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第31話 「……この武器が、ですか?」

「その、ですね。さっき控室にいた時なんですけど、なんで魔王は700年もこの世界を滅ぼさずにほっといてるのかな、不思議だなってランと話してたんです」


「ふんふん」


「色々と説は聞いたんですよ。確かに結構、どれもそれっぽいなーとは思いました」


「どれも推論は出ぇへんけどな」


「って話ですね。んで、その説の中で一つ、あたしが気になったのは」


 ……なぜそれが気になったのか。

 まだあたしの頭の中で漠然として、整理ができていないんだけど、とにかく口にする。


「『魔王が何かを待ってる』って話です」


「せやな、そんな事も言われとる」


「はい。……それってどういう事なんですかね?」


「そうやねぇ……」


 女王様はあたしの話を聞いて、少し目を閉じて考える。

 そして、内容が決まったのか、目を開いて話し始めた。


「それやったらまず……700年間、ウチらの王国に受け継がれてきた伝承を聞かせてあげようねぇ」


「この魔王との戦いの、ですか」


「せや」


「ぜひ聞かせてください!」


 正直、願ってもない話だ。


 女王様は頷くと、少しずつ思い出すようにして語り始めた。


「――700年前、魔王の城から溢れてきた眞性異形ゼノグロシア。当時のファーレンガルドの民は眞性異形ゼノグロシアの核たるゼノグリッターを粉砕するすべを知らへんかったさかい、眞性異形ゼノグロシアの猛攻に耐えられず、次々に町や国が滅びたんや」


「ふむぅぅ……」


 うぅむ、『成す術なく』ってのは正にこの事。

 真顔の女王様の向こうに無念さを抱いた人たちの顔が見えるかのようだった。


「せやけど、その滅びた国の生き残りが集まって大きな砦を築いた。それが、このハインヴェリオン王国の基礎言われとる」


「おお……ここは反撃のために結集した人類の最後の砦だったってワケですね!」


「まぁ、最後だったかは分からへんし、そうなれば良かったんやろうけど、そう上手くはいかんかったんやな。……一方的な防戦を強いられるだけやったさかい、砦の兵士たちの気力は次第にそがれて行ったらしい。結構な危機にまで及んだようやな」


「あー……。眞性異形ゼノグロシアの倒し方を知らないなら、仕方ないですよね」


「せや。……けど、粘り強く砦を守っていた砦側に、ついに反撃の狼煙が上がんねんよ」


「お?」


「どこからともなく現れた6人の戦士。彼らは謎の術を使こて眞性異形ゼノグロシアを次々に倒していったんや」


「6人の戦士……ですか……!」


「せや」


 おお……ヒーロー参上ですね? ギリギリで登場とか王道を行くなぁ。

 おとぎ話にしても、子供たちが喜びそう。……もうなってるかもしれないね。


「……その、謎の術って、ひょっとして」


「ん。ウェルメイドワークスの事や。どないしてそんな術をその6人が使えるようになったかは伝わってへんけど、ウェルメイドワークスは彼らによって広まったという事になっとる」


 少し右手を握り、開きする女王様。

 女王様も、何かしらウェルメイドワークスとか使えそうだな……。


「6人は人の希望となり、先陣を切って戦場を駆った。小さな勝利、大きな勝利を積み重ねてファーレンガルドは次第に眞性異形ゼノグロシアを押し返して行ったんや」


「カッコいいですね! 人々が勇気を盛り返していくのが見えるような気がします」


 うんうんと頷きながら、勝利に湧く人たちの姿を思い描く。


「実際、時の人々の活力はどんどん増していったみたいやね。6人は戦いの行方のみならず、人々の生活も気にしとってな。破綻した流通経路を復旧して、物流を戦い以前よりも盛んにした言われとるんよ」


「あー……それが今に続いて、この国を賑やかにしてるんですね、分かります」


「その通りや、なかなかよう見てるな」


 女王様が微笑みながら、柔らかくうなずく。

 女王様の話と、ここに来るまでに見た市場の活況が、簡単に結びついたからね。


「そして魔王軍の勢力が大分弱まった頃、6人はついに戦いに終止符を打とうとしたんや」


「……決戦、ですね」


「そう。そして、その最後の戦いへと旅立とうとした6人の戦士たちに、武器が作られ、渡された。その武器を手に、戦士たちは魔王城へと続く山岳へと足を踏み入れたんやが……」


 一度、女王様は目を閉じて、大きく息をつく。


 その理由は分かる。

 ……あたしも結末を知っているから。


「その山へと入っていくのを見送られたのを最後に――」


「帰って、こなかった……」


 再び女王様があたしの言葉にうなずくも、今度のものは、さっきよりも重々しく感じられた。


 すっと遠くを見るような目で、女王様は言葉を続ける。


「戦士たちが頑張ったんやろな、それから数年は山岳地帯から眞性異形ゼノグロシアが現れることはなかった。……せやけど奴らは消えることなく、魔王城守っとった。そこからは小競り合いや、時々大きな戦いはあったけど、魔王軍と王国軍との間で、一進一退が続いて今に至る――言う訳や」


 ふぅ、と女王様がまずひと段落と言うように、再び息をついた。


「……700年前のこと、結構よく伝わってますよね」


 王家みたいな格式ある家柄だと、こういうのは伝わりやすいんだろうけど、700年はやっぱり長い。


 さっきも考えた事だけど、700年前と言えば日本なら……確か元寇の後? 鎌倉幕府の滅びる頃だ。

 その頃あった色々な戦いについて、確かに色々伝わってはいるけど、今の女王様の話ほどには具体的には伝わっていないと思う。……歴史学者さんには苦情を言われるかもだけど。


「イツカの持つその武器」


「え?」


 女王様の視線が、あたしの腰に注がれる。


「それもその700年前の生き証人、みたいなもんやで?」


「……この武器が、ですか?」


 あたしは剣に手を触れた。




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