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第18話 「騎士団諸君! 命をその手に掲げよ!」

「奇襲は失敗だ、止むを得ん! それでも我らは役目を果たす!」


「しかし副団長! 側面からならともかく……我ら20人余りの1個小隊で、あの中隊規模の敵に正面からぶち当たってどれほどの戦果が……!」


「分かっている! だが、ここで少しでも足止めができればいくらか本隊への戦力は削れる! 騎士団諸君! 命をその手に掲げよ!」


 騎士のみんながその手に槍を構える。

 そして馬を操り、道幅いっぱいに列を作っていく。


「プルパ、タリスマンを!」


「……ぁい」


 副団長という人が、プルパって子から何かを受け取る。

 ……もやもやと深緑色の光を放つ、怪しげな水晶玉に見えたんだけど。


「おい、少女!」


「……。……あ、ひゃいっ!?」


 一瞬呼ばれたことに気付かないでびっくりしておかしな返事を返すあたし。


「これを持っていろ!」


「え……はっ、わっ!?」


 軽くそれを投げて寄越されて……。


「後ほど聞かねばならない事は山ほどあるだろう! しかし今は措く! それを手にしてどこかに身を隠していれば『ぱりんっ!』奴らの攻撃は……ぱりん?」


「あ……」


 副団長があたしへと顔を向けると、果たしてへたりこんだあたしの足元には、ものの見事に真っ二つに割れた水晶玉が転がっておりまして……。


「な、なんとぉぉぉぉっ!? ま、魔王のタリスマンがっ!?」


「ゴメンなさいゴメンなさいゴメンなさいぃぃっ!」


 あたしは平謝りに謝る。

 異世界来て早々、ご覧の有様だよ……。


 と、その副団長の馬からプルパが飛び降りてきて。


「……っ……!」


 信じられないという顔でその割れた水晶玉を見つめていた。


「あ……あの……」


「プルパの……タリスマンは……魔王様の印が刻んであるんだし……」


「え……?」


 魔王……様……?


「落としたぐらいで……割れたりしないんだし……どうして……」


「ごめんっ! ゴメンなさいっ!!」


 引っかかる言葉はあったが、今はいい。

 あたしにとっては自分がしてしまったことのほうが大切だった。


 でも、どんなに謝っても、その女の子は呆然と割れた水晶玉みたいのをぼうっと見つめるだけで、リアクションをしてくれなくて……。


「プルパっ! おい、どうしたプルパっ!?」


 その副団長の呼びかけにも応じない。


 ……いや。


「……」


 よく見ると、その目はもう、水晶玉に注がれてはいなかった。


 愕然とした表情でカタカタと眼球は動き……あたしにはそれは、『何かの記憶を辿ろうとしている』ように――


「副団長っ!!」


「わかっているっ! 少女よっ!」


「は、はいっ!」


「さきほど言いかけたのだがっ!」


「はいっ!?」


「君が何者かは俺には分からんっ! しかし、人であれば我らハインヴェリオン王国スタリット騎士団は決して見過ごしたりはせぬっ! 必ず君を我らが守ってみせるっ!!」


「で、でも、あたしはっ……!」


 勇者としてここに、なんて言おうとしたけど、言葉が出なかった。

 ……言えるわけがない。なんだよ、そもそも勇者って。


 そしてあたしがまごついているに、その副団長は、大きく息を吸い込んで、気合一閃――!


「騎士団! 突撃せよぉぉっっ!!」


「おおおぉぉぉぉっ!!」


 その人の号令で、甲冑の騎士たちは道で一気に馬を加速させ、こちらに向かってくる怪物たちへと槍を突き出す。


 柵槍となった騎士団の槍は、その加速のままに、小型の化け物たちに突っ込んでいく……!


 ……接触!


『GeGiaaaaaaaaaa!?』


『GiHiaaaaaa!!』


 モンスターたちの先頭集団が、騎士団の突撃で何匹も吹き飛んだ。


「すご……!」


 布を貫き、切り裂くように敵の集団を割っていく勇敢なる騎士団の姿を、こんな形で見ることが出来るのは鮮烈なものだった。


 だけど、それは長続きせず。


『GoooooooRoooaaaaaaa!!』


 足元に小型の生き物たちがいては馬たちも無理に進めず、そのまま敵とくんずほぐれずの乱戦になる。


「適宜、抜剣せよっ!!」


 その号令で騎士団は槍で地上を突くものと、剣と盾で近づいてくる巨大なモンスターに応対するものに分かれ始めた。


 足元に纏わりつく子鬼たちは、槍を捌き切れない者たちから次々に貫かれていく。


 でも……なんていうか……。


(何……? 全然倒れない……!?)


 そう、じっと見ていて気付いた。

 見ていて気持ちのいいもんじゃないけど、槍に刺されて子鬼達はひとまずよろめく。


 でも、それで戦意が削れることはなく、弱ってはいるみたいだけど持っている武器をぶんぶんと振り回すのをやめようとはしない。


「だぁぁぁっ!!」


『GaGyaaaaa!!?』


 がちんっ! という固いものを砕く音と共に槍に胸を貫かれた子鬼が、何かを飛び散らせながらやっと地面に倒れて動かなくなる。


 飛び散ったのはあの体にまとわりついていた歪な紫色の宝石だ。

 その塊のような所を貫かれて、子鬼は絶命したようだった。


 でも逆に言えば、そうしなければ、あの鬼たちは攻撃の手を緩めようとしないって事。

 今の音から察するに、アレって相当硬いんじゃ……!


