、騎士団長だけになるかな」
「うん……今のところは、順調だと思うんだし……」
「ええ。目的地は『オビアス村』。これに変更は無くて良さそうよ」
「あと二日も馬で行けば無事につくはずです。勇者殿、飛ばせば一日でも着けますぞ!」
「ヴァイス副団長。無駄に馬が疲れてしまいますから、飛ばす必要はないと思いますよ」
「ははは、これは然り! 急いては事を仕損じますからな!」
ヴァイスさんは頭を掻きながら笑う。
うーん、ちょっと今日一日ヴァイスさんの行動を見てて分かったんだけど……この人真面目なんだけど、時々不器用かなーって。
気を周りに使いすぎて、少々空回りしてるというかなんというか……。
イイ人なんだけど。
ちなみに、その隣のランは微笑んでるけど表情が変わって見えない。
「そうだ、ギルヴスさんには目的地って伝わってるの?」
「ええ、彼が城を出る時に騎士団長が伝える手筈になってるわ」
「ふむ」
やり残した事のあるっていうドラゴニュートの銃士・ギルヴスさんは、なんかあさって辺りから、あたしたちの後を追いかけてきてくれるらしい。日程にして二日遅れぐらい、かな?
「この後の、その……オビアス村、だっけ」
「そそ」
「そこで合流ってことになるのかな?」
「そうね。多分、二、三日は村にご厄介になると思うから、そこで自然と合流することになるわ」
ランは、この後の事と符合させるようにやや考えるそぶりを見せながら、あたしに答えた。
「で、そのオビアス村には何があるの? それ詳しく聞きたいな」
「ええ。ちゃんと話しておかなきゃね」
ランが改まるように、座りなおして語り始める。
「イツカはスキルって分かるかしらね?」
「えーとね。あたしが自分の世界の知識だけで語っていいなら、『スキル』は、技とか技能とかなんだけど」
「この世界でのスキルというと、『能力向上のための特別な力』と言ったところかしら」
「のうりょく、こうじょう」
「イツカも使ってたよー! ほら、剣を抜いた時に、うりゃーって3つぐらいすごいの出たよね!」
「……ああ、そっか!」
あの『たくさんのあたしで大暴れ戦法』か。
でも、あの時無我夢中だったから、イマイチ何したかよく覚えてないんだよね。
どっちかっていうと剣に使われた感覚もあったしなー。
「この世界の戦士たちが戦いや冒険の中で使うスキル。それは『威啓律因子』と呼ばれる、宝具によって身に着けられるの」
ランがあたしの眼前に、すっと手を差し出す。
すると、手のひらの中からわずかに輝きを伴った白い玉がするっと現れた。
「ぅわっ、びっくりした。え、何? 今、手……っていうか、体の中から出てきたよね?」
「そう。こんな感じで、『威啓律因子』は、所持者の体の中に直接取り込まれた状態になって、所持者の呼びかけでその力を発揮するのよ」
ランが手を握るのに合わせて、再びするっと手のひらから体の中に入る白い玉――『威啓律因子』。
「えっと、痛いとかは、ないんだよね?」
「ええ。体の中に入るっていうのは、視覚的な状態でしかないから肉体に直接的な影響はないわ」
「ふーむ」
よくわかんないけど、まぁ、大丈夫だと。
「で、このスキルなんだけど、その発揮される力の大きさに応じて、王国によって9つに等級が分類されてるの」
「9つ?」
「まず、大別して3つ。駆け出しの冒険者たちでも扱いやすい『雄志級』。ベテランたちの力をさらに強力にする『将星級』。そして存在自体が希少な『英霊級』。そしてそれぞれが『第壱』から『第参』までの3段階に分かれて、全部で9つの等級よ」
「なるほど」
「その中でも最上級にあたる『英霊級』と呼ばれるスキルは、スキルが使用者を選ぶといわれてるの。どんな努力をしても、適性がなければベテランでも扱えない。本当に使用できる人が限られてる物なのよ」
「ほぇー……」
「でも。勇者であるイツカならそれを使いこなせるんじゃないかと思ってるわ」
「ぅぅぐ……ご判断はお任せします……」
うーん、こんな主体性のない勇者でいいのかなぁ……?
「でも、みんな結構強いと思うんだけど、その『第参英霊級』っていうスキルが、最上位スキル? なのかな?」
「そうね」
「それって、ランとか、ヴァイスさんとか、誰か使えたりしないの?」
「うふふ、それは『馬に上手く乗れるなら、バハムートも乗りこなせるの?』って聞いてるようなものね」
「……え、まじで?」
突拍子もない事を言ったらしいというのは理解できた。
ランが言葉を続ける。
「第参英霊級スキルは伝説と言っていいほどのもの。第壱英霊級ですら、王国で数えられる程度のものしか管理できていない。私もそこそこ名の通ったレンジャーとして馴らしてはいるけど、それでもレンジャー系スキルツリー上の、第参将星級を二つ扱える程度だもの」
「ボクは魔術系の、魔力錬成高速化の、第弐将星級の因子を一つ持ってるよー」
「ほほう、リローヴィ殿もですか。私も家に代々伝わる、同じく第弐将星級の戦士系のアーマー強化スキルを扱えますぞ!」
「プルパは……そういうのないんだし……」
「でもプルパは魔王炉が使えるから、それだけですんごい魔力使えるもんね!」
「ぅゆ……。……どうも魔王炉を使ってると……威啓律因子は持てないらしんだし……。因子を持ってると、プルパが不安定になっちゃって危ないんだし……」
なるほど、色々あるんだね。