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第27話 「魔王っていうのはどういう奴なの?」

「魔王炉……まおう……魔王……」


「どうしたのー、イツカー」


 と、あたしの顔を覗き込んで来るリロ。


「……ああ、ゴメン。……その、ね?」


「ん?」


「魔王っていうのはどういう奴なの?」


「え? 魔王、は……」


 プルパと顔を見合わせるラン。

 ちょっと、質問が漠然としすぎた。


「プルパが言ってたよね。『魔王』は異世界の魔術師に殺されたって。でも魔王は今もいるんでしょ?」


「あ……ああ、ああ」


 ランとプルパが、もう一度顔を見合わせて頷き合う。


「プルパの言っている『魔王様』と、今のこの世界を脅威にさらしている『魔王』という存在」


「うん」


「この二人は、別の存在なのよ」


「別?」


「一言でいうと時代が違うんだけど。……えーとね」


 ランが少し小首をかしげた後、頭で内容がまとまったらしく、語りだす。


「元々、このファーレンガルドは、別段魔に属する者たちと聖に属する者たちの間で、憎しみあったり諍いを起こしたりはしてないの」


「……あぁ、さっきのオークの執事さんとか、町中のオーガとかゴブリンとか、フツーに人の中で生活してるもんね」


「そう。……大昔はそういう事もあったらしいけど、プルパが『魔王様』と呼ぶ人が、魔に属する者たちを統治してからは、聖に属する人間たちと魔に属する者たちとは、時には手を取り合って難局を乗り越えたって話。それは今にも続いてる」


「……なるほど、あんまり魔王っぽくないね。あたしのイメージだと『人間を滅ぼすぞー!』な人だから」


「プルパの魔王様はそんな事しないんだし……」


「……いい人だったの?」


 イメージだけで、聞く。


「……みんなに優しかったんだし。すごい力を持ってても、それをひけらかしたりしなかったんだし……」


「そうなんだ……」


 この辺、色々この世界、あたしの知ってるファンタジーのイメージとは切り離して考えるべきなのかもね……。


「でも、700年前のある時……異変が起きた」


 ちょっと芝居がかったように、人差し指を立てるラン。


「この世界に現れたファフロスゲートを潜ってやってきた異世界の魔術師。その人物が、眞性異形ゼノグロシアを率いて魔王の城に突如現れたの」


「異世界の……!?」


 あたしはその言葉に覿面に反応する。


「まさか……あたしと同じ世界から来たとか……」


「……それは……分からないんだし。異世界って言ってもいろんな異世界があるはずだし。イツカの世界の人かどうかは……分からないんだし……」


「……ん……」


 まぁ……そうだよね。

 確かにあたしの世界から来た人って保証はない。


 でももしもあたしの世界から来た人だとすれば、700年前って……西暦1300年代とか? 鎌倉時代の終わりごろだよね?(日本史は割と得意教科!)

 魔術師とかいうと……陰陽師とか考えたりする厨ニ脳をお察しください。


 しかし、日本から来たって保証もないしな……どんな人なんだろう。

 そう考えると会ってみたい気はするんだけど……。


 でもあたしはそんな魔王を倒しに来たんだ。

 これ……直接対決の時って、一体どうなるのかな……?


 まぁ、今は考えるだけ無駄な話。別の考えに頭をシフトする。


「……その、プルパの魔王さんは、その魔術師を防げなかったの?」


「ゲートが現れたのは、魔王様の王の間だったんだし」


「王の間って……言ってみたら、城の本陣だよね?」


「そう。……突然のことだったらしいわ。そりゃ守られるべき王の間に敵の本隊が現れたら、どんな国も対応は簡単じゃない」


「魔王様は、なんとかその異世界の魔術師を倒そうとしたんだし……。だけど……どういう訳か、魔王様の作った武器や道具をその魔術師は簡単に破壊しちゃったんだし……」


「……手に持ったら、とか?」


「ううん。あれは何かの術だと思うんだし……」


 ふむ……どうやらあたしとは壊し方が違うみたいだな……。


「魔王様は、みんなを守ってくれて……そしてプルパも助けてくれて……」


「え……?」


 遮っちゃ悪いと思ったけど、その言葉で流石に聞かなきゃと思ったのは。


「プルパって……もしかして700年生きてるってこと!?」


「うーん……まぁ、そうなんだけど……正確にはそうじゃないんだし……」


 人差し指を顎に当てて、ちょっと思い出すみたいに宙を見つめるプルパ。


「プルパは、その戦いの時に、魔王様に眠らされて、転移の魔法で魔王城の外に飛ばされることだったんだし」


「眠らされて、飛ばされた?」


「あの異世界の魔術師の特技は、精神操作なんだし。相手の心を乗っ取って、戦いに使う。魔王様の側近のみんなが何人も餌食になって……魔王様は手が出せなくなったんだし……あいつ卑怯なんだし……!」


「プルパ、抑えて」


「ぅゆ……」


 興奮すると、プルパは一昨日みたいになるのか、ランがたしなめる。

 頷いたプルパは言葉を続けた。


「……プルパは、魔王様の軍の中でも飛び抜けて魔力が強かったんだし」


「魔王炉って奴で?」


「そうなんだし。そんなプルパが操作されちゃいけない、魔王炉の魔力が使われちゃいけないって、炉の回路と一緒に休眠状態にされて、王国の墓地に飛ばされて700年近く寝てたんだし……」


「プルパが見つかったのは本当につい最近よ。色々あったけど……リロのお陰で、今の時代の人にも心を開いてくれてるわ」


「えへへ、ボクとプルパは、仲良しさんだからね!」


「むゅ……」


 満面の笑顔の、リロの頬ずり。

 気難しそうなプルパだけど、それを表情一つ変えず受け入れてるのは、リロ自身を受け入れてるって事なんだろう。プルパがこの時代に溶け込んだきっかけはリロみたいだね。

 ってか、かわいいな、このセット……。


「そっか……じゃ、プルパはコールドスリープみたいな状態で700年眠りにつかされていた。700年前の事情を色々知ってる女の子ってワケなんだね」


「ぁぅ……えと……」


「ん?」


 なんだか気まずそうにプルパは少しもじもじした後に言う。


「プルパはその……何かの事故で死んじゃった人間の女の子をベースに、複合生屍アンデッド・アッセンブルとして生き返ったんだし……多分、プルパのこの性格は……その女の子のものなんだと思うんだし……。でも……その女の子の記憶は……プルパにはないんだし……」


「……そうなの?」


 頷くプルパ。


「んで、あの700年前の事は、プルパが複合生屍アンデッド・アッセンブルとして生き返ってから、半年で起きた事なんだし。……プルパは魔王城から出た事がなかったから……あんまりあの時代の世界の事とか……良く知らないんだし……」


「そうなんだ」


 うーん、この辺何やら事情が複雑そうだな。


「でも、あの日の事は、よく覚えてるんだし……!」




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