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第20話 「プルパはそんなことしちゃダメだっ!」

 地面を転がるプルパの身体。

 そして、あたしのそばに小さな動物が一匹すっくとプルパとの間に立つ。


 黄色と白の、複雑な模様を体に持った、金色の綺麗なたてがみの馬……なんだろうか?

 でも大きさはあたしの膝ぐらいあるかないか程度で、ものすごく小さいサイズの馬だ。


(キリン……とか……?)


 あの動物園の首の長い奴じゃなくて、なんか本とかで読んだ想像上の動物に、こんな姿の動物がいたような。


 でも、なんと言うか、あんな厳つい姿とかじゃなく。

 感想なんてものをこの緊迫した中で言っていいなら……なんだかよくわからないけどとても可愛い感じ。


 そして更に走ってくる音。

 それと共に、その動物の脇に飛び込んできたのは……!


「プルパっ!! ダメだよ、プルパっ! プルパはそんなことしちゃダメだっ!」


「え……」


 そこに現れたのは、大きな帽子から角をはやした女の子と。


「チッ……混濁した精神のせいで、魔王炉の魔力の制御に失敗してやがる……! 屍人脳に魔力が及んで活性化してるぜ、アレは……!」


(竜……?)


 そう。

 今度はドラゴンと思しき頭を持った、コート姿の銃を構えた人だった。


「おい、小娘ェっ!!」


 と、その人は声を上げつつ、真上に銃を向けて引き金を引く。


 白い煙の尾を引いて上がっていった弾が、ある高さまで上がった後に、黄金色の光を強く夜空に放った。


「ぇ……あ、あたし……?」


「他に誰がいんだ、手ェかけさせんな」


 その竜の人はあたしへと振り返りながら言う。


「テメェの素性は大体分かってる。……今から手伝ってもらうぜ?」


「てつだ……?」


 と、いきなりその人は銃をあたしに向けて、更に引き金を引いた。


 一瞬焦ったけど、あたしのそれが恐怖になる前に――銃弾は正確にあたしを拘束していた氷を一瞬で破壊し、事は済んでいた。


「ぁ……うごく……」


 体の状態を確認している間に、その竜の人は再びプルパへと振り返って。


「ちょっとじっとしてろ。……今テメェに必要なモンが最速で届くからなぁっ!」


「……必要なもの……?」


 何を言われているのか分からなかったけど、それを悩む間もなく、竜の人の向こうでプルパの手が怪しく輝いているのが見えて、緊張が走る……!


「チィっ!!」


「『氷龍の棘フローズン・ファランクス』……!」


 8本ほどの氷の槍がプルパの前にずらりと並ぶ。

 そして、一瞬の間の後、それが一気に放たれた。


 その速度たるや凄まじく、あっさりと竜の人を貫くかと思われた。


 でも、その竜の人が両手に持った銃の引き金が引かれる。


 銃声は一発であったかのように聞こえた。

 ただ、一発にしては少し長く感じた気がしたけど――そんなことはどうでもいい。


 問題はその結果。


「……な、何……? 氷が……全部……!」


 そう、その一発で全ての氷の槍が粉砕されている。

 粉々になった氷の粒が、闇夜の中できらきらと周囲に舞う。


 でも、それを見ても竜の人は気を緩めない。


「リロっ! 『お友達』は出せんのかよ!?」


「……ゼノグリッターの量が足りないよっ! それに……みんなボクと一緒でプルパのこと大好きだから……多分攻撃できないと思う……りんちゃんも、これ以上は……」


「仲がいいのも考えもんだぜ……!」


「ぐるぅぁぁぁああああっ!!」


 そんな二人の考えなど気に留める事もなく、プルパは雄叫びを発した。

 それで再び彼女の前に氷の槍が現れる。


「やべぇ、リロードが間に合わねぇ!」


「……りんちゃんっ!! プルパに誰かケガさせらんないよっ!」


 その声を聴いてか、小さな黄色の馬は二人の前に躍り出て、プルパへと身構える……!



 と、その時だった。



 めきめきとプルパの向こうの大木が一気に数本倒される。


「……え……何……っ!?」



 『それ』が身を低くして、木をかき分けるようにして身を低くする。



 『それ』は無機質な巨像だった。



『……』


 大きさ、10mは下らない人型の巨像。

 その材質は黒い石か何かのようで、綺麗な流線型のそれらが積み上げられて作られているようだった。

 そしてその肩口に、あの紫色の鉱石が固まっている場所が見える。


「……がぁぁぁっ!!!」


 氷の矢を出現させていたプルパが振り返り、その手を巨像に向けてかざす……!


 でも、術が巨像に影響を及ぼす前に……!


『……!!』


「ぅぐぁっ!?」


 うめき声と共に、その小柄なプルパの身体は巨像の手に掴まれた。


「プルパぁっ!!」


「ふざっ……けんな! 巨像コロッサス種じゃねェか! あんなモンまで来てるとはよ!」


 二人は捕まったプルパをあの巨像から奪い返すべく各々の攻撃を行う。


 しかし、その攻撃が功を成す前に……!



『……!』



「……ぇげあぁぁっ!!?」



 ばきばきっと、歪な音を立てて……。


 プルパの身体は巨像の巨大な手の中で、その万力のような力で握り絞められ、びくびくとその体を震わせて……ぐたりと力なく頭を垂れる……。



「……ぅ怒ったぁぁっ!!! りんちゃん、おねがいっ!!」



 角の生えた女の子が、そのかわいい容貌からは想像も出来ないほどの形相で目を見開いて、側の子馬に叫んだ。

 子馬はそれに応じて、勢いよくその場から飛び出す。


 直後、鈍い音が響いて……!?


『!?』


 その小柄な小動物の身体に、どんな力が籠められていたのかわからないが、一瞬で巨像の腕の前に飛ぶ子馬。

 そしてその空中で前後を入れ替えたらしいその後ろ脚による蹴りの一撃で……!


『!!!!?』


 ……巨像の腕が吹き飛ぶ!


 そして、力が抜けた――という表現が正しいかどうかは分からないけど――その手から、プルパの身体が投げ出された。


「ぁっ……」


 5m近い高さから放り出されたその小さな体が宙に舞う。



 それを見た瞬間――



「……ダメぇっ!!!」


 あたしの身体は動いていた。



 ……ただ。



(……えっ……!?)



 自分でも違和感を覚えるほどのロケットスタート。


 気がついた時にはプルパの落下点をあっさりと通り越していた。


「……何だっ!?」


「うわわっ!? りんちゃんよりっ……!?」


 そんな声が、少し低く聞こえる……。

 不思議なことに周囲が少しスローモーションになった感じ……!


 そんな中、あたしは慌てて身体を反転させて地面を蹴る。


 全く意識せずに、あたしはプルパの身体を抱きとめた形で、ほぼ元の場所に戻っていた。


「くっ……!」


 急ブレーキ。

 あたしの腕には柔らかな人の体の感覚が確かにあった。



 でも……。



「っ……!?」



 腕の中で力なく首をたれていたその女の子の体は、体のあちこちがありえない方向に折れ曲がり、骨が突き出したり、傷口から内側のものが飛び出したりしていた……。



 それは確かに、人の体だった。



 ――生の営みを失った、人の……。




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