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第17話 「ただの人間の少女が光りながら現れるなど……!」


 白い闇と無音の中に佇むあたしを、一気に押し寄せて潰してしまいそうな、そんな圧が最初の感覚だった。



 ……。



 …………。



(……ん……?)



 ――声。



 咆哮とも言えそうな雄叫び。


 それが重なって出来た音が一気に膨らんで、あたしの周囲を制圧する。


「……ぅくっ……!」


 顔を覆っていた両腕を少し開く。


 ……閉じていたあたしの目を突き刺すような光は感じられない。


 どうやらあたしは神様のところから、飛ばされた異世界という場所に辿り着いたらしかった。


 恐る恐る、目を開く。




 ……と。




「……ぅえぇぇっ!!?」


 あたしはびっくりして声を上げることしか出来なかった。


 馬と思しき四足の動物に乗った、全身鎧で身を固めた人たちが、あたしの周囲を20人ぐらいで取り囲み、それぞれが手にしていたハルバードの先端を突きつけている。


「ちょっ……ちょちょちょっ……!!?」


 どう声を発していいかも分からない。

 何を言えばこの場の窮地を脱することが出来るかも分からずに、あたしはただただ上擦った声を上げた。


「女っ……! 貴様何者だっ……!!」


 槍を持って取り囲む人たちの外から、声をかけられる。


 そこには一際大きな体格の、鈍色の重甲冑を纏った、この集団のリーダーらしき人。

 周囲の人たちと同じ、馬らしきものに跨り、兜のバイザー(でいいのかな?)の部分を持ち上げて、鋭い目つきであたしを睨みつけていた。


「あ、あたし……は……」


 ……。……二の句が継げない。

 名乗ったところでどうなるってんだろう?


 なんか神様はあたしを『勇者』としてこの世界に飛ばしたって話だけど、この状況……どーみても歓迎されてるとは思えないワケで。

 ……言葉は言われた通り、通じるみたいだけど。


「……副団長! どうなさいますかっ!?」


 しびれを切らしたらしい別の兵士の人が、そう声をかけたのを見ると、やはりその人はリーダーで正しかったらしい。


「うむ! 怪しい事この上ないッ!」


 ……分かってたけど、そう断言されるとちょっと凹む。


「見たこともない衣装を身にまとい、このような状況の中に光りながら現れるなど! 全員気を緩めるな……!」


「ですが、このままでは作戦行動に遅れが……!」


「分かっている!」


 と、その人は顔を少し横に傾けて声を発した。


「……彼女をどう見る?」


 それは彼の後ろに向けて、かけられたらしかった。


 そしてその声に応じるように、彼の背後からひょこっと、濃い紫色のローブを纏い、フードをかぶった小柄な影が現れる。


 最初、そのフードに目元が隠れて、その影がどんな人なのか見えなかったけど。


「……」


 その目がまっすぐにあたしに向けられる。


 小さな女の子だった。

 左目は包帯で覆われていて、顔色もどうもかなり悪いように見えたんだけど。


「……ゼノグリッターとか感じられないし……多分、人間の女の子なんだし……」


 その子はぼそぼそと声を発し、その喋り声は辛うじてあたしの耳に届く。


「ぬぅ……! しかし、ただの人間の少女が光りながら現れるなど……!」


「『ただの』とは言ってないし……ジルバはもう少しプルパの話を聞くんだし……」


「むぅ! すまん!」


「謝り方がなってないんだし……」



 そう、それがこの世界――ファーレンガルドで初めて出会った人たち。

 そしてあたしと幾多の試練を乗り越える仲間との最初の出会いだった。



「……」


 その子――プルパと名乗った女の子は、困り眉の逆さまどんぐりぎゅるぎゅるまなこであたしの事をじっと見つめ、あたしが何者たるかを汲み取ろうとしているようだった。


 だけど、その時はあまりにも時間がなさ過ぎたらしく。


『GyaHaaaaaaaaaaaaaaa!!!』


「ぬぅぅぅっ!?」


「副団長! 奴らがっ!!」


 あたしは周囲を見回す。


 時間は夕方過ぎぐらいだろうか、もうすぐ日が落ちそう。

 騎士団の人たちは、少し開けた道のど真ん中に集まっていたらしい。……よくもまぁ、あたしは更にそのど真ん中に現れられたもんだ。作為的な何かを感じるぞ。


 開けた道とは言っても、周囲は森らしかった。だから薄暗いってのはある。

 騎士団が馬を向けている方向は、一度右に僅かにカーブを描いてから、真正面に見える木々の向こうに見える、別の更に大きな幅らしき道に繋がっていた。


 ここからだと100m先ぐらい。その大きな通りに……!


小鬼ゴブリン種……鬼人オーガ眞性異形ゼノグロシア、多数ですっ!!」


 あたしの立ち位置からすれば、左から右に。

 甲冑を纏った、大小様々な――人型だけど、人じゃない何かが走り抜けていくのが見える……!


 100体、200体……いや、もっとだろうか?

 とにかくおびただしい数のそれが、どかどかと土煙を上げて走り抜けようとしている。


「合図はまだ出していない……! 前線部隊が突破されたというのかっ!?」


「まずいです! 奴ら本陣を直接狙っています!」


「まだ間に合う! 騎士団、隊形を整えっ……!」


『GeGya!! GaGyaaaaaaa!!!』


 突如発せられた大きな声で、その場の全員が顔をそちらに向けた。


 見れば、その小人の一体がこちらに向かって、そして後ろを振り返ってを繰り返して声を上げている。


 小人の体は、どちらかと言えばその肌は白く、不健康な印象。そこに粗末な鎧を身につけていた。

 ただ、それよりも目を引くのは。


(水晶、とか……?)


 左胸から肩にかけて、紫色の水晶のようなものに覆われている。

 それがとても異質に感じられたんだけど――今はそれを気にしている余裕はなかった。


 あいつらの言葉はわからない。

 だけど、その身振り手振り。……それを見ていれば多分、誰でも何を言っているか、ニュアンスは掴むことは出来ただろう。


 『見つけたぞ!』と。


「ぅぬぅっ! 見つかったかっ!」


 恐らく騎士団はここに隠れていたんだろう。

 この道が一度カーブしてるせいで、あの道に走る大群からこの場所は、木々に隠れて見えづらいはず。


 でも目ざとい奴がいたらしい。


 そいつの声で、道を走っていた大群から、かなりの数の人間型の一団が、手に粗末なナイフや、錆びた剣、無骨な棍棒を握りしめ、こちらに向かってくる。

 そいつらも一様に、胸の辺りに紫の鉱石を張り付かせているんだけど。


 ……そんな奴らが、増える。増える……!


 50以上……まだ増えるっ……!


「うわっ……うわわっ……!」


 あたしはまた、焦ったように声を上げる。……この場に来てからこればっかりだ。

 神様は、勇者としてチートに繋がるかなり高レベルでスタートとか言ってたけど……全然そんな力、感じられないんですけど……!



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