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第21話 「じゃ、今からでも友だちになれたらいいね」

「そん……な……」


 体から力が抜ける感覚で、その体を抱いたまま、へたり込むあたし。



 今、あたしは何をした? 一体、あたしに今何ができた?



 ……具体的にはわからない。

 でも、確かにあたしは元の世界で過ごしていたあたしにはない『力』を扱うことができていた。


 その力に……もっと早く気づくことができていれば……!


「リロっ! ひとまずあいつを引きつけるっ!!」


「あいっ!」


 コートの人と角の生えた女の子は、手にした武器と、ペットとで巨像の注意を引きつける。


『……!!』


 狙い通り、巨像はその二人を追い回し始め、あたし達から危険は遠ざかる……。


 でも……この子は……もう……。


「ゴメン……なにも……なにもできなかった……」


 あたしは自分の無力さを痛感し、プルパの遺体の前で、ただただ項垂れるしかなかった。


 何が勇者だ……何がチートだ……!


 結局……誰も救えない勇者なんかに……一体どんな価値が……!



「ぁ……ぁぁっ……」



「っ!?」


 ぎょっとしてあたしは顔を上げる。


「生き……てるの……!?」


 ずりずりと、頭を捻って、こちらに視線を向けてくるプルパ。


「プルパは……複合生屍アンデッド・アッセンブルだから……この程度じゃ死なないんだし……っていうか、ホントはもう……死んでるんだし……」


「あ、アンデッド……って……」


 ホントにゾンビとかだった。

 遺体じゃなかったけど、遺体だったらしい。


 ああ、もう! 混乱した頭でいらんこと考えなくていい……!


「どうして……助けたんだし……」


「え……?」


 プルパの問いが、一瞬わからないあたし。


「プルパは……オマエのこと食べようとしたんだし……殺そうとしたんだし……。……なのに……どうして……」


「……」


 ……どうして。


 それを聞かれて、あたしは理由なんてものの存在に気付かずに動いてたって、気付いたけど。


 でも、あたしの行動の根底にあって、フラッシュバックするものは一つ。


「先に……助けてくれたでしょ」


「え……?」


「あたしのこと食べないようにって、必死な顔。……頭から離れないよ」


「そ……それは……」


 視線をそらす顔が、わずかに赤みを帯びたように見えた。


「だから、それに」


 ……うん。言葉にして、納得した。

 この子は自分のこと、アンデッドなんて言ったけど、心はちゃんと人だったって頭にあって。


「……眼の前で死にそうな人がいて……助けられるなら……助けたいって思っただけ」


「……」


「で、もう一個。これがあたしには大事」


「大、事……?」


「あたし……あなたの物を壊しちゃったから」


「……え……」


 一瞬プルパはきょとんとするけど。


「まおうさまの……タリスマン……?」


「……って言ってたよね。ごめんなさい、本当に。……でも、物を壊しちゃった人とは、絶対に仲直りできるように頑張るって決めてるの。だから、あなたとも……仲直りしたかったから……」


「なか……なおり……」


 じっとあたしを見ていたけど、なんだかバツが悪そうに目を逸らしたり、またあたしの顔を見たりしながら。


「プルパとオマエは……仲間じゃなかったし……」


「んじゃ、今からでも友だちになれたらいいね」


「ぅ……」


 あたしは多分、こんな状況で少し微笑んでたんだろうけど、それを見たプルパは今度こそ本当に顔をほんのり赤くしてたと思う。


 と、その時。



「……助けたいって思って、体が勝手に動いちゃう。……確かにあなたは神託で語られるにふさわしい子のようね」



「え……?」


 不意に背中から声をかけられて振り返る。


「……ぁ……」


 そこに立っていた物静かな声の主は、長身の、メガネを掛けた女の人。

 そしてその耳は……長く、尖ってる……?


(この人……ひょっとして……ファンタジーで言うところのエルフさんでは……?)


「……ラン……」


 プルパが、そのランと呼ばれたエルフさんに小さく声を掛けると、エルフさんは頷く。


「……プルパ。もう大丈夫よ」


 そう言ってあたしにその手に持っていた物を手渡した。


「これを」


 その手渡されたものとは。


「……剣……?」


「……見つかるのが早くて良かったわ。ここへ来る途中、剣に宿っていた加速のスキルが発動した。……あなたで間違いないわね」


 見事な朱塗りにも似た色の鞘。

 意外と細身の剣だというのがわかる。

 湾曲はしてないけど、日本刀より少し広いぐらいの幅だろう。


 そしてその柄の装飾は見事で、4つの火が象られたものに見えた。


(これっ……て……まさか……)


 ……あたしにはその意匠に見覚えがあった。


 鞘の朱さもまた、炎を意味しているのだとすれば。


(あたし、なんじゃ……)


 ……。


 でも、今はいい。

 吸い込まれるように、それを見つめていると……!


「っ……」


 促される。


 そう、何かに。


 何かに促されるままに。


 あたしはその剣の柄を握り締めると。


 誰に言われるでもなく。


 最初からそれをすることが決まっていたかのように。




 すらりと鞘から剣を抜き放つ……!




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