「副団長! ジリ貧です! ワークスの使用許可を!」


「認めるっ! 各個の判断でゼノグリッターを使えっ!」


 何事か言葉をかわした騎士団員の人と例の副団長。

 その騎士の人が、少し仲間の影に隠れるように身を引いて、馬から身を乗り出すように地面に手をかざす。


「『ウェルメイドワークス』……!」


 その手をかざされた地面には、かなりの量の紫色の鉱石――子鬼たちの体から飛び散ったらしいものだった。


 騎士の人のその言葉に合わせて、うっすら光を放っている。


 そして光がゆっくりとその手ひらの真下に集まって、一本の――あまり形は綺麗じゃないけど、鋭い槍を作って……!


「『鋭槍アルトピラム』っ」


 それは魔法の槍だった。

 作られた槍を握って、その人は敵の集団へとその槍を、低い姿勢のまま、サイドスローのように投げつける……!


「だぁぁぁっ!!」


 その槍は、投げつけられた直後、ぐんっ、とスピードを上げたように見えた。

 その速度をもって槍は……!


『GoGiaaaaa!!?』


『GeAaaaaaaaaaaaa!!!』


 子鬼たちを2、3匹まとめて貫く……!

 あれほどタフだったにもかかわらず、貫かれた子鬼たちは、それであっさり動かなくなった。


「よっしっ! 助かったぜ!」


「くっそ、でも変換効率が低い……!」


 槍を作った騎士は悔しそうにつぶやいた。


 それに続いて2、3人が同じく槍や矢、斧らしきものを作って敵に飛ばす。

 何体かは、それを真正面から受けて吹き飛んだりはした。


 でも、状況は好転しない。

 散らばっていた魔法の原料と思われる鉱石は一気になくなってしまい、騎士団は敵に有用な武器を失う。


 それに、何せ数が多くて、見える限り100匹以上のモンスターが見えるのに、騎士団の人たちは20人ぐらいじゃ……!


『GuOooooooaaaaaaa!!』


「ぐぁぁっ!!?」


 騎士の一人が不意を突かれて、2m以上はありそうな鬼人に、持っていた巨大な棍棒で横殴りに殴られて馬上から転がり落ちる。


「……ぐぁはっ!?」


『GeeeGyaaaaaaaaaa!!!!』


『GyaGyaGyaaa!』


 そこへ殺到する子鬼たちが無残にその騎士をその小刀や粗末な槍、棍棒などの餌食にしてしまう。


「ぅおのれぁぁぁっっ!!!」


 副団長が踊りこんで、手にしていた槍で子鬼たちを弾き飛ばす……!

 ……凄い力だ。その槍の一振りで、7、8匹の子鬼を一瞬で吹き飛ばしてしまった。


「無事かっ!?」


 倒れた騎士は体を丸めて身を守っていたみたいだったけど、体のあちこちに刺し傷や切り傷、力いっぱい振り下ろされた棍棒によって作られた甲冑に浮く打撃跡も痛々しく……身動きが取れそうには見えなかった。


「副……団長……っ……申し訳ありません……」


「休んでいろ! くっ……このままでは済まさんっ……!」


 副団長が憎々しげに鬼たちに群れに視線を向ける。


 ……しかし。


「ぐぁぁっ!?」


「うぉああああっ!?」


 そうこうしている内に次々に打ち倒される騎士が、一人……また一人、馬上から崩れ落ちていく……!

 多勢に無勢を絵に描いたようだった。


(……逃げて……にげてっ……!)


 あたしはいつしかそんな事を祈っていた。

 それでも退かない騎士団の行く末を……予見してしまったから……。


「少女よ! すまん!」


「は、はいっ……?」


 不意に、大きな鬼の一体を殴り倒した副団長が、声を張り上げてあたしに言う。


「押し留められんかもしれん……! ここは我々が抑えている! 今のうちに逃げろ!」


 あたしが祈っていたことを逆に言われて、あたしは一瞬息を呑んで。


「で、でもっ!」


 あたしは躊躇した声を上げる。

 だけどそこから先の言葉は何も出ず、代わりに、遮られるようにあげられた声があたしの耳に届く。


「その隣の娘……プルパも連れて行ってくれ!」


「えっ……?」


 あたしの側で呆然とした目で、宙を見つめたままの女の子を促される。


「何がカギになるかは我々も分からんのだが、そうなってはプルパは何も出来ん! だが放っておいて、むざむざ奴らに殺させるわけにも行かない! プルパはこの戦いの鍵になる娘だ! 頼むっ!」


「……わ、分かりましたっ!」


 この世界で、あたしに何が出来るか、結局今はわからない。

 でも、これができそうな人助けなら、今はこれをするしか無い……!


「……。……、……」


 プルパは何かを呟いていた。

 でも、小さくて聞き取れない。


「……い、行こうっ!」


 多少強引かと思ったが、腕を引くとプルパはあたしの誘導に従ってくれた。




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