第28話 「魔王の目的は……一体」
魔王炉の制御とかいうのがあるみたいから、プルパをあんまり感情的にさせたくはないけど、聞いてみる。
「プルパはその、異世界の魔術師って人の顔は見た? どんな人だったの?」
「しけたおっさんだったし……じじいって呼んでもいいぐらいの……。でも……見た目からずる賢いあの顔を……プルパは忘れたことは一日だって無いんだし……!」
しけた、おっさん……じじい……。
……心当たりはないな……。
というか、逆に括りが広すぎて特定できる要素がないとも言う。
「そしてその『異世界の魔術師』は、そのまま魔王城の玉座の前に現れたファフロスゲートの側に鎮座しているって話よ」
「なるほど、今のファーレンガルドの『魔王』っていうのは、そのプルパの言う『異世界の魔術師』って人を指すと」
「そう」
「プルパの言う魔王様は偉大で優しくて……本当なら絶対あんな奴に負けない人だったんだし……。様をつけて崇め奉って、区別するといいんだし……」
まぁ、一緒にされたくないよね。
とにかく、何となくごちゃっとしてた『魔王ってナニ?』問題は、これでひとまず整理できたとみていいだろう。
「そして……現魔王は、今に至るまで700年の間、眞性異形を生み出して、ファーレンガルドの人々の驚異となっている……」
「その間、誰も手が出せなかったの?」
「いえ……実は700年前、その魔王が現れた時、何人かの戦士たちが魔王城に挑んだって話。ウェルメイドワークスはその時に生まれたの」
「おお、そんな伝説が」
「その戦士たちは、眞性異形の驚異からファーレンガルドを救うために、魔王城に向かったけど……結局……帰ってこなかった」
「そっか……。……で、未だに眞性異形が現れてるってことは」
「言わずもがな、よ。そしてその後700年の間に、魔王城に挑めた人たちのことについては、私達エルフ族の伝承でも伝わっていないわ」
「プルパは寝てて、その人たちの事は知らないんだし」
「うーん……」
情報が多すぎて、いろいろ引っかかることはあるんだけど、この辺の情報で、特にあたしが気になってることが一つあった。
「魔王の目的は……一体何なのかな」
「魔王の、目的?」
「うん」
ランはあたしの問いに、少し間をおいて答えてくれた。
「……ファーレンガルドの人間を滅ぼすこと、と言われているわね」
「……にしては700年とか悠長だなーって思うんだけど」
そう、ここだ。
「攻め手を欠いてるとか言う? でも700年もあったら流石にどんな形でも決着とかつきそうだなって思うんだよね。だけど聞いてると、700年間、この膠着は変わってないみたいに思えるの。その辺どうなのかな」
「……確かに言う通りね。振り返ってみれば、この状況は確かにほとんど動かず700年続いているように感じる」
ランは少し考える素振りを見せるけど、それを見ていると、この世界の人にとってはそれが違和感ではないらしい。
700年もあれば文化や技術も変わってくだろうし、そもそも人も何代も入れ替わる(亜人種は分かんないけど)。
その間、魔王にしたって王国の人達にしたって、考え方が同じって言うのはどうも……。
「……うーん、あたしが異世界の人間だからかなぁ、価値観がわかんないんだけど、でもやっぱり700年の膠着って長いと思うんだよ。……この世界一年って何日?」
「360日よ。30日が、12ヶ月あるわ」
「うん、あたしの世界とほとんど一緒だね」
ちなみに、昨日一昨日と、この世界で丸一日過ごしてみて、体感的にも一日は多分24時間に近い。
「だとすればやっぱり長いって感じるな。700年、魔王は何してんだろって考えるの……もしかしてあたしだけ?」
「いいえ、私たちのある層も、イツカと同じ考え方をしてるわ」
「ね。そもそも滅ぼす事を考えてないとか? だとするとまた『目的は何?』ってトコに戻るんだけど」
「いろんな説があるわ。この世界は、実はファフロスゲートの向こうの世界の実験場だとか、行き場を失った眞性異形の具現先とか」
「おお、なんかそれっぽい」
「そして、ね」
ランが真っ直ぐにあたしを見て、言った。
「何かを待っているとか」
「待つ……え、何って……何を?」
と、その時、扉がノックされる。
「勇者様、誠にお待たせいたしました。我らが国王様がお待ちであらせられます」
「ぁ……はい」
いけね、ここへ来た目的を忘れてた。
でも……。
「ラン、その……魔王が何かを待つって言うのは……?」
「伝承に結びついた、この国の魔道研究の推論の一つよ。じゃあ、それはもっと詳しい方に聞いてみましょうか」
「詳しい方?」
「700年続いたハインヴェリオン王国の、幾多の伝承を引き継いできた国王陛下に謁見よ」
(伝承を引き継いできた、か)
なるほど……ただ会うだけじゃない、そんな謁見になりそうだった